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亡国の王女の初恋  作者: 日野森
幼い恋
8/55

07


エルフィードがフェイル男爵家を継いで1年と少し。


真面目で実直な性格のエルフィードが一番面倒だと思ったのが、王都の貴族たちの皮肉交じりのやり取りだった。

階級至上主義の貴族たちの厭味の応酬には、未だに慣れない。

ハーヴェイは、それも貴族であるが故の性だと言っていたが、代々騎士の家系だけあって、エルフィードにそういった貴族意識はあまり無かった。


エルフィードが慣れない社交の場で、下級貴族だとか、田舎貴族だと厭味を言われることを、言われた本人よりもずっとハーヴェイの方が腹を立てていた。

エルフィードが言われるがままで、何も言い返さないことが、ハーヴェイにとって更に苛立ちを増幅させる原因でもあった。


どうして言い返さないのかと、聞いたハーヴェイに、エルフィードは「何も同じ目線で立つ必要は無いから」と真っ直ぐな目をして答えた。

当時まだ17歳の若いエルフィードのその言葉に感心したハーヴェイは、密かに、そして勝手にエルフィードを小ばかにしてきた貴族どもを見返してやると誓った。


フェイル男爵家の身分をもっと高めて見返してやろうと。

二度と、下級貴族だとか田舎貴族などとは言わせない、と。


その方法の一つに、結婚という手があった。





「ベリアルの件も一段落したし、そろそろお前も妻を娶る頃合だろうと思って」


突然のエルフィードの訪問にも、嫌な顔一つせずに、ハーヴェイは迎え入れてくれた。

恐らく、エルフィードがやってくるのを見越していたのだろう。


「まだ俺には早い。未だにハーヴェイの手を借りなければ、騎士隊での立場も若輩者だ」

「ああ、でも実力はあるんだから、その点は大丈夫だよ。俺の手助けが無くても、十分だよ」


ティーカップを片手に、ハーヴェイは優雅に微笑んだ。

この従兄弟は、若くして騎士隊の副隊長という立場に上り詰めただけあって、頭が切れる。

きっと、エルフィードが何を理由に断ろうと、全て言い負かされてしまうのだろう。


エルフィードは、もう何がどうという理由をつけるのは無駄だと、覚悟を決めたように少し息を整えた。


「今はまだ、結婚する気になれない」

「どうしてだ?」

「…もう少し、結婚の話は待って欲しい」

「そうか。だが、見合いぐらい良いだろう。結婚まで時間をかけたって問題は無い」


無理だ、と素直に言ったところでハーヴェイの良いように持って行かれてしまう。

エルフィードは、こういう所が流石だとまるで他人事のように感心した。


しかし、このままでは確実に「見合いはする」という方向へ持っていかれてしまう。

エルフィードは慌てて、首を振った。


「見合いもまだいい。見合いの話も、もう少し待ってくれ」

「固く考えるな。軽く会う程度だと思えば良いだろう。ちょうど、今、うちに来てくれているのだから」


したり顔でハーヴェイが、エルフィードを見た。

エルフィードは、まんまとハーヴェイの術中にはまってしまったのだと、言葉を失った。






「エルフィードは分かりやすい性格をしている。実直で、悩むより先に行動するタイプだ。向こう見ずな行動じゃなく、きちんとそれなりに考えた上で行動を取る」


隣の部屋にエルフィードと、そのお見合い相手というご令嬢を放り込み、ハーヴェイは満足そうにティーカップに口をつけた。

そんなハーヴェイの隣では、コートネイが苦笑を浮かべている。


「だからこそ、周りからの批判にも…言われるがままなんだろうな…」


ティーカップをソーサーに置き、ハーヴェイは小さく溜息をついた。

コートネイも、ハーヴェイの本意というものを理解している。

少々やり方は強引だと思うが、フェイル男爵家にとって悪い方向には進まない話だろう。

だが、それはエルフィードの意思とは無関係の方向でもあった。


「ハーヴェイ様のお気遣いはありがたく受け取ります。しかし、エルフィード様のご意思ももう少しご理解頂けると」

「貴族の結婚なんて、こんなもんだよ。別に好きだから結婚するなんてことは無い。俺もそうだ。用意された選択肢から一番良いものを選ぶだけだ」

「奥様が聞かれると、ショックを受けるようなお言葉ですね」


コートネイは困った表情で、ハーヴェイのティーカップに新しいお茶を注いだ。


「そうかな。まあ、でも…結婚したら情も湧くだろう。それがあれば円満な夫婦になれる。ベリアルの王女にだって、エルフィードはすぐに情が湧いたみたいだから。きっと誰とだってうまくいくさ」

「中々、強引な方法ですね」


ハーヴェイにはハーヴェイの考え方があるのだ。

貴族社会ではよくある考え方なのだろうが、男爵家と名ばかりで貴族社会とは無縁の生活を送ってきたエルフィードにとっては、到底理解出来そうに無いだろう。

コートネイは、隣の部屋に続く扉を眺めながら、主が出てくるのを待った。




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