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第6話 連合王国会議

○レセプション

 

 海外においてはワインをはじめとしたお酒と口合わせのクッキーやツマミを中心としたお酒が中心の交流会であるが、日本においては料理が主体の交流会として実施される。

 海上自衛隊においては護衛艦の飛行甲板で実施されることが多く、屋台を出して焼きたての焼き鳥などが出ることから、海外でも評判が良く大した用もないのに参加する者まで出ている始末。 因みにそこでボーイやウェイトレスをしている人は総じて自衛官である。 

 連合王国会議を実施するにあって幾つか細かい決まりがある。


1.招待を受ける側は適度な数の護衛の同行を認める。

2.開催場所は必ず屋外若しくは一定規模以上の広い場所で行わせること。

3.開催側は万全の警備、間諜対策を実施すること。

4.議決に関しては全会一致を基本とし、7日経っても決まらぬ場合は多数決を認める。

5.開催期間の上限を7日とする。

6.議決で決まったことに不満があっても従わなければならない。

7.各国から来た招待者の滞在費は開催側で持つことにする。


 王宮が崩壊していたのとまだ国内を抑えきれていない手前、ビエント王国にこの条件に適合する場所はない。 そこでレジーナは岡田に協力を求め、以上の条件が適合する場所としてこの「いずも」の格納庫を会談場所として使用することにした。

 この日、格納庫内に設営された特設会場において連合王国を形成する三大国の代表者と各地で自治が認められている地域の族長達が集い、日本の総理大臣から委託を受けた岡田を交えたもとでこれからの方針について話し合われている。


「それでは本日、この場において連合王国会議を開催させていただきます」


 エーディロットが議長を努め、緑一色のテーブルシートが敷かれた円形の大型テーブル(隊員の手作り)の周囲を囲むかのようにして一同が席に着く。

 日本側は岡田と緒方、立花の他に通訳として守が席に座り、ビエント王国側はレジーナとアルメア、フィリアが、ホンタン王国側は王妃であるクルスリーとユルゲン、ベアティが顔を並べており、フランメ王国側は国王ラーヴァとその側近2名、他は各部族の族長達が顔を揃えている。

 総勢30名の大所帯であったが、驚くことにフランメ王国以外は全て「いずも」の艦載ヘリでここに集められている。 


「初めに一言申し上げます。 私ども日本政府は人種の平等を遵守しているために帝国のようにあなた方を敵視しておらず信仰の自由も認めており、こちらの考えを無理に押し付けるような意思もありません」


 守を介して伝えられた岡田の言葉を前にしても各部族の族長達は表情を変えようとはしない。

 会議を開催するにあたり帝国と同じ種族である岡田達を前にして彼らは信用することができず、こちらから出した迎えに対しても拒むものが少なくなかった。 幸いにも、議長役を申し出てくれたエーディロットの説得がなければ足を運ぶこともなかったであろう。

 

「貴国は何が目的でこの世界に来たのだ?」


 一番に口を開いたのはフィリアと同じくダークエルフ族の族長であった。 彼らはフィリア達と違ってビエント王国に住まず、森の深淵で狩猟で生計を立てる集落であるため王国とは異なるコミュニティを築き上げている。 例えるならアフリカにおいて原始的な生活を行う民族として知られているマサイ族であっても先祖伝来の土地で暮らす者もいれば、都会で暮らすシティマサイと呼ばれている人々がいるのと同じようなものと考えて良い。


「双方の世界が繋がってしまった原因の究明と友好のためです」

「政治的に大きな実績のないレジーナ王女を立ててビエント王国の政権を奪い取っているのが気に食わん」

「あれは相互における意思疎通の欠落ゆえに起こりました。 それだけでなく、前政権は我が国の国民を拉致した帝国の行いに加担した挙句、あまつさえ彼らの情報を元に日本への侵攻計画まで立てていた始末です」

「フン、どこまで本当なんだが...」


 岡田の言葉に対し、一角族の族長が鼻を鳴らす。


「人間どもは所詮、我らのことを見下しておろう。 こやつも何を企んでるのやら...」

「私共の世界にはあなた方のような種族は存在しません」

「ほう、滅ぼしたのか?」

「いえ、はじめから存在していないのです。 希にあなた方と接触する機会があった者もいたようですが」

「貴様の言葉は信用はできん」


 その言葉に対し周囲にいる族長達も同意する。 元々100年近く帝国と戦争してきた手前、去年の会議においても彼らは和平に対し反対の言葉ばかり口ずさみ、自分達だけであっても本土決戦をと叫ぶ始末であった。  

 それ程人間に対する憎しみを持っている者がいる中において、元々和平を訴えていたジルベルトはどうしたかというと英傑として名高いアフラマの遺書を公開し、その一人娘であるレジーナを皇帝の側室に出すという身を切る条件をも受け入れるということを口にし、涙ながらに子孫の繁栄を願ってくれと訴えたのである。 各族長達は自決した兄の遺言を敬う彼の態度に感銘し、渋々ながらも和平に同意した。

 しかし、その後のビエント王国は帝国と勝手に同盟を結んだ挙句にその力を背景に周辺国に対して冷酷な態度をとるという裏切りをする。


「帝国とジルベルトを倒したとはいえ、貴様ら日本政府の言うことを聞くとは大間違いだ」

「ワシらは勝手にさせてもらうぞ!!」


 血の気の多い者もいた手前、会議は大紛糾の兆しを見せている。 それに対し岡田は適宜、守を介した通訳でその内容を耳にするも、黙って頷くなどして一切の反論を返そうともしない。

 寧ろ、助け舟を出そうとしたレジーナに対して「口を挟まないで欲しい」と言ってる始末だ。

 紛糾している中においても、飛行甲板ではひっきり無しに資材を積んだヘリが発着艦を繰り返して慌ただしくしている影響で、格納庫にはローター音が響きわたっている。


「うるさい!!」


 岡田に対し、ワーギャーと疑問や不満を口にしていた族長達が耳障りな音に対して文句を言い出す。 

「何でこんなやかましいとこで開催するんだ!!」

「鉄板ばかりで閉じ込まれた気がするわ!!」

「何か食わせろ!!」


 会場の条件に合うとはいえ、何の装飾や味気のない人工物であり広大な格納庫の光景は彼らの心理に少なくない不快感を与えている。 来た当初こそ、好奇心が奮い立たされた影響であれこれと質問をしてきたものの、窓の無い中で休憩なしに3時間も閉じ込められてしまえば流石に不満を隠せなくなっていた。

 三大王国と違い、彼らの集落は簡素な作りの建物で住むことが多く、基本的には屋外で過ごすことが多い。 岡田に対する文句よりも彼らの不満は徐々に会議の開催場所へと傾き始める。

 それを待ってきたとばかりに目を見開いた岡田は席を立ち上がると同時に口を開く。


「みなさんの不満はよく分かりました。 しかし、勘違いしないで欲しい...私共は決して帝国と同じ考えを持っていないということを」


 背後に控えていた隊員に合図を送るとともに格納庫の照明が消され、真っ暗な闇に包まれる。


「なんだ!?」

「殺す気か!!」


 突然訪れた闇に驚き、隠し持っていた武器を手に族長やその側近達は席を立ち上がって警戒する。 


「落ち着いてください」


 机の中心にあるランプが点灯し、慌てふためく族長達の姿がうっすらと浮かび上がる。 岡田は武器を持っていた族長達の姿を前にしてもたじろぐ事なく言葉を続ける。


「これからお見せする物は我が国の光景と思っていただきたい。 これを見れば少なからずも誤解を和らいでいただければと願っております」


 格納庫の一角に広げられていた巨大なスクリーン。 そこに映し出された映像を前にして族長達は総じて言葉を失って見入ってしまうのであった。



 夜、その日の会議はお開きとなり飛行甲板において特設のテントが設置されるとともに、盛大なレセプションが展開されている。


「いやはや、貴国がワシらにとても友好的なのには驚きましたなあ」


 特設屋台で焼きあがったばかりの焼き鳥を何本も手に持ち、ビールの入ったグラスを片手に一角族の族長は上機嫌に岡田に語りかける。 


「こちらこそ大変有意義なお話を聞けました」

「何でもご相談くだされ、ワシが聞きましょうぞ」


 あの時、会議で映し出された映像というのは日本で編集された物であったものの、その内容はこれまでの外交会談で使用されたものとは一線を画していた。 初めのうちは日本の美しい山河を映し出した自然豊かな光景であったものの、中盤からは日本の街並みが映し出されるとともにある光景を前にして族長達の視線は釘付けとなる。 


 自分達と同じ格好や姿で歩いている者がいることを...


 それらは全てコスプレと言って人間達が扮しているものだと説明した途端に彼らの中から何故そのような文化があるのかと疑問が出てきた。 予想通りの言葉を受け、岡田はあらかじめ用意した作戦通りの映像を切り替えるよう指示する。

 その内容は著作権に接触するものの、異世界の会談であることを逆手にとって編集されたアニメ映像であった。

 獣耳少女達の空戦、エルフの少女と共に巨悪に立ち向かう勇者、魔王とともに戦争を終わらせようとする人間達、魔物のような外見をした少女達と人間の男の子との恋愛模様などが映るその光景を前にして族長達は日本人が他種族に対して寛容な民族であることを実感してしまう。


「疲れてないか?」

「いえ、大丈夫です」


 岡田はずっと傍にいて通訳をしてくれた守にねぎらいの言葉をかける。 かつて同じ組織に所属していた手前、守の健気な姿勢を見て若い頃の自分と重ね合わせてしまうところがあった。

 緒方と立花から「ゆきかぜ」を戦いの舞台に引き出した黒幕の一人と聞かされているものの、傍から見ると無垢な少年としか感じられない。


「王女と愛し合ってるんだってな?」

「...やっぱりダメですか?」

「いや、男女の恋愛に対して口を挟むつもりはないよ」


 岡田はそう言いながら、両手にジュースの入ったグラスを持って守に差し出す。


「そろそろ来る頃合だ、持っていなさい」

「え?」


 言われるがままにグラスを持った瞬間、駆動音と共に先程まで格納庫にまで降りていた前部エレベーターが持ち上がり、周囲の驚きの声と共に真っ白なドレスで着飾ったレジーナが姿を現す。


「彼女の側についてなさい」

「え、でも?」

「通訳なら大丈夫、どうせ向こうに人が集中するだろうし」

「ありがとうございます」


 岡田の後押しを受け、守は足早にレジーナの方へと向かっていく。 


「一先ず日本政府は連合王国と手を組んで原因究明に務めるしかないですね」


 いつのまにか岡田の背後には緒方と立花の姿があった。


「このまま転移してしまえば資源のない我が国はジリ貧になってしまうからな。 既に食料面では半年も持たないという試算も出てる」

「願うならば石油や天然ガスの存在も確認していただきたいですね」

「ああ、運送網に関しても今更機関車や馬車を走らすわけにいかないしな」

「石炭すら我が国は自分達での採掘をやめてますしね」


 3人の会話は正しく日本政府の困惑ぶりを表している。 このまま日本が異世界に転移すれば一年も経たずに国内生活は一気に困窮する。 火力発電所の停止だけでなく、原子力発電所であっても燃料のウラニウムだって100%輸入に頼っているから電力不足は避けられない。 それどころか冬場になれば石油系暖房機器に頼っている人々が凍死する危険もある。

 少子高齢化で1億人もの人口を抱えていることこそが、ある意味で日本政府最大の弱点なのだ。



「王妃、岡田をどう思う?」

「純粋無垢、どちらかというと高潔な人間に見えますが生まれが平民である以上、国家に対する忠実さで生きてきた感じがしますね」


 レジーナに注目が集まっている中、飛行甲板の一角でラーヴァはクルスリーと日本政府の動向について意見を交わす。 


「出来ればこちら側についてくれる日本人が欲しいところですね」

「確かにな、あちらの世界には日本以外の国もあるはずだ。 できたらその情報も欲しいところだが、あの男が相手では情報を引き出すことはできんだろう」

「ええ、試しに若い侍女をあてがってみましたが、相手にされませんでしたし」


 今回の会議に合わせ、クルスリーは国内でも1、2を争う美女達を侍女として連れてきたものの、総じて日本政府側には相手にされていない。 それもそのはずで妻帯者である岡田と緒方は妻一筋であり、立花は逆に女性を懐柔して情報を引き出す立場だ。 寧ろそのようなハニートラップに関しては自衛官達にも注意するようお達しが来ている手前、引っかかる気配すらない。

 しかも、悲しいことにたまたま傍にいた森村がその美女達と目を合わせた瞬間、彼は隣にいた綾里から強烈な肘打ちをお見舞いされてしまうというハプニングまで起きてしまっている。 結局、綾里の嫉妬に狂う恐ろしい形相を前にして美女達は引き上げる羽目になった。


「王妃ではダメだというのなら、こちらの手を使ってみるか」

「何か手があるので?」

「うむ、ちと有力な情報が耳に入ってな」


 一計を案じ、ラーヴァは侍従に命じて近くに停泊しているグラント号に連絡を取らせることにする。 

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