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第4話 星に願いを

 深夜、与えられた部屋で眠りにつこうとするフィリアであったが、どうしてもレジーナのことが気になってしまったが故に目覚めてしまう。


「やっぱり姫様の傍にいないと」


 同じ部屋で眠るジルがムニャムニャと「もう食べられニャ~い」という訳の分からない寝言を聞きつつも彼女は乗員から渡された短パンとTシャツ姿で外の通路に出る。

 椅子に座った状態で居眠りをしていた見張りの乗員を尻目に、彼女は壁に掛けてあった武器(防火斧)を片手に赤い光で照らされた薄暗い艦内を歩き始める。


(あの男の話だと赤い十字型の印をした部屋にいるって言ってたな)


 広い艦内で乗員に見つからないように静かに移動するフィリアであったが、目の前に一人で歩くレジーナの姿を見つけてしまう。


「姫様!!」


 慌てて駆け寄るも通路の影に隠れた影響で即座に見失ってしまい、一人途方に暮れてしまう。 連合王国軍の軍船と違い、巨大で複雑怪奇な形をしたこの艦の内部は彼女にとって迷宮に等しい有様であった。

 自分のいた部屋すらも分からず艦内をうろつき回るフィリアであったが、程なくして通路の先にようやくレジーナの姿を見つけることが出来たのだが、その光景は彼女にとって受け入れがたいものであった。


「よくも姫様を!!」


 怒りに身を任せるまま、彼女は防火斧を片手に守に駆け寄る。

 命をかけて守り通すと誓ったレジーナが見ず知らずの男によって手込めにされる光景が許せなかったのである。


「ぎゃああ!?」


 フィリアの姿を見て恐怖を感じた守は悲鳴を上げる。 しかし、怒りに支配された彼女の耳にその悲鳴は聞こえず、彼の頭をかち割ろうと防火斧を振り下ろす。

 童貞のまま守の命は潰えようとしていた......



「危ねえな......」


 痛みを感じず鈍い音がしたので恐る恐る守が目を開けるとマグライトを使ってフィリアの持つ防火斧を受け止める広澤の姿があった。


「先輩!!」

「お前がなかなか操縦室に戻ってこないから探しに来たぞ」


 先程まで怒りの矛先にしていた広澤の姿を見て守は心強さを感じてしまう。

 自分勝手でオタクで我が侭な人間であったが、肝心なときには身を張って助けてくれる。 酔っ払うと訳の分からないオタク談義に付き合わされ、スナックではアニソンを歌って女の子からどん引きされる迷惑な存在であったが本心は後輩思いの良き先輩でもある。


「どけ!!」


 明らかに守に対する殺意をにじませるフィリアであったが、広澤は何とか落ち着かせようと声をかける。


「後輩がはしたない奴だってのは確かですがここは穏便に!!」

「うるさい!! 姫様を手込めにした罪、今ここで償わせてやる!!」

「お怒りはごもっともですがここはお互いの気持ちを確認した後でも」

「お前には世話になったが姫様のことは別だ、今すぐそこをどけ!!」

「ちゃんと責任を取らせますのでその危ない武器はしまって下さい」

「お前が私から武器を取り上げさえしなければこんなことにはならなかったのに......」


 お互いの言葉は通じないはずなのになぜか会話が噛み合ってしまうこの二人。 艦内で一番意思疎通を図った間柄であったためか言葉が通じずともお互いの思っていることが分かってしまったのかも知れない。

 その不思議な光景を見て守はあることに気づいてしまう。


「俺、あの人の言葉が分かる......」

「「え!?」」


 守の言葉に広澤とフィリアは思わず動きを止めてしまう。

 

「えと、あなたはこの女の子の護衛ですよね?」

「あ、ああ、その通りだが」

「海野、俺の耳にはお前は日本語を喋っているように聞こえるんだが」


 争いを止め、二人は守の方に視線を移す。


「話せばちょっと長くなるんですけど......」


 守はそう言いながら先程レジーナとの間にあったことの詳細を話し始める。



「申し訳ありませんでした」

「そ、そんなにかしこまらなくても」


 実習員サロンにおいて日本人の土下座にも似た行為をするフィリアの姿に守は言葉を濁してしまう。

 あれから程なくしてレジーナが目覚め、守の言っていたことの内容が嘘で無かったことを聞かされたフィリアは己の行動を恥じて許しを請うている。


「あなたの行動はやりすぎです、助けて下さった方々にご迷惑をおかけしたので責任を取りなさい」

「......分かりました」


 フィリアはそう答えると傍に置かれた短刀を抜き出す。


「イヤイヤイヤ、自決はちょっと勘弁してよ!!」


 フィリアの行為に室内にいた乗員達は慌てて止めに入る。 


「自決させろ!!」

「待てこら!!」

「生き恥をさらせって言うの!!」

「せめて生きて花見を見んしゃい!!」

「誰が掃除するって思ってるの!!」

「艦長の前で自殺は許さん!!」


 守だけで無く、広澤や北上、室井や艦長である森村まで必死でフィリアの体を押さえつけて自決を防ごうとする。 その姿を見てレジーナは呆れてしまい小さく息を吐くと同時に口を開く。


「恩人方が止めるのなら仕方がありません、今回は彼らに免じて許しましょう」

「姫様!?」


 思わぬ言葉にフィリアはレジーナに視線を移す。


「ここは私達のいた世界とは別の世界で勝手が違います。 帝国のように私達に対する差別意識も無いという話なのでしばらく大人しくしていなさい」

「勿体なきお言葉です」


 立ち上がって涙を流すフィリアであったが、ジルと共に部屋を出ようとしたレジーナは一言だけ言い残す。


「服をちゃんと着なさい、みずぼらしいですよ」

「え!?」


 体を見下ろすと取り押さえられた影響からか、フィリアの肌着は脱げており裸に近い状態であった。 しかも彼女の股下を覗く形で広澤の体が転がっている。

 

「素晴らしい......」

「ぎゃああああああ!!」


 広澤の言葉に反応してか顔を真っ赤にしたフィリアによって彼の頭は思いっきり蹴飛ばされた挙げ句、壁に叩きつけられてしまう。

 駆け寄ってきた森村に対し、彼は一点の曇りの無い笑顔で口を開く。


「我が人生一点の曇りなし......ガク...」

「気高き変態だな......」


 森村の言葉に何も応えずにそのまま彼は意識を失い、医務室へと送られることになる。


「守と言ったわよね、部屋まで案内してくれる?」

「あ、はい......」


 レジーナの頼みを受けて守はレジーナと共に部屋を出る。


「外を見せて貰えないかしら?」

「ただ今の時間は灯火管制となっておりますので外には出れませんが?」

「姫である私の頼みが聞けないとでも?」

「分かりました、皆には内緒ですよ」

「よしなに」


 外へと続く防水ドアを前にしてレジーナはジルをその場に残して守と二人っきりで外へ出る。 星空の輝く夜空、遠くの海面には煌びやかな色合いの房総半島の街明かりが見え幻想的な空気を醸し出している。


「どの世界でも夜空は綺麗ね」

「ええ」

「私がいたのは船の中だったなんて思いもしなかったわ」

「ふふん、凄いでしょ~」


 いつの間にか二人の間に体から小さな輝きを放つ雪風の姿があり、彼女は自身のことを褒められて嬉しかったのか得意げになっている。


「お、お前さっきはよくも......」

「お姉ちゃん、この人こわーい」


 雪風は守をからかうが如くレジーナに抱きつく。 レジーナはそんな彼女に対し、よしよしと頭を撫でる。


「この艦の精霊なんだから大事にしなさい」

「そうだそうだー」

「お前、確か艦齢25年で俺より年上だったよな......」


 その瞬間、守の腹部に雪風の鋭いアッパーが突き刺さる。


「がは!?」

「レディーに歳の話はダメ」


 痛む腹を押さえつつレジーナの方に視線を戻すと彼女は星空の中を指さして口を開く。


「この中に私の知っている星はあるのかしら?」

「さあ、君の世界のことは知らないけどいつかは戻れる手段もあるんじゃ無いかな?」

「言葉が通じるようになったのも何かの縁よ、このまま通訳として働いて貰えないかしら?」

「えと、誠に申し上げにくいんだけど俺はこの艦の下っ端だからそれは無理かも」

「え!?」


 守の口から出た言葉にレジーナは驚きを見せる。


「せ、精霊の雪風が見えるからてっきり貴族か何かだと思ったんだけど」

「貴族? 俺は平民ですよ。 階級だって下から二番目の1等海士だし」

「えええ!?」


 レジーナは雪風の方に視線を移すと彼女は小さな舌を出して「てへ、どうやら勘違いしてたみたいね」と答える。


「な、な、な......わ、私は平民ごときこの男を夫と認めてしまったの!?」

「あのう、何か色々と勘違いがあったみたいだけどさっきのキスも無しでいいからね」


 頭を抱えてうずくまるレジーナに守はそっと声をかけるも彼女は身を震わせてぶつくさと呟き始める。


「こ、こんな男に身を委ねてしまったなんて......」

「あのう?」

「お、お父様、こんな親不孝な娘で申し訳ありません」

「ちょっと?」

「フィリアが悪いんだわ、あのデカ乳女のせいでこんな目に......」

「だからさっきのこと無かったことにしても......」

「黙れ!!」


 レジーナは立ち上がると同時に守の襟首を掴み、ギリギリと締め付け始める。


「よくも騙したわね......」

「だ、騙したも何も君が無理矢理......」

「この恨み、今ここで晴らしてくれる!!」

「ちょっとお、落ち着きなさいよ~」


 怒りをにじませるレジーナを雪風がぴょんぴょん跳ねて何とか宥めようとする。


「そもそも私が見える人間なんてこの子しかいないんだよ」

「でも!!」

「じゃあこのまま言葉が通じない状態で入国管理局にでも行きたいの?」

「入国管理局?」

「そう、あなた達は不法入国したわけだからこのままだと入国管理局に身柄を拘束されるわ」

「そんな、私はエルフの王女なのよ......」

「それを誰が証明するの? 王家の紋章なんてこの世界では意味をなさないわよ。 今は黙って夫と認めちゃったこの守君を利用して元の世界に帰る方法を見つけることが先決だと思うわよ」


 その言葉を聞き、レジーナは肩を落としてガックリしてしまう。

 由緒正しき王族である自分の身分がこの世界では保証されておらず、ただの不法入国者として扱われることに絶望感を抱いてしまったのだ。


「このまま籍を入れちゃったら? そしたら日本国民として過ごせるかもしれないし」

「......こうしている間にも本国は大変事態になっているはず。 本来私は皇帝の元に嫁いで和平の象徴とならなければならなかったのに......」

「どういうことだ?」


 しゃがみ込んでレジーナの顔を見ると彼女の顔から大粒の涙が流れており、美人に似合わず鼻水を垂らしていた。

 悲しみを感じ取った守はそのまま彼女の体を抱きして口を開く。


「俺に出来ることがあったら何でも相談してくれ」

「あんたに何が出来るのよ」

「今は分からない、ただ言葉が通じる手前君の相談相手にはなれるよ」


 まだあどけなさの残る小さな体であったが、守の体温を感じて落ち着きを取り戻したのか今度は彼女の方から彼の体を抱きしめてしまう。

 雪風がニヤニヤと眺めている中、守は彼女を何としても守っていこうと心に誓うのであった。

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