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第22話 竹島沖海戦

 暗闇の中、竹島と韓国の間の海面を航海諸灯だけを灯して進む艦隊の姿があった。

 それらの艦尾には大韓民国海軍旗を掲揚しており艦隊は一路、帝国軍によって占領された竹島へと向かっていた。

 

「今回の任務について再度説明する。 現在我が艦隊は独島西100キロを航行中であり、帝国軍によって占領された独島の奪還と人質の解放のため夜明けとともに空軍の支援の後、我々で上陸作戦を展開することになる。 尚、艦隊に関しては諸君らの上陸に合わせて第72戦隊が前進して支援を行うことになっているが、敵が異世界から来ている手前どんな攻撃が予想されるかは分からない」


 主役となる揚陸艦「独島」では上陸作戦の主力となる第1海兵師団がブリーフィングを行っていた。

 竹島が占拠されたという事実が発覚して以降、大統領は非公式ながらも即座に非常事態宣言を軍に発令するとともに、偶然にも訓練で釜山にいたこの艦隊に海兵隊を乗艦させて奪還作戦を行うよう指示を出していた。


「人質となっていると思われる首相の安否は不明だ。 しかし、状況が長引けば奪還が困難になることが予想される」


 艦隊の戦力は第5戦団第53戦隊「独島」を中心に第7戦団のイージス艦である「世宗大王」を旗艦とする第71戦隊と同じくイージス艦である「栗谷李咡」を旗艦とする第72戦隊で構成されておりその他の駆逐艦も含め総数8隻の大艦隊でアジア最強とも言える上陸戦力であった。

 その上、「独島」には精鋭を自負する第1海兵師団のUH‐60(ブラックホーク)にKAAV7水陸両用装甲兵員車両も搭載され、これに実戦を想定した厳しい訓練を受けてきた200人近くもの海兵隊員が乗艦している。 自国の領土と自負する島が占拠されたことに隊員達の誰もが怒りを抱いていることから士気も旺盛であった。


「最後に言っておく...貴様らの手で我が国に土足で押し入った無法者どもを叩き出せ!!」

「「「おおおお!!」」」


 その言葉を合図とばかりに格納庫に移動した隊員達は各々の装備を点検し、終わった者から実弾を込めていく。 彼らの装備はお馴染みのK2小銃だけでなく、K6 12.7㎜重機関銃やKM67 90mm無反動砲といった重火器も用意されていた。


「首相生きてたらどうする?」

「あん? 決まってんだろ、助けてやったんだから給料上げろって言ってやるよ。 つうか、お前はどうするんだ?」

「俺は大統領と不倫してるって噂が本当か聞いてみるよ」

「ははは、そりゃ良いな!!」


 一部の隊員がそんな冗談を言って笑みを見せる。 任務前の張りつめた空気の中、隊員達は各々の思いを口にしながら次々と車両やLCACに乗り込み、ヘリに搭乗する隊員はエレベーターへと集まる。

 夜明けまであと数時間、甲板上に並ぶヘリのエンジンが起動すると共にローターが回り始める。 

 しかし作戦開始の合図が下される直前、艦隊に悲劇が襲いかかる。


『艦長、ソーナーに感あり...前方10マイルに何かが来ます!!』

「何だと!?」


 始まりは艦隊の先頭で警戒していた駆逐艦の水測員からの報告であった。 


「なぜ今まで気づかなかった?」

『すみません、目標からスクリュー音が探知できなかったのとソーナーの反応が薄いのです』

「薄いだと...?」


 水測員の言葉に納得がいかなかったものの、艦長は見張り員を増員させて警戒を強めるよう指示を飛ばす。


「見張り員は海面を注視せよ...」

『艦長!!目標が本艦に迫ってきます!!』

「海面から何か出ます!!」


 その報告が上がった瞬間、前方の海面から大きな水しぶきが上がると共に巨大な「何か」が艦橋に迫る光景が映し出される......


「何だあれは......」



「「栗谷李珥」転覆!!」

「ウソだろ!?」


 近くにいた「王建」の艦橋からは巨大な何かによって艦橋を押しつぶされて転覆する旗艦の姿があった。


「う、撃て!!」


 瞬時に事態を察した「王建」と僚艦である「文武大王」艦長は独自の判断で攻撃を開始するも、主砲の砲弾が飛び交う前に巨大生物はすぐに海面に潜ってしまう。 

「目標潜行!!」

「逃がすな魚雷を使え!!」


 「王建」艦長の独断でMK32短魚雷発射がされ、一直線に巨大生物へと向かう。 しかし、スクリュー音を持たない奴は身体を器用にしならせて魚雷を躱してしまった挙句、目標を見失ったそれはあろうことかその先にいた僚艦に命中してしまう。


「「文武大王」被雷!!」

「目標、本艦に向かってきます!!」

「くそ、海面を撃ってでも押さえつけろ!!」

「ダメです、効果がありません!!」

「うわあああああ!!」

 

 「栗谷李珥」と同様に「王建」は横殴りの衝撃を受けるとともに船体を大きく傾かせ、乗員が脱出する暇も与えずに転覆させられてしまう。


「第72戦隊壊滅!! 目標、こちらに向かってきます!!」

「速い...60ノットは出てるぞ!!」


 第72戦隊の壊滅を受け、艦隊旗艦である「世宗大王」の艦内はこの上ない緊張に包まれる。 第7戦団の司令であり奪還作戦の指揮を執ることになっていたリー・デジョンは未知なる敵を前にして決断をする。


「「独島」に反転要請を送れ」

「司令!?」

「敵の正体分からずしてこのまま戦えば壊滅するぞ!!」

「しかし......」

「第71戦隊はこれより謎の敵勢力と戦う、上陸作戦の主力となる「独島」を死守せよ!!」

「了解!!」


 司令の覚悟を悟り、艦長のハン・クーシーは覚悟を決める。


「目標、狙いを本艦ではなく「独島」に定めてます!!」

「本艦を盾にしてでも近づけるな!!」

「ダメです、間に合いません!!」


 巨大生物は「世宗大王」の隣りをすり抜け、一番大きな目標である「独島」へと向かう。

 艦隊の奮戦むなしく「独島」わきの海面が大きく泡立つとともにそれが再び巨大生物が姿を現し、「独島」の右舷側に掴みかかる。


「探照灯で照らせ!!」


 周囲にいた僚艦とともに「独島」に照明を当てる。 巨大生物の姿が露わになったものの、見る者全てが驚きのあまり言葉を失ってしまう。


「クラーケンなのか!?」


 リーの目には並べてあったヘリを押しのけて甲板上にのしかかり、その触手を艦橋に巻きつけるイカのような巨大生物の姿があった。


「うわあああああ!?」

「化物め!!」

「野郎!!」


 瞬く間に艦橋が触手によって押しつぶされ、甲板に出た海兵隊員達が手持ちの火器で攻撃を加えるも巨大生物には効かずあっさりと薙ぎ払われてしまい甲板上が鮮血に染まる。 精鋭部隊であった彼らも巨大生物の前では赤子同然で奮戦むなしくひねりつぶされていた。


「発光信号でも良い、「独島」に「総員甲板から退避せよ」と伝えろ!!」

「艦長、いつでもいけます!!」

「撃て!!」


 「独島」の被害を最小限に考慮しつつ、リーの命令で第71戦隊の各艦は巨大生物に無数の速射砲弾を送り込む。 砲弾が命中するたびにぶちゃ、ぶちゃ、と気味の悪い音とともに青白い液体が甲板に飛び散っていき、致命傷を受けたのか巨大生物はぬるりと甲板から滑り降りて海面に沈む。


「やったか...」

「油断するな、警戒を密にしろ!!」


 リーがそう怒鳴ったのと同時に砲撃に参加していた一隻の駆逐艦がスクリューに触手を巻き付かれ、ジグザグと動き回った挙句に僚艦と衝突してしまう。


「まだ生きてたか!!」

「目標、今度は本艦に狙いを定めてます!!」

「俺が舵を握る、位置を伝えろ!!」


 「世宗大王」に向かう巨大生物に対し、艦長のハンは自ら舵を握り最大船速で舵をとる。


「目標、本艦の真艦尾!!」

「魚雷戦用意!!」


 ハンの言葉を合図に甲板上にいた魚雷員が発射管を向けて指示を待つ。


「用意よし!!」

「撃てーーー!!」


 ハンは左に大きく舵を切ると同時に合図する。

 魚雷員の手で発射された3発の短魚雷はまっすぐ巨大生物へと向かい、命中と同時に大きな水柱を上げる。


「2発命中確認!!」

「砲弾もお見舞いしてやれ!!」


 水中爆発の影響で水測員の探知に影響が出ていたものの、ハンは射撃員の目視で水柱のあった辺りに速射砲弾送り込ませる。


「今のうちに艦隊を釜山に向かわせろ」

「!?、まだ奴は生きてます!!」


 海面を注視していた見張り員からの言葉を合図に巨大生物が再び姿を表すとともに左舷から艦首にしがみつく。 リーの目には巨大生物の重みによって艦首は大きく沈み込み甲板と海面との高低差がなくなっていく光景が映る。 


「く、何て奴だ!!」


 自身の席にしがみつきつつ、リーは巨大生物を睨みつける。 再び露わになったその姿は全身の至る所が引き裂かれ、自慢の触手も何本かちぎれていたものの自身をここまで追い詰めた「世宗大王」に対する怒りを露わにし、残っていた触手を艦橋に巻き付つけてギチギチと締め上げる。


「うわあああ!!」

「総員、艦橋から退避!!」

「ダメです、出入り口が開きません!!」


 元々戦闘部署発動につき艦橋から艦内へと続く防水ハッチは閉められていたが、艦橋が締め付けられた際の歪みで開かなくなっていた。 3人がかりで何とかこじ開けようとするも、更にギチギチと締め付けられていたため悪化する一方であった。


「総員、身をかがめろ!! 艦長、責任は私が取る...天竜を発射させろ!!」

「撃てーーーーーー」


 艦首の発射口が開き、爆炎とともに国産巡航ミサイルとして名高い玄武-3から派生した艦対地巡航ミサイルである天竜が発射される。

 それは甲板上に覆いかぶさっていた巨大生物の胴体に命中し、辺り一面に巨大な閃光と衝撃波を生み出してしまう。 それは追い詰められた「世宗大王」が仲間を守るためにとった最後の手段であった。



ボオオオオオオオーーーーーー!!


「う、うう......」


 僚艦からの汽笛の音が耳に入り、ハンはゆっくりと目を開ける。

 天竜による爆発の影響で艦橋内は見るも無残な姿となっており、操舵装置の所で身を隠していたハンはゆっくりと起き上がる。 


「うあ...く、折れてるなこれは」


 幸いにも左腕の骨折以外に自身の大きな外傷はなく、額から血を流しつつも辺りを見回す。 

 噴煙の影響で全身に火傷を負った見張り員に衝撃に吹き飛ばされた航海員、先ほどまで自身の片腕として指揮を采っていた副長も艦橋構造物の下敷きとなって息を引き取っていた。

 

「奴も死んだか......」 


 ハンの目には爆発によって黒焦げの状態で艦首にもたれかかる巨大生物の姿が映る。 艦首のどこかが浸水した影響からか、艦の傾きが増えていくとともに巨大生物の体はずれ落ちていき程なくして甲板から滑り落ちてブクブクと沈んでいく。


「ざまあみやがれ......」 


 水平線の先から朝日が差し込み、上空には空軍所属のF-15Kが到着して艦隊の周囲を旋回し始める。 


「空軍だけじゃ奪還は無理だな......」


 上陸作戦の主力であった「独島」も沈没は免れたものの艦橋は大破し、海兵隊員も無視できない損害を被っていた。 ため息とともにハンが後ろを振り返ると海図台に背を向けて横たわるリーの姿を見つけてしまう。


「司令!?」

「か、艦長...無事だったか...」


 リーの片腕は吹き飛ばされ、右足は倒れたレーダーの下敷きとなって虫の息となっていた。


「今助けを」

「ま、待て...奴は...」

「黒焦げになって海の藻屑です。 我々は「独島」を守りきることができましたよ」

「そうか...だが肝心の独島は奪還できそうにないな......」


 そう呟くとともにリーの口から血が零れ落ち、息苦しさから咳が漏れる。


「ゴホ、ゴホ...」

「司令!?」

「の、残った味方は?」

「損害を受けていない「公開土大王」が負傷者の収容をしておりますが、「大祚栄」は航行に支障が出てる模様です」

「そうか...これより旗艦を「公開土大王」移し主席幕僚のチャウ大領(大佐)を代理の司令として撤退させよ...」

「分かりました...これより移譲させます」


 ハンがそう答えた瞬間、浸水の影響からか船体が大きく傾き始める。


「この艦はもうだめだ、総員離艦をさせろ......」

「司令を置いてはいけません!!」

「く、ば、馬鹿者...私はもうだめだ...どの道...誰かが犠牲となって英雄に祭り上げる必要があるからな......」

「く...」

「早く行け、君の戦いはまだ終わってないぞ......」

「あなたの下で戦えて光栄でした...」


 リーの亡骸とともに韓国初のイージス艦であり国家の誇りでもあった「世宗大王」がその船体を静かに沈めていく。

 ハンをはじめとした生き残りの乗員達は「公開土大王」の甲板上で涙ながらに敬礼を送る。

 生き残ったのは無傷の「公開土大王」の他、「独島」大破、駆逐艦2隻が中破、その他4隻の駆逐艦が沈没という有様で第7機動戦団は一匹の巨大生物によって壊滅する有様であった。

 生き残った乗員達の多くが帝国に対する報復を心に誓っていたものの上陸戦力を失ったことにより大統領執務室は大いに荒れることとなる。

 

「大統領、ウォン会長からご子息の件でお電話が...」

「また彼なの!? いいかげんにしてよ!!」


 大統領の下には竹島に取り残された子供の身を案じる政財界の重鎮達からの問い合わせが相次ぎ、主要スポンサーでもある彼らへの対応に大統領の神経は大いにすり減らされることになる。

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