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第21話 占拠された島

 日本国内が異世界との交流に意見を交わしている中、韓国が不法に占拠している竹島では兼ねてから計画されていた国務総理による警備隊への表敬訪問が催されており彼に随伴する形で多くの要人達の姿もあった。


「諸君らの働きによりこの島は60年以上も悪しき日帝から守られてきたことに同じ国民として誇りに思う!!」


 彼は居並ぶ警備隊員達に堂々とした演説を披露し、引き連れてきた報道陣を前にして自身の存在をアピールする。 島の周囲には海洋警察の所有する2隻の太平洋3号型警備救難艦が警戒にあたっているものの、肝心の仮想敵国である日本は異世界との外交に明け暮れていたため彼の行動に対して遺憾の言葉すら送られず、韓国国内でもレジーナ達の報道が大きな話題となっていたために今回の表敬訪問においては連れてきた報道陣の反応は薄かった。


「私は今日、諸君らと共にこの地に立てたことがとても誇らしい!!」

(あーあ、こんなとこより日本に行って取材したいぜ)


 カメラマンであるユンの口から愚痴がこぼれる。 先日の国会会見以降、世界中の報道各社がこぞって日本に記者を派遣して一世一代のスクープを確保しようとしてる中、社の命令とはいえこんな何もない島の注目度の低い茶番に付き合っていることに彼は苛立ちを覚えていた。

 そもそも今回の訪問は次期大統領選挙を控え出馬を表明している国務総理の政治的アピールが目的であり要人の中には彼のスポンサーである大手財閥の御曹司達の姿もある。 彼らは皆、国務総理が当選した暁に受けられる恩恵を目当てにしているだけあって彼の演説を熱心に聞き入っていた。


「これからも我が国の未来と子孫の反映のためにこの島を死守してもらいたい、以上!!」

「敬礼!!」


 演説が終わり、警備隊員達が一斉に敬礼する。 その姿に満足したのか国務総理も満面の笑みでその光景を見渡すも不意に会場を覆う複数の影が目に付き、思わず上空を見上げてしまう。


「ギャオオオオオオ!!」

「ドラゴン!?」


 突然空を覆うドラゴンの群れを前にして国務総理は驚きのあまり壇上から転げ落ちてしまう。


「うわあああああ!?」

「て、敵襲!!」


 真っ先に思いついたのが身の保身からか怯えて動けなくなっていた国務総理を無視する形で会場にいた要人達から我先にと逃げ出す。 会場が騒然とする中、SP達が国務総理の身体を引き起こすとともに警備隊員達が持っていた銃をドラゴンに構えるも事前に国務総理の取り巻きから演説の安全確保の名目で弾倉を抜くよう指示されていたことを思い出す。


「だ、誰か弾を......」


 その言葉が出た瞬間、ドラゴンの口から炎が噴出され辺り一面火に覆われてしまう。


「ぎゃああああ!?」

「助けてくれええええ!!」

「くそ、まさかこんなところに出てくるなんて!!」


 警備隊員達が炎に包まれ地獄絵図が広がる中、ジャーナリズム精神からかユンは無我夢中でカメラを回していた。 カメラ越しに拡大してみるとドラゴンの背中には鎧をつけた人の姿があり、手先信号などを駆使して島の要所を的確に攻撃していた。


「な......嘘だろ!?」


 海側にカメラを向けると周囲を警戒していたはずの警備艦が2隻とも炎に包まれている光景があった。


「不意打ちされたとは言ってもあれには機銃が積まれてたはずだろうが!!」

「お前何やってる、早く逃げろ!!」


 周囲の状況に構わずカメラを回し続けている彼を一人の警備隊員が引きずり出す。


「早くシェルターに行け!!」

「そんなものあったのか!?」

「有事に備えて作ってあるんだよ」


 警備隊員に言われるがまま、彼の案内でユンはドラゴンに見つからないよう煙に紛れてシェルターへと走る。 途中、焼け爛れたたりドラゴンに食いちぎられた遺体の姿や抵抗を試みる他の警備隊員の姿もカメラに収めようとするも、煙を吹き消すかの如く一頭のドラゴンが目の前に現れる。


「ひ!?」

「グルルルル......」

「どけえ!!」


 ユンの体を突き飛ばし、隊員は持っていたK2アサルトライフルの引き金を引く。 それは以前梅さんが使っていた99式小銃より口径の小さい5.56ミリ小銃弾を使用していたものの、至近距離で30発もの銃弾をお見舞いされたためかドラゴンは胴体に無数の穴を空けられるとともに倒れこんでしまう。


「ざまあみやがれ!!」

「あ、危ない!!」 


 ドラゴンの背から飛び降り、隊員に切りかかろうとした兵士のサーベルをユンはカメラの三脚で受け止める。 それと同時に我を戻した隊員は腰につけていた9ミリ拳銃を抜いて兵士に発砲する。


「助かった...ありがとう」

「礼は避難してから言ってくれ」


 ドラゴンを仕留めた二人はほうほうの体で避難シェルターへとたどり着くと入口に2人の警備隊員の姿があった。


「ヤン中士、ご無事でしたか!?」

「ああ、死にかけたがな。 兵長、他の連中はどうした?」

「私達以外はここに来ていません。 指揮を執られてたチョウ上士も先ほどの襲撃で亡くなりました」

「そうか...恐らく俺達で最後だ、扉を閉めてくれ」

「...了解」


 ヤンの言葉を受け二人の隊員は重い扉を閉める。 学校の教室ほどの室内には非常灯の小さな明かりが灯され、逃げてきたばかりの要人達で溢れかえっていた。   


「はあ、はあ、はあ......まさかこんなところでスクープが転がり込むとはな」

「こんな時でもスクープを気にしてたのか」


 生死を彷徨う体験をしたにも関わらず、カメラの無事を確認していたユンの姿を前にしてヤンは呆れてしまう。 周囲を見渡すと隅の方にSPによって周囲を固められガクガクと震えを見せる国務総理の姿もあった。


「生き残ったのはこれだけか」 


 民間人を救うためとはいえ、40人もいた警備隊員が自身も含め3人だけになってしまったことに気づき頭を抱えてしまう。 せめてこいつらが余計な指示を出さなければもう少しマシだったと考えると怒りを感じ、無意識に壁を叩いてしまう。


「ムカつくのも良いが、やばいことになったぞ」

「...どうした?」

「これを見てくれ」


 ユンに言われるがまま、ヤンは先ほど撮ったばかりの映像を見るとそこには水平線の彼方からこちらに向かう帆柱の目立つ船団の姿があった。


「まさかこれは父島事件と同様のことが起きたってことか!?」

「このシェルターは安全か?」

「......いや、ここはあくまで一時的な避難所に過ぎないから外からの助けがない限り無理だな」

「つうことはここにる俺達は殺されるか仲良く捕虜になるしかないわけか」

「認めたくはないがそうなるな」


 その言葉が耳に入ったのか周囲にいる要人達の背筋が凍りつく。


「ま、待ってくれ、外と連絡を取れないのか?」

「通信施設は敵の手に落ちてるよ」

「君らが行けばいいじゃないか、こういう時こそ出番だろ......」

「そうだ、僕らが納めた税金によって君達は成り立ってるんだし」

「ふざけんな!! さっきまで俺達のことを英雄呼ばわりしてたくせに今度は税金泥棒扱いか!!」


 無責任なことを言う要人達を前にしてヤンは素直な怒りを口にする。


「お前らのせいで戦える仲間はみんな死んじまったんだ!! ならもう取るべき手段は一つしかねえってことに気づけ!!」

「......」


 気迫あふれるその言葉を前にして一同は何も反論できなくなる。 島に来た時は偉そうな態度を見せていた彼らの醜態ぶりを前にし苛立ちを露わにしつつヤンは座り込むとともに胸ポケットからタバコを取り出す。


「あんた、ただの警備隊員じゃ無かったんだな」


 火を探していたヤンに対しユンは笑みを見せながら自身のライターの火を差し出す。


「お前、こんな時になんで笑ってられるんだ?」

「だってそうだろ? スクープが待ってるんだぜ」

「死ぬかもしれないのに呑気なもんだ」

「そこにいる先生方はどうか知らないが俺もあんたと同様に徴兵を勤め上げたんだ。 いつも北と緊張状態にいる中で今更怯えてもしょうがないだろ」

「そうだったな」


 ヤンはそう答えるとともに胸ポケットからタバコを取り出してカメラマンに向ける。


「吸うか?」

「お、丁度吸いたかったところさ」

「今はお互い生き残ったことに感謝しないとな」

「はは、違いねえや」

 

 緊迫した状況でありながらも二人の口から笑みがこぼれる。 


「生きて帰ったらスクープの報酬は俺と山分けにしろよ」

「ひでえ、おたく公務員だろ?」

「命救ってやった見返りだと思ったら安いだろ」

「やれやれ、とんだ悪人に助けられちまったな」


 初対面であったものの、共に死線をくぐり抜けた影響からか既に二人の間に戦友という絆が生まれていた。 しかしながらこの日、ほどなくして竹島は異世界から現れた軍隊によって占領されシェルターに避難していた生き残りは全員捕虜として拘束されることになる。



「総理!! 韓国政府からホットラインが入ってます!!」


 日本政府として連合王国との対応を協議する会議中であったにもかかわらず、真っ青な顔をした秘書官が松坂のもとへ駆け込んできた。 


「一体どうしたんだ?」


 そう言いながら松坂は会議の参加者に一声かけたあと秘書官から受話器を受け取る。


『松坂総理、こんな時にお呼び立てして申し訳ありませんが我が国固有の領土である独島で大変なことが起きました』

「それは貴国が占領している竹島のことですか?」


 いつもの如く、上から目線で物事を話す大統領の言葉を前にして松坂はとぼけた感じで挑発する。


『く...こんな時に何を言ってるの!!』

「その態度はなんですかな? こちらは色々と忙しいんですよ」

『......相変わらず貴国は無礼な』

「用件を言わないなら切りますよ」

『待って......貴国には例の異世界と交渉できる方々が滞在されているでしょ? その方々と相談させていただきたいのですが...』

「はて? 今のところ王女達は我が国としか窓口を開いておりませんが」

『......独島が占領されたの』

「え......」


 その言葉を前にしてさすがの松坂も言葉を失ってしまう。


『二日前、突然現れた正体不明の艦隊とドラゴンが独島を襲撃してきたの』

「ちょっと待って下さい、こうも簡単に占領されるものですかな?」

『...海軍の調査によると独島の南西10哩に小さいながらも異世界の出入口と思わしき奇妙な空間が見つかった。 連中はおそらくそこから侵攻してきたと考えられるわ』

「でしたら貴国の海軍で追い払えばどうですかな?」

『たまたま現地を表敬訪問していた国務総理が人質になってるのよ』

「なんと......」

『連中は現地にいた職員を通じて通信をよこしてきたんだけど、カタコトの日本語しか話してこない上に人質を返して欲しくばこの島を帝国に譲れと脅してきたわ』

「奪還作戦は?」

『失敗したから頼んでるのよ!!』

「失敗って...」


 練度低下や装備の品質劣化が叫ばれる韓国軍であっても近代以前の武装しかない帝国軍に敗北したことに松坂は信じられなかった。

 曲がりなりにもイージス艦や大型揚陸艦を揃えていた韓国海軍のどこに落ち度があったのか思い当たる節がない。


『2時間前、奪還作戦を展開しようとしていた第7機動戦団が壊滅したわ』


 受話器の先では大統領の震えが響く。 敵と認識していたはずの日本に助けを求めるということは余程追い詰められていると感じられるが、松坂は尚も疑問を投げかける。


「米国に支援を求めては?」

『その見返りに独島をよこせと行ってきたわ。 あの島には国務総理だけでなく我が国の未来を担う人材も大勢いるのよ、米国に任せれば異世界の利益を目当てに人質ごと島を火の海にするに決まってるわ!!』

「大統領の心情、共感しますが今の現状で支援をお約束できませんが」

『だ・か・ら!! 貴国の助けではなくそちらにいる使節団の方々に交渉してもらいたいって言ってるでしょうが!!』

「勝手なことは言わないでもらいたい。 元々は貴国が竹島を不法に占拠したのが原因でしょうが」

『狸め...もういい、こっちで手を打たせてもらうわ!!』


 ガチャりと一方的に電話を切られ、松坂は深くため息をつく。


「総理、大統領はなんと?」

「岡田君、竹島が帝国軍に占拠されたそうだ」

「なんと......」


 松坂の言葉を前にして会議の参加者達は言葉を失ってしまう。


「大統領は使節団の方々に連中と交渉して人質を解放させろと言ってきた」

「なんと身勝手な...あの国はどこまで落ちれば気が済むんだ!!」


 日頃の鬱憤からか参加者の一人が感情に任せるがまま机を叩く。

 重苦しい空気が流れる中、松坂は意を決して閣僚達に声をかける。


「使節団の身辺警護をより強固なものにしてくれ...連中、どんな手を使ってくるか分からんからな」

「分かりました、すぐに警視庁に応援を送らせます」

「防衛省からも応援を出せるようにしますか?」

「頼む、使えるのは誰でもいいから彼女達の安全を確保するんだ」


 竹島沖に現れた異世界との出入り口...この存在によって起きる悲劇を松坂は脳裏に思い浮かべ、一人額から汗をこぼしてしまう。

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