表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/73

第25話 それぞれの役割

 お久しぶりです、ゲートの放送までに投稿したかったですが遅くなりました。 申し訳ありません......

 

「スミス大佐、同盟国である私達に情報を隠すとはどういうことですか!!」


 自衛艦隊司令部に設置されている作戦室では国防総省との連絡を終えたばかりの米海軍連絡将校相手に司令部幕僚達が詰め寄る光景があった。

 彼らは韓国大統領が松坂に繋げたホットラインによって竹島に帝国軍が侵攻していたことを知ったものの、先に情報を受けていたはずの米軍は自衛隊側に一切の情報を明かしていないどころか事変が起きて以降、韓国側との訓練を行うことを理由に自衛隊による竹島付近の偵察を妨害していたことに憤りを隠せずにいた。


「申し訳ないが、今回の件は私にも一切伝えられていないんだ」

「伝えられていない?」

「ああ、国防省はこの件に関して知らぬ存ぜぬの一点張りだ」


 スミスにとっても今回の一件は心外だったらしく、苛立ちを見せつつも用意されたコーヒーを一気に飲み干したあと口を開く。


「私の任務も解任だと言われたよ」

「え...代わりの者は?」

「来るあてもないさ...こういうのもなんだが、俺も大統領の考えてることがよくわからんよ」


 今や数少ない米軍きっての親日派と知られ、自身も日本人の妻を持つスミスの言葉を前にして幕僚達は口をつぐんでしまう。 半世紀以上も親密であった日米の信頼関係が冷え切った背景には尖閣事変以前に行われたアメリカ大統領選挙に始まる。 前大統領を押しのけて民主党公認候補となり選挙戦で勝利したアメリカ初の女性大統領でもあるフレア・クレイトンは就任すると同時に、中国との更なる協調体制の構築を口に出してきたのだ。

 米国は既に日用品の生産量の多くを中国経済に依存しており、更には近年景気低迷を受けた中国政府がそれまで限定的にしていた海外投資家向けの株式市場の門戸を広げてきたこともあり、多くの投資家達がチャイナマネーに期待を寄せていた。

 その結果、大統領の就任演説を契機に米国内では親中派が幅を利かせるようになり、中国との友好関係を強化する一方で日本に対してはこれまで結んでいた関係の見直しをする声が上がってきた。 その一環として現在、米国各省庁においてスミスのような親日派が遠ざけられるようになっていた。 

 

「申し訳ないが、私の力が及ばなかった......許してくれ」

「......」


 頭を下げるスミスを前にして幕僚達はかける言葉を失ってしまう。 この場にいる誰しもが日米同盟がこのような形で裏切られるとは思ってもみなかったものの、実は古今東西の歴史において他国に国防を担わせて独立を存続できた国は存在しない。 

 漠然とする幕僚達の姿を見つつ、鳴瀬と森村はタバコを吸うと言い残してその場を離れる。 


「やれやれ、スミス大佐には悪いけど米国さんはもう友達ではないようだな」

「彼はよくやってくれたさ、そう言わんでくれ」


 作戦室を離れた二人は護衛もつけず薄暗い通路を歩く。 自衛隊創設以降使用され続けてきたこの施設には非喫煙者保護の観点から室内禁煙が禁止されたことにより作戦室から離れた場所に喫煙所が設置され、金筋の階級章を持つ司令官であってもわざわざそこに出向かなければならない。

 愛煙家である二人にとって普段は非常に面倒な規則であったが、今回ばかりは監視役も兼ねている非喫煙者のスミスの目から逃れるには有難い規則であった。


「ハンから連絡は来てるか?」

「ああ、どうやら帝国の連中、とんでもないもんを持ち込んでいるみたいだな」

「どんなだ?」

「クラーケンだよ、しかも水中速力が70ノットも出る化物だ」

「ドラゴンの次は怪獣か...ファンタジー世界つうのはどうもタチが悪いな...」

「怪獣と戦うのは自衛隊の宿命かもな」

「...縁起でもないことを言わないでくれ」


 二人はそう言い合いながらも喫煙所の途中にある目的の扉の前に着く。 ドアを開けようとした瞬間、鳴瀬はふと森村の方に振り返って口を開く。


「......前から気になってたんだがどうやってそんな情報を」


 いくら仲が良いとはいえ、韓国政府の最高機密に等しい情報をハンが簡単に森村に話していたことには疑問が残るところであった。


「実はな、例の演習の際に俺とハンはこの方法で連絡を取り合ってたんだ」


 森村が懐から取り出したのは鳴瀬でも見覚えのある小さな通信装置であった。


「今時スマートベルか!?」


 それは携帯電話が広く普及する前に広く大衆で使われていた代物であり、機種にもよるが登録機種同士や公衆電話等で相手に対し文字に例えた数字を送れるシンプルな通信装置である。

 大ヒットしたものの、0~9の数字しか送れないためにこちらの意思を明確に伝えづらいことから海外普及までした直後に携帯電話のメール機能の登場によってその姿を消していたはずであった。


「知らないのか? これを作った会社は現在も存続していて今や防災無線の世界的メーカーとして活躍してるんだぞ」

「......それで演習に勝ったわけか」

「津波ブイのようなもんだ、宇宙人と海戦する映画からヒントを得てな」


 森村の言葉を前にして、鳴瀬は改めて彼が米軍から反則王と渾名されていたことを痛感する。


「ハンのやつ、若い頃は日本に留学していた経験があって当時付き合っていた女子高生から教わってたから乗り気だったぞ」


 当時、全世界の軍事組織のデジタル暗号すら解読しきった気になっていた米国海軍は演習に際しても暗号通信を傍受して日韓をはじめとした連合軍の動向を掴んでいたつもりになっていた。 しかし、それは森村らがわざと流した偽情報であり、本当の通信は即席の暗号表を使用したスマートベルを介して行われており、策にはまった米軍はまんまと連合軍に殲滅させられたというわけだ。


「お前が敵でなくて良かったよ......」


 鳴瀬はそう呟くとともに非常口の扉を開く。 そこには僅かな月明かりとともに岸壁に停泊する「ゆきかぜ」の姿があった。


「さてと...部下がひきつけてくれている間に行動を起こすとしますか」

「ああ、連中もまさかこんな手を使うとは思わんだろうな」

 



 翌日...記者会見から一夜明け、市ケ谷にある防衛省の近くにある共済組合の運営するホテルでは即席の記者会見場が用意され多くの報道陣が集まっていた。 彼らは皆、竹島事変に関して連合王国使節団の会見に興味を抱いており、その中で代表であり僅か17歳の少女であるレジーナの言葉に注目している。


「では、帝国軍が竹島を占領したのはあなたがたのせいではないと?」

「はい、先の戦いでは不幸にも一部の帝国軍人の暴走によって引き起こされたにすぎず、これからの両国の未来のためにもお互いの主権を認めつつ良き隣人として歩みたいということを帝国には伝えております」

「しかしながら、今回の帝国の行動は明らかに貴国と友好関係になろうとしている我が国に対する宣戦布告としか思えませんが?」


 記者の言葉の通り、多くのメディアで日本が過去に参戦した戦争の映像が映し出されるとともに日本が再び戦争の悲劇を被る可能性が示唆されたことにより、多くの国民が不安を抱いている有様であった。


「残念ながら帝国軍はまだこちらの世界の国際法に疎く、彼らの起こした行動は私どもの世界では違法ではありません。 彼らは単に領土の拡大を狙ったものであり日本に対する制裁行動ではないと思われます」

「しかしながら、我が国は平和憲法の名のもと国際紛争に関して武力で解決してはならないと明記されております。 残念ながら、私どもの見解として先日の自衛隊の行動は明らかに帝国に対する一方的な宣戦布告に違いないと捉えております。 国民の中には貴女が現場指揮官をそそのかして参戦させたと見ている者もいるのですが?」

「貴様...... 」

「フィリア待って、そのまま聞かせて」


 記者の質問に感情を露にしかけたフィリアをレジーナは静止させ、ありのままを翻訳させて耳を傾ける。


「貴方にとって国民とは何ですか?」

「は?」


 自らの質問に対してレジーナから質問で返されたことに、記者は意味が分からず言葉を詰まらせる。


「私共、王族にとって国民とは我が子と等しき存在です。 そんな我が子が目の前で強盗に襲われているのに助けを求めてはならないと?」

「それとこれとは違います!! あなた達はご存知ないでしょうが我が国の法では自衛隊は自国や同盟国でない他国の国民を救ってはならないんです」

「では自分の子供の安全さえ確保されれば助ける力があっても隣人の子が強盗に殺されるのを見捨てて良いと? それは人の情に反する行為としか思えませんか?」

「な...... 貴方は我が国に内政干渉をするつもりですか!!」


 年端もない少女を諭すつもりが、意図せぬ言葉を返されたことに記者は声を荒げるも、レジーナはためらうことなく言葉を続ける。


「もし、あの場で自衛隊の方々が国民の命を救っていただかなければ我が国と貴国の関係は最悪のものとなっていたでしょう」

「宣戦布告もなく他国の軍隊を攻撃するなど以ての外だ」

「軍隊? 武器を使って無抵抗の民を襲う者を軍の兵士とみるのですか? 軍隊とはそもそも国家に忠誠を誓い、国民の前で国家の手本となる存在です。 にも関わらず海賊と変わらぬ行為をする者など軍人ではなくただの犯罪者です」

「貴方の言葉が正論だとしても自衛隊に犯罪者を取り締まる資格はありません!!」

「海賊とは国際法において最も憎むべき存在であり、他国の領海や領土であってもその国の要請があれば他国の軍でも取り締まることが出来るのがそちらの世界の常識ではありませんか?」

「話にならん!! 貴方は日本を戦争に巻き込む気か!!」

「日本をなんだと思ってるんだ!!」


 その記者の言葉に同調し、多くの記者達が怒りを露にする。 遂には係官が姿を表し、記者達を取り押さえるために会見の中止を進言するも、レジーナは罵声を浴びてもたじろぐことなく口を開く。


「自衛隊は憲法で所有を禁じている軍隊ではない!! それは歴代の総理大臣が認めてるんだ!!」

「あら? 海外では自衛隊は軍隊と認識され、護衛艦は軍艦と定義され無害航行権を有しておられることをご存知ないので?」

「く......」


 少女と侮っていたレジーナの思わぬ言葉に記者は言葉を詰まらせるも、他の記者が立ち上がり諭すように口を開く。


「レジーナ様の聡明さには驚きました。 しかしながら、国際的には軍隊として認識されようにも平和を愛する日本国民にとって自衛隊は自国の安全を守るためだけの存在には変わりません。 憲法においても国際紛争の解決に武力を用いてはならないと明記されてます」

「はて? 武力もなしに外交ができると本気でお思いですか? 我が国の国民でさえそのようなことは信じられないでしょうね」

「...何を言いたいので?」

「自国の安全を守るだけで世界平和が実現するなんてありえないですわ」

「ふざけるな!!」


 代わりに質問をした記者さえも感情を露にしてレジーナに詰め寄ろうとするも、他の記者に取り押さえられる。 生放送でもあった手前、ここで王族であるレジーナらに暴言等を吐こうものなら日本の常識を疑われることになる。 一部の者を除き、この場にいる報道陣の大半はレジーナがどのような発言をしようと冷静さを失わぬ度量を持ち合わせていた。


「この国にいるうちは私どもはこの国の法に従います。 ですからここで貴殿方がなんと言おうと追い出しはしませんし、逃げもしません」

「ふざけないでもらいたい、私達報道機関には真実を国民に知らしめるという使命があります。 貴方はご自分の話の重要性を理解していないようなので申し上げますが、この会見は全国の国民がご覧になられておりいずれその発言を後悔することになるのを覚悟して下さい」


 その言葉を合図に、半分近くの記者が席を立ち会場から去っていく。 


「レジーナ......」


 テレビの画面では、居残る記者たちの言葉に一歩も引くことなく自身の考えを述べているレジーナの姿が映し出され、「はたかぜ」に軟禁されていた守はその場にいれないことに苛立ちを口にする。


「なんや? ガキやと思うとったがなんやよう口の回るお姫さんやな」


 守の後ろでは「はたかぜ」の艦魂である旗風が珍しく賞賛の言葉を口にする。


「レジーナが頑張ってるって言うのに俺はこんなところで何をしてるんですかね......」

「アホか、あんたが出てもええようにあしらわれるだけやで。 日本のマスコミはよう口の立つやつが揃っとるからな。 その点、あのお姫さんは絶対王政の国から来とる手前、よう渡り合っとるわ。 これが帝王教育の成果ってやつやな」

「彼女の...役に立ちたい......」

「なんや? お姫さんと比べるとやっぱあんたはまだガキやな...安心せい、アンタにはアンタしかできない役割が待ってるで」

「え...」


『出港前ブリーフィングを行う、関係者集合、艦橋』 


「出港だって!?」 


 突然響く艦内マイク、軟禁状態で何も聞かされていなかった守が驚きのあまり部屋を出ようとするも、旗風に足を引っ掛けられて床に転んでしまう。


「いてえ...何するんですか!?」

「アホか!! さっき言うたとおりこの艦はある目的のために出港するんや。 お姫さんの役に立ちたいのならこのまま大人しくしてるんや!!」

「レジーナの役に立つ!?」

「いずれ上司から聞かされるから詳しいことは言わん。 でも、これだけは教えたるわ...お姫さん同様にアンタはアンタで自分の役割を全うするんやで」

「......」


 旗風の言葉の意味がよくわからなかったものの、普段と違う彼女の表情を前にして守は素直に従うことにした。  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ