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第1話 明かされていく真実

 邪神の襲撃から一夜明け、「ゆきかぜ」艦内の公室では神妙な顔つきの面々が顔を揃えている。

 室内には護衛艦には似つかわしくない高価なアンティーク製の長テーブルを挟む形で椅子が並べられ、艦尾側にはレジーナを中央にして左手側には彼女の後見役として新政権の宰相になることを承諾したアルメアとホンタン王国特使のベアティが座り、右手側には通訳として同席を許された守と今回の行動の責任者である森村と綾里が並んで座っている。

 艦首側には外務省職員である緒方と立花、情報保全隊の福島と増援艦隊指揮官としてやってきた鳴瀬の姿があったが、その中央には守でさえよく知る人物が座っている。


「参議院議員の岡田敏行と申します、レジーナ王女には先日あのような悲劇が起きたばかりだというのにこちらの要求に応じて会談の場を設けていただき感謝に尽きません」

「いえ、こちらこそ日本国の自衛隊には多くの国民を救っていただき感謝しております」


 参議院議員、岡田敏行......陸上自衛隊出身の国会議員であり、かつて米軍によって壊滅させられた某国の復興支援部隊の大隊長として派遣された際に優れた采配を発揮し、犠牲者ゼロという諸外国から見てもありえない実績と現地住民と無二の信頼を築いていたことがマスコミに大きく報道されたことにより知名度を上げ、自衛隊OB会の支援もあって個人ではトップに近い票数を勝ち取って当選した人物である。

 指揮官としての優秀さが評価されがちだが、外務省との関わりも深くPKOにも参加していたことから海外では早くから外交官としての采配も期待されていたりもする。

 しかし、一部の評論家からはこうもあだ名されている。


『源田実の再来』と


 公に出ているときは大人しく物静かに見える反面、有識者による国防会議にも名を連ねる軍事の専門家であり持ち前の人脈を駆使して防衛予算の増加に貢献するだけでなく、凍結していた新兵器開発も進ませるなど水面下では隣国に驚異を抱かせるほどの活躍を見せている。

 国防に関して現首相の傘下で腕を振るっているものの、実際のところ幹部学校時代の成績は中の下でありこれではいくら現場で頑張っても1佐止まりで定年を迎えるしかない。 それ故に多くの報道陣に注目されたことを機に彼は定年前に自衛隊を退職することを決断し、政治家になったとも言われている。


 そんな彼がなぜこの場に姿を現しているのか...守だけでなく、隣にいる森村や綾里でさえ息を飲んでしまっている。 


「今回私がここに来ましたことを単刀直入に申し上げます...日本政府として正式にレジーナ王女をビエント王国の女王として認め、再度両国のあいだで外交会議を設置させて頂きたい」

「え!?」


 突然の申し入れに対し、レジーナは驚きのあまり声をあげようとするも隣にいるアルメアに制されてしまう。


「随~分と気前の良いことで?」

「さすがはアルメア様、お察しの良いことで」


 守の通訳を介したアルメアの言葉に対し、岡田は自身の手で用意したパソコンにパスワードを打ち込むとともにその画面を彼女の方へと向ける。

 そこには編集されたばかりの一本の動画が映し出されておりそれを見た瞬間、アルメアを除く一同の顔が一気にこわばってしまう。


「エリアゼロに続く新たな入口が現れました」 


 岡田の話だとエリアゼロの拡大は直径500m、高さ80m位でようやく停止したものの、そこから約50キロ離れた地点に新たな霧が発生したという。 

 大きさこそ幅10mという小さなものであったが、それは日を追うごとに等間隔で発生していき、発見された順から番号がつけられ現在はエリア5の存在まで確認されているという。


「やっぱりね~」

「知ってたんですか!?」


 アルメアの口から出た言葉に対し、一同の表情が一変する。


「驚くも何もね~元々私達の国自体が異世界から転移したと言われてるのよ~」

「「「え!?」」」


 その言葉を耳にした瞬間、この場にいた誰もが驚きの言葉を上げるとともに彼女に注目する。


「私は知らないわ!!」


 一同の中で真っ先に声を上げたのはレジーナであった。 王族として生まれてからずっと王宮で生活してきた手前、アルメアの話は唐突で信じられないことであった。


「う~ん、だ~てこれは国王にしか教えられていないことだしね~」


 邪神のことだけでなく、先代国王の正妻であったこともあって彼女は国王でしか知りえない多くの秘密を知っていた。 彼女の話によると元々エルフや獣人、ドワーフといった人々は元々帝国が支配する大陸に住んでいたのだが、先祖の代で人間との争いに嫌気がさしていた矢先にある船乗りがそれまで何もなかった海原に巨大な島を発見したことにより、そこを自分達だけの楽園にしようと考え移住を決意したという。

 多くの犠牲を払いながらも、30年もの歳月をかけて全民族の大移動は終わり、その後大陸で大流行した疫病の影響もあって人間達の驚異が和らいだことも影響して独自の国作りが進んでいったという。


「ど~うもこの世界は定期的に異世界から土地を転移させる習慣があるみたいなのよ~」

「習慣ですと!?」

「あなた方の世界でも聞いたことがあるのでは~突然島や大陸が消えたってお話?」

「......」


 オカルトマニアでない岡田でさえその話には幾つか心当たりがある。 

 古代神話で語られ一夜で海底に沈んだとされるムー大陸をはじめとした古代文明...日本では沖縄近海で見つかった謎の海底神殿が有名だろう。

 バラエティ番組では度々幻の文明と報道されている手前、その手の話は日本人なら誰しもが一度は耳にしたことがあった。


「あらあら~何か知ってるみたいな顔しちゃって...じゃあこんな話も耳にしてない? 不可思議な技術で作られた建物とか奇妙な出土品なんてのも」

「まさかあれらは魔法で作ったとでも?」


 当時の技術力では説明のつかないピラミッドやオベリスク、マチュピチュにストーンヘッジをはじめとした石の構造物...鉄器を知らない当時の人々が正確に巨石を切り出してカミソリの入る隙間もなく積み上げていることに多くの考古学者や建築土木の専門家達は納得のいく答えを見いだせていない。

 それだけではなく、通称オーパーツと名付けられている水晶ドクロや歯車式の計算機に古代電池...古代の遺跡の壁画には電球やロケット、ヘリコプター、宇宙飛行士のような絵が描かれていうことなど、現在の科学をもってしても説明のつかないことが多々存在している。

 それどころか何故自分達が知る空想上のドラゴンやグリフォン、エルフや獣人といった存在が寸分違わずこの世界にいることだって解明できていないのだ。


「やっぱりね~あなた達のいる地球でも度々、転移が起きてたのねえ」


 最早アルメアの言葉に対し、この場にいる誰もが反論できない有様であった。 彼女の言葉はそれだけ筋が通っているものであり、裏を返すとこの世界の法則から察するにあのエリアゼロは転移の前触れを意味することに等しい。

 

「この世界に神がいるとすれば貴男方が先日戦った邪神でないことは確かね。 私が思うに神は元々この空っぽの世界に花を植える感覚で他所の世界から色々な土を運んできたのかもしれないわ~」

「その土こそまさか日本列島ということですか...」

「どうかしらね~」


 アルメアはそう言いながらメルダが淹れた紅茶を口に運んで喉を潤す。


「こんな美味しい紅茶のある国がこの世界に来るなんて嬉しいわね」

「...それはよその国のものです」

「あらやだ、私ったら」


 他人ごとのような笑みを送る彼女を前にしてその場にいる誰もが態度を硬直させてしまう。

 この日は日本政府との連絡の都合で会談はお開きとなり、アルメアとメルダは暫く「ゆきかぜ」に滞在することで合意される。



「ふ~ん、そりゃえらいことになったな」

「日本がやばいことになったって言うのに随分呑気ですね?」

「しゃあないだろ? 今更足掻いたところで防ぐ方法がないって言うんだからよ」

「...フィリアさんと別れなくてホッとしてるんですか?」


 ここはフィリアとジルが使っている寝室であり、会談を終えた守はレジーナが部屋着に着替える合間をとって今回の一件を相談しに来たのだが、室内には仲睦まじくフィリアの膝を枕にして耳かきをしてもらっている広澤の姿があった。


「まあ、それもあるだろうしな」

「う、うん、私もそう思う」


 そう答えつつ頬を染めるフィリアを前にして以前の守なら「リア充爆発しろ!!」と叫ぶところであったが、先日レジーナから恋人と認められていただけあって冷静さを保てている。

 これが他のオンリーワン乗員達がいる前ならば血みどろの争いになることは間違いないのだが、安藤のような特警隊員がいなければフィリアによって返り討ちに合うに違いない。


「俺には別れるって言っておきながら影ではクーデターに加担する先輩って何者なんですか?」

「ただの自衛官」

「嘘つけ!!」


 最早心に思い止める気にもならなくなり、守は素直に疑問をぶつけてしまう。 


「あなたが何者かは取りあえず置いときまして、フィリアさんに聞きたいことがあるんですが?」

「何だ?」

「レジーナとアルメアさんって実の親子じゃないって聞いたんですが?」


 その言葉を耳にした瞬間、フィリアの顔がそれまでのイチャラブモードから一瞬で怪訝な表情に一変し、手を止めてしまう。


「...どこで知った?」

「ほ、本人からです!!」

「そうか...やっぱりお前には話しておかなければいけないな」


 フィリアは耳かきをやめて二人の前で正対し、目をつぶって一考したあとでゆっくりと口を開く。


「これは姫様も知らない話だ」


 遡ること25年前、当時まだ皇太子であったレジーナの父、アフラマ・ジン・ムーニスがアルメアと結婚したばかりの頃に始まる。 王位継承権を持つ皇太子と古からの神官の血筋を持つ高貴な女性との婚約とだけあって盛大な婚儀が取り仕切られたものの、アルメアの同性に対する好色が災いしてか夜伽が上手くいかず、一年を経たずして公の場以外では一緒に暮らすことが無くなってしまった。

 ビエント王国は一夫一妻を基本とするだけあって結婚しているにも関わらず毎晩寂しい夜を過ごす羽目になったアフラマのもとにある日、一人の兵士が護衛として傍につくことになる。

 うら若きその兵士はアフラマの護衛としてだけでなく、年代が近かったこともあって暇を見つけては共に馬で各地を駆けるなど周囲も羨む良き友人として彼を支えていき、帝国との海戦においては勝利を掴み取るきっかけを与えるなど充実した毎日を送ってきた。

 しかし、そんな生活もある日を境に大きく一変することになる。


「お二人は良き親友として過ごしてきたのだが、アフラマ様は次第に彼に対する好意を抑えきれなくなってしまってそれで...」

「やっちゃったのか!?」

「ああ、その通りだ」

「何だそりゃ!?」


 レジーナの父もまた同性愛者だった事実を前にして守は頭痛を覚えてしまう。

 しかしながら、戦国武将の例から見て分かるとおり古代の戦場では同性愛に走る者も多く、武田信玄が同性の恋人に浮気の謝罪文を贈った話などは有名である。 それ故に傭兵団の中で娼婦を同行させる又は駐屯地に娼館を設置させて風紀の維持に努める動きがあったのだ。


「私達エルフはそんなに性に対する執着は強くはないのだが、アルメア様と相手できない分の鬱憤が溜まっていたのだろう。 3日間ほど公に姿を見せなかったのだが再び姿を現した瞬間、その兵士の姿が様変わりしていたことに事態が一変してしまった」

「え?」

「おい、それってまさか...」

「その兵士は女だった」

「「えええええ!?」」


 某ギャルゲーのような展開を前にして二人は驚きの声を上げる。


 男だと思って襲った兵士が女の子でした~


 ......人はそれをアホと言う。 散々父親の自慢話を聞かされてきた手前、守の想像上に存在するアフラマの地位が音を立てて崩れ始めていく。

 目を白黒させて固まってしまう守を前にしてフィリアはたじろぐ事なく話を続け始める。


「実は彼女、アフラマ様と幼い頃からの知り合いでお互い結婚を約束した間柄だったものの、身分の差を意識した両親によって引き離されてしまった。 しかし、彼女は淡い想いを断ち切れずに性別を偽ってアフラマ様の護衛として傍にいるようにしたらしい。 アフラマ様は襲いかかった矢先で彼女の口からその事実を知り、本当の愛を育くむことを決意するとともに彼女にドレスを着せて国王の前で結婚を申し込んだ」

「それって色々とやばくないですか?」

「ああ、国王の逆鱗に触れてしばらくお互い離れ離れで謹慎を命じられたのだが3ヶ月後に恐るべき事実が発覚した」

「まさかそれって...」

「彼女が妊娠していたのだ」

「デキ婚かよ!!」


 あまりの出来事に広澤でさえたまらずツッコミを入れてしまう。 しかし、フィリアはそんな彼の反応を横目にしつつ、守に対しレジーナの出生の秘密を語り続ける。


「アフラマ様は中絶を叫ぶ国王陛下から許しを得るために生まれてくる子供には王位継承権を与えぬことで納得させたのだが...」

「ちょっと待って下さい、レジーナの本当の母親って今はどうしてるんですか?」

「彼女の名前はマードレー...私達を帝国の船から脱出させるために命を散らせたメイド長だ」


 ようやくフィリアの口から明かされたレジーナの本当の母親。 彼女は娘を守るために自身を死んだことにして身分を偽り、メイド長として彼女の成長を見守ってきたのである。

 

「マードレー様は愛する人を殺してしまった私の命をお救い下さっただけでなく、私を信じてあとのことを託してくれた......」


 辛いことを思い出したのかいつの間にかフィリアの目から涙が溢れ、拳を強く握り締める。

 そんな彼女の身を想い、広澤は隣に座ってそっと肩を寄せる。


「守殿、姫様を幸せにする気はあるか?」


 広澤に宥められつつも震える口で問いかけるフィリアの言葉。 この秘密を知ったからには守に対し、レジーナを守り通す決意がるのか試されているのだ。 しかし、彼の脳裏に答えは一つしかない。


「俺は...夫としてレジーナを支えていく、そう決意したんだ」


 既に守の中の決意は揺るがないものになっており、彼の決意を確認できたからかフィリアはニッコリと笑顔を見せるのであった。   

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