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第20話 日本国内の反応

遅くなって申し訳ありません。

 リアル多忙(転勤等)につきようやく投稿することになりました。

 これからもよろしくお願いします。

 レジーナの国会中継は挨拶だけで済ませた初日であっても日本中どころか世界中のお茶の間をひっくり返す騒ぎとなっている。

 午後の某ニュース特番には慌てて引っ張り出されたであろうゲストを交えての意見交換が催されていた。


『まことに申し訳ありませんがこの時間は急遽番組の予定を変更しまして本日午前に報道されました国会中継に関する討論を催させていただきます。 本日はゲストとして超常現象研究においてTV出演の多い帝京大学の下田恥彦しもだやさひこ教授とマジシャンでありながらも数々の超常現象をインチキと見破り最近話題になっている超常現象コメンテーターの川田貴子かわだたかこさん、更には今年の夏にアニメ化予定の「異世界ハーレム」の原作者であり今人気のライトノベル作家である吉田鷹見よしだたかみ先生をお呼びしております』


 アナウンサーからの紹介を受けてカメラに向かい3人は一礼するも、吉田だけは日頃縁のない討論番組に出ているせいか少々動きがぎこちない。

 

『単刀直入にお尋ねしたいのですが、皆様は異世界の存在について信じておられますか?』

『私としてはいつも通りインチキと言いたいのですが今回ばかりはちょっと......』


 日頃は辛口のコメンテーターとしても知られている下田であっても国会中継を見ていた手前言葉を濁しつつ、川田に視線を向ける。


『ちょ...下田さん、なんで私にふるんですか!?』

『いや、こういう時は君の方が...』

『いくらなんでもこれはありえないですって!!』

『え、ありえないってどういうことですか?』


 川田の言葉にアナウンサーをはじめとしたスタジオにいる一同から視線が集まる。


『え、え!? ......こほん、分かりました...うまく説明できませんが私の考えを言います。 私達マジシャンは周知の通り科学や医学、自然現象等を駆使して普段目にしたり体験したりすることのできない現象を見せて人々を驚かせてきました。 しかし、以前の番組で下田さんが自衛隊によって極秘開発された無人ロボットだとか言ってインチキと決めつけていた先月のドラゴン騒ぎの映像を見て頭を悩ませました』

『では先生はあれが本物だと?』

『信じたくありませんが映像を見る限りでは私にはトリックがあるとは思えません。 現に事件の後そこの下田先生と何度も現場を見に行きましたが大した仕掛けがないどころか、ドラゴンのものと思われる生体サンプルを入手しました』


 川田はそう答えるとともに鞄の中からドラゴンの鱗を取り出して机の上に置く。


『下田さんの大学で調べてもらったところ、象牙質の主体に表側はエナメル質で裏側はセメント質で構成されており簡単に言うならば生き物で最も硬い部分とされる歯と同じ構成であると分かりました』

『こいつのモース硬度は7...例えるなら水晶で知られる石英と同じくらいの硬さで鋼鉄に傷をつけられるレベルだ』


 下田は鉄板を取り出すとともに鱗の先端を表面に当てて傷をつけてみせる。


『こいつは鉄の中で一番硬いとされる鋼でさえ傷を付けられるだけでなく、大きさの割には異様に軽い。 地球上の生物でこんな外皮を持つ生物は存在し得ないどころか現在の技術でこいつと同じものを作ることは不可能だ』 

『ではお二人は異世界の存在をお認めになると?』

『...認めざる得ないだろう』

『悔しいですが私もそう思います』


 超常現象の類を一切否定してきた二人の言葉を前にしてスタジオは静まり返ってしまう。

 

『願わくばこんな生物が大挙して日本に押し寄せて欲しくはないな』

『私もです、翼竜の襲来は映画だけの話にして欲しいですね』

『そうですか...吉田先生はお二人に考えにどうお思いですか?』

『...ひ!?』


 慣れない場であったためか、アナウンサーから突然言葉を振られ吉田は椅子から転げ落ちかける。 彼は何とか姿勢を保ちつつ、オドオドしながらも身を震わせながら口を開く。


『ゆ、夢にまで見た異世界の扉があったことに...ぼ、僕は嬉しいです』

『真面目に答えて下さい、今は非常時ですよ』

『い、いいじゃないか、夢にまで見たエルフたんや猫耳たんがいる世界が目の前に広がってるんだよ!!』

『......』

『......』

『......』


 言葉を失うスタジオと違い、番組下部のテロップでは『吉田よく言った!!』、『我らが神は言うことが違う!!』、『先生、僕はあなたについていきます!!』と日本中のヲタク達の呟きが一斉に流れてしまう。


『吉田先生、少し落ち着いてください』


 隣にいる川田が落ち着かせようとするも興奮冷めやまぬ吉田は椅子から立ち上がる。


『エルフ最高!!、猫耳バンザーイ!!』

『先生!?』

『何なんだ?』


 周囲の反応をよそに吉田は声を張り上げて喜びの言葉を連呼する。


『ツンツンしたエルフたん、萌の矜持である猫耳!! 僕はこういうのを待ってたんだ!!』


 口角から泡を吹きつつ吉田は隣にいる川田の両肩を掴んで口を開く。


『君も猫耳を付けるんだ!! 年増で貧乳でもきっと見違えるから!!』

『な、何ですって!?』

『川田、落ち着け、落ち着くんだ!!』

『下田さん止めないで、こいつ今すぐ黙らさせますから!!』

『だからって貴重なサンプルを使おうとするな!!』

『スタジオで暴れないでください!!』


 生中継であったにもかかわらず、スタジオは暴走した吉田と鱗を使って彼に襲いかかろうとする川田、それを止めようとする下田とアナウンサーに吉田を応援するヲタク達のテロップで埋め尽くされてしまう。


『取り押さえるんだ!!』

『あんた何言ってんだ、いいかげんにしろ!!』

『アイラーブ猫耳!!』


 目をグルグルさせた吉田がカメラに張り付いたところで赤坂はテレビのチャンネルを替える。


「ヲタクってやーね」

「そういうあんたこそせっかくのチャンスを台無しにしたんでしょ?」

「...ごめんなさい」

「それは言わない約束でしょ、もう私達も退職だし気にすることもないわ」


 ここはベル生命本社地下倉庫の一角にある営業部第13課、先日の交渉失敗のあおりを受けここにいる社員達は解雇されることが正式に決まり、一同は黙々と荷物を詰めていた。


「もともとアンタのこと期待してなかったから良いわよ」

「ええ、私も定年が近かったですし」

「ニャー......」


 課長はそう言いながら飼っていた猫をゲージの中に入れる。

 社内の曲者ばかり集めたこの課は特に大きな仕事も割り当てられずにある者は俳句を読み、ある者は電球交換に勤しみ、課長に至っては会社に黙って事務所の中で猫を飼うなど皆一日好きなことをして過ごしてきていた。

 しかしながら、昨今の不況のあおりを受けて就任した新社長の経営方針によって利益を生み出さない13課は正式に解体されることが決まってしまう。


「皆さん退職後はどうされるので?」

「実家の家業を継ぐ」

「お見合い」

「一人旅」

「私は妻と喫茶店をやろうかと...長年の夢だったので」


 己の立場を理解していたためか、一同の返事は素っ気ないものであった。


「あんたはどうするの?」

「えと......決まってないわ......」

「呑気なものね...この不況下、女ひとりで生活するのは厳しいのに」

「う......」


 自分だけが進路を決めていないことに気づき赤坂は言葉を失う。

 

「まあ、あんたは容姿が良いからどこでもやっていける気がするわ...」


 そう言いながら同僚が部屋を出ようとした瞬間、勢いよくドアが開かれるとともに真っ青な顔をした営業部部長が駆け込んできた。


「赤坂!!」

「きゃあ!?」


 持っていた荷物を落としてしまった女性社員を尻目に彼は赤坂の腕を掴むとともに口を開く。


「社長が呼んでる、来てもらうぞ」

「え、ちょっと...」

「つべこべ言うな!!」

「待て待て、私はここにいるぞ」

「「「社長!?」」」


 いつの間にか赤坂の背後にあった席に社長が座っていたことに一同は驚きの声を上げるも、彼は膝の上に乗せた猫の頭を撫でつつ口を開く。


「赤坂君、君もなかなかやるじゃないか」

「え?」

「いやね、つい先ほど霞ヶ関を経由して私のもとにこれが届いたのだがね」


 社長に言われるがまま、赤坂は手渡された封筒を開けて中にあった手紙を広げ読み始める。


『拝啓、赤坂時雨 様。 先日貴殿が説明してくれた内容に私は心を打たれております。 私どもの国では原則として労働における怪我はあくまで個人の不注意による責任であり雇用主側が満足な保障を行ってくれぬため問題となっております。 それ故に労働者や雇用主が毎月一定の金額を納めることにより医療費を保証する貴社の保険事業というものに魅力を感じております。 つきましては今度開かれる宮中晩餐会に来ていただけませんか? もう一度じっくりと話をしていただきたいと考えております』


 手紙の内容を読みつつ、赤坂がこの手紙を書いた相手があの熊面のベアティであることを思い出してガクガクと身震いをしてしまう。


「どうした? 先方はあのホンタン王国王妃の側近だというじゃないか」

「いえ、あの、その......」

「未開の地に我社が保険事業の第一歩を築き上げるなんて魅力的じゃないか。 我社創設以来の快挙だと私は考えるんだが?」


 赤坂としては「グルル」「ガオー」としか会話を交わしていない相手であっただけに自分の言っていることが理解できている相手とは考えていなかった。 結局は名残惜しむ彼をペットの類だったと自分に言い聞かせて立ち去っていっただけにこのような手紙を送ってくるなど夢にも思っていない。 それが自分のニーズにあった超大物であったことには驚きを隠せなかったものの、再びベアティと会う勇気は持ち合わせていなかった。

 しかしながら、業績の悪化している会社の経営状態立て直しを迫られている社長としては赤坂が作ったチャンスをなんとしてでも獲得したい意気込みであった。


「あの...まだ返事は...」

「安心しろ、返事は先に送っておいた。 本人も「是非ともご一緒させてください」と言ってたとな」

「きゅう~」

「うお!?」


 あまりの出来事に力を失った赤坂は隣にいる部長の肩にもたれかかってしまう。


「私が思うに先方は君のことはかなり気に入ってるみたいだ」

「ペットじゃなかったんだ......」

「言っておくがこの取引を失敗させればお前のいる第13課は今度こそ取り潰しだからな。 手段を選ばず絶対に契約を取るように」


 その言葉を合図に赤坂は13課の面々に両脇をがっちりと掴まれる。


「み、みんな!?」

「あんた、なかなか面白い展開になったじゃないの」

「上司として私もあなたのチャンスが気になりますしね」

「会社をギャフンと言わせてみたいんでね」

「ちょ......」


 突然勤労意識を見せ始めた同僚達を前にして赤坂は言葉に詰まる。 社長はそんな彼女の反応を横目にしつつ口を開く。  


「ふーむ...まず...そうだな...女を更に磨いてもらうか。 経費は会社で全て持つから魅力的な女に仕上げろ」

「「「ラジャー!!!」」」

「いや------」 

 

 嫌がる赤坂であったが社長命令を受けた同僚達によってズルズルと連れ出されていく。


「かつて百万の軍勢を率いていたと言われる将軍の寵愛を受けるとはあいつもなかなかやるじゃないか。 我社も異世界からの恩恵を受けられるとは思ってもみなかったぞ」

「ニャー......」


 部屋に残された社長はそう独り言を呟きながら猫の頭を撫でこれからの展開に想いを馳せていた。

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