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第19話 重大発表

 三権分離の原則に則り、立法府の最高機関である国会議事堂の敷地内では議長の許可なく警察官が立ち入ることができないため、議員警察権に則り国会内の警備は基本的に各議院が自身の手で自律的に規律保持を行っている。 

 国民がテレビ中継等で度々目にする警察官のような格好をした人こそがその担当職員であり、衆議院事務局と参議院事務局から派出された職員である。 彼らは暴れる議員や傍聴人を取り押さえたりするだけでなく日常的に出入りする議員を議員バッチと議員身分証で確認しており、これがない議員は総理大臣であってもや制止することができる。 

 しかし、制止されたところで彼らは全ての国会議員の顔と名前を覚えているので受付で手続きを済ませればバッチを忘れたうっかり者の国会議員がいても入ることができる。 

 秋空の中、普段は選挙後の初登院や天皇陛下や外国の国家元首、観光向けの特別参観以外では開かれることのないことで「あかずの間」で知られるブロンズ製の扉が開け放たれていた。 ここの警備を担当する衛視達もこの日はいつもと違って礼服を身に纏い、来るべき来賓に備えて中央玄関のスロープ(車寄せ)に視線を向けている。

 既に召集された議員達は議事堂内に集まっており、周囲には警備を担当する者以外の姿はない。 通常、外国からの国家元首があれば情報を聞きつけたマスコミが駆けつけるものの、この日はいささか事情が違っていた。

 奇妙な空気が流れる中、程なくして上空を複数の陸自のヘリコプターが空を舞い、前後を警察車両に挟まれた要人向けの車が中央玄関の前に止まる。

 ここでまず警察車両の中からバタバタと護衛のSP達が姿を現し、付近の安全を確認するとともにイヤホンで状況を報告する。 異常無しが報告されたのか、一人のSPが車のドアを開けると中から奇妙な姿をした要人が姿を現す。 


「!?」


 天皇陛下をはじめ、数多くの要人を迎えた経験のある衛視の目にはフードを深く被った少女の姿が映る。


「○△□」

「......?」


 フード越しに見える青い瞳と白い肌。 その容姿から欧米出身であるように見えるも、話してきた言葉に聞き覚えがないため困惑してしまう。


「ご苦労と申している」


 驚きのあまり動きを止めていた衛視に彼女に続いて車外に出た女性が声をかける。


「案内を頼む」

「は、はい」

「姫様、ここが国会議事堂だそうです」

「趣のある建物ね」


 その言葉とともに二人はフードを払い、顔をあらわにする。


「え......」


 ハリウッドスターに匹敵するような美しい容姿であったものの、人間とは違って尖った耳を持つ二人の姿を前にして衛視は表情を崩してしまう。


「ここが中央広間だそうです」

「綺麗ね」


 30m以上の高さのある吹き抜けの天井とそこにあしらわれたステンドグラス、壁面四隅には日本の四季を描いた油絵の絵画があり、帝国のような派手なイメージこそなかったがどこか趣のある構造にレジーナは心を奪われてしまう。


 衆議院本会議場では何の前触れもなく集められたことに事情を知らぬ多くの議員たちが口々に疑問を投げかける。


「こんな時期に何事ですか」

「もしや例のドラゴン騒ぎでは?」

「確かに、どこから来襲したのかも明らかにされていないし」


 某共産系政党の議員の間ではここ数カ月近くの自衛隊の不審な動きに関係があると推測する。

 既に議事堂内には臨時国会に応じて数多くの議員が集っており、何の前触れもなく集められていたことに与野党問わず疑問を口にし合っていた。


「うちの支援者の話ですがドックに入っている艦を除いて大半の護衛艦が母港にいないと報告されています」 

「もしや私達の知らない間に総理が勝手な防衛出動を命じたの?」

「だとしたら納得のいく説明をしてもらわないと」

「そうよ、場合によっては不信任案を提出させてもらうわ」


 長年野党に甘んじていただけあってドラゴン騒ぎの頃から彼らは現政権に納得のいく情報を公開するよう申し立ててきたものの、返ってきた答えは毎度のごとく調査中であった。 何かを隠していると踏んで自身の支援者を中心に独自の調査を展開する者もいたが、今回の一件に関しては大きな収穫がなかったばかりか調査に当たった者が見に覚えのない罪状で警察に拘束されるなどしたために成果が上がっていない。

 通常国会の時とは違い、議事堂内では事情を知らぬ多くの政治家達がお互いの意見を出し合い普段とは違う空気を醸し出している。

 やがて召集をかけた当事者である松坂が姿を現すと、一部の側近を覗き多くの議員達が声を荒げて質問を投げつけてくるも彼は何も応えることなく表情一つ変えずに先に来ていた岡田の隣に座る。


「王女達が到着しましたよ」

「...私はあなたを見くびっていたのかもしれません」

 

 松坂からかけられた言葉に岡田は今回の経緯に対し素直な感想を述べる。


「一国の総理として当然の決断をしたと考えております」

「これでこの国は米国をも敵に回すことになるというのに...」

「今こそ覚悟を決める時なんです」

「そうですか...」


 以前と違い、松坂の口調には固い決意が感じられ岡田は意を決して議事堂内に視線を向ける。

 やがて議長の言葉を合図に臨時国会が開会され、松坂は席を立ち上がるとともにマイクの前に立って口を開く。

 

「本日は皆様に新しい友人をご紹介したいと思います」


 突然出た言葉に大半の議員が呆気にとられてしまう。 国会で紹介されるような要人となると必然的に海外からの大臣クラス以上の政治家か王族等に限られる。 可能性があるとすればドラゴン騒ぎにおける重要情報を持っている人間かもしれないが、総理直々の口から友人と言わせるなど只者ではない。

 議員達の不安をよそに松坂の言葉を合図に扉が開かれ、全身を深々としたフードを被った一団が議事堂内に姿を現す。


「ここにいらっしゃる方々は日本から遠く離れた異国の地から我が国と友好関係を結びたいと願っていらっしゃいました」


 一団がそれぞれフードを払った瞬間、事情の知らされていない議員達の表情は一変し、記者席にいた報道陣達が驚きの声を上げるとともにシャッターを押し、全国のお茶の間で中継を見ていた国民が声を荒げてしまう。


「どういうことだこれは!!」


 ドラゴンだけでなく、本物のエルフまでもが姿を現してしまったことに誰もが驚きの声を上げてしまう。 インターネット上のつぶやきブログでは中継の様子を見た人々の投稿が相次ぎ、某動画サイトでは早くも専用ページが立ち上がり「エルフ来たーーーーーー!!」の言葉が飛び交ってしまう。


「お初にお目にかかります、私はドゥーベ・レグルス連合王国使節団代表でありビエント王国女王であるレジーナ・フォン・ムーニスです」


 フィリアの通訳を通じ初めて公式の場で言葉を発したレジーナの姿を前にして議事堂内は静まり返ってしまう。 


「私共の世界は日本とは違う異世界に存在しており一切の交流がありませんでした。 しかし、原因は分かりませんがある日を境に突然海の上に開いた空間を通じてお互いの世界を行き来できるようになり、私どもは国境を隣接することになった日本政府と友好関係を結ぶべく松坂殿の招待を受ける形でこの場に参りました」  

「ちょっと待って...話が見えないですが...」


 呆気にとられ言葉を失う議員達の中から声が上がる。 


「新民党の辻原です、貴方の話すことがよくわかりませんが」

「そのことについては私が説明しましょう」


 辻原の質問に対し、松坂の隣に座っていた岡田が席を立ち上がりマイクの前に立つ。


「きっかけは9月4日の午後3時30分頃に小笠原沖で訓練に従事していた我が国の海上自衛隊所属の掃海母艦「うらが」の飛行甲板にドラゴンが不時着したことに始まります。 地球上の生物理論にそぐわないこの存在がどこから現れたのか調査したところ、聟島列島北東10海里地点に奇妙な空間があることを発見し、直ちに護衛艦を派遣して調査した結果そこがこの世界とは異なる次元である異世界であることが判明しました」

「異世界? 話が見えませんが...」

「簡単に申しますならばファンタジーのような場所だと考えてもらって構いません。 その世界では私どもと同じ種族もおりますが、今回ご紹介に預かりますのは我が国と友好関係を結びたいと申す国々の代表者です」


 岡田はそう言葉を締めくくるとともに父島事件の内容について語り始める。

 


「これじゃ、これじゃ!!」

「お婆ちゃん落ち着いて!!」


 父島では孫の制止にも関わらず居間のテレビにかじりついて声を荒げる梅さんの姿があった。

 例の一件以降、本土からの指示で彼女を含む目撃者は秘密保持の目的で身柄を拘束され、本土から駆けつけた陸上自衛隊の手によってドラゴンの亡骸を含め証拠は隠滅されていた。

 情報秘匿を目的に銃刀法違反の容疑で東京拘置所に入れられる羽目になった梅さんはつい先日、一通りの情報提供と事件の詳細が公になるまでマスコミに一切の証言をしないという条件でようやく釈放されたばかりであった。


「ワシがあのドラゴンを仕留めたんだって!!」

「何言ってるの!?」


 ドラゴンの襲撃を受けたにもかかわらず、家族からは呆けてトチ狂った梅さんが自宅で銃を発泡して家に放火したと認識されていたため、誰も話を信じてくれず僅かな目撃者と孫以外には相手にされていない。 一緒に戦った秋山巡査まで口を紡いでしまったために不遇な毎日を送っていたものの、今回の中継は自身の無実を証明する絶好の機会であった。 


「東京じゃ、東京に行くぞ!!」

「もう連絡船は出ちゃってるのよ」

「船じゃ、何でもエエから船を用意せい!!」

「梅さん何を騒いでるの?」


 あまりの騒がしさに庭いじりをしていた秋山巡査が居間に顔を出す。 


「あ、あんた!! もう何も隠す必要がなくなったぞ!!」

「へ...うわ、何だこりゃ!?」


 国会中継を目にした瞬間、秋山巡査までがテレビにかじりついてしまう。


『調査によると大陸に存在している人種の国であるサント・ウルチモ帝国と島国である連合王国との間では100年近くにわたって戦争を繰り広げておりましたが、2年ほど前に生起した海戦で連合王国が敗れたことにより終結し、帝国に有利な形で講和が結ばれたそうです。 しかし、ある日何らかの原因で我が国と世界が繋がってしまったのを好機と見た一部の軍関係者がドラゴンを中心とした調査隊を編成し、日本への侵攻の足がかりとして父島の住民を拉致していたことが判明しました』


 岡田の言葉を受けて拉致被害者の代表者である漁師の竹村道夫氏がマイクの前に立ち、自分は父親と漁をしている最中に帝国軍拉致された挙句、日本に関する軍事情報の提供を強いられた上で捜索に来た日本政府の使節団を取り込むよう脅されていたことを説明する。


『帝国内では人間と異なる外観を持つ連合王国の人々を差別する者がおり、今回の事態も彼らが裏で暗躍していたと見て間違いありません。 既に拉致被害者救出のために派遣された護衛艦と帝国軍の間では武力衝突も起きております』


「いつの間にかすごいことになってたんだ」

「罪もない人々をさらうなどなんて輩じゃい」 

「二人共何を言ってるかわかんないんだけど......」


 梅さんの孫の言葉をよそに、二人は自分達が日本の歴史において重大な局面の目撃者になっていたことに気づく。

 

 この日の国会中継は日本中のお茶の間を大いに沸かせることになるだけでなく、全世界のニュース番組においても特番として中継され日本だけでなく世界中からも注目されることになる。 

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