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亡国の王女の初恋  作者: 日野森
番外編
49/55

小さな家の話


朝、柔らかな陽の光が差し込む小さな部屋で、シャレルは目を覚ました。


小さな部屋には、小さなタンスが一つとベッドが置かれているだけで他に何も無かった。


ベッドも狭くて、少し体を動かすと、すぐ隣に眠るエルフィードの体に当たる。

シャレルは目を開け、目の前のエルフィードの前髪にそっと触れた。


二人で眠るには狭いベッドが、シャレルはお気に入りだった。

ベッドから落ちると危ない、とエルフィードが抱かかえるように眠ってくれる。

寝返りをうつと、必ずエルフィードはシャレルを抱えなおすように抱きしめてくれた。

眠っている無意識の間の行動でも、シャレルはそれがたまらなく嬉しくて…この家に住み始めてから暫く…中々眠れなかった。

狭いベッドでは、手を伸ばさなくても、すぐ近くにエルフィードがいて、簡単に触れることも出来る。

一晩中、エルフィードの肌の温もりを全身で感じることが出来る。


屋敷に住んでいた頃の広いベッドより、ずっと好きだった。


「…おはよう」


少し眠そうな顔をしながら、エルフィードが目を覚ました。

エルフィードの前髪を触っていたシャレルに、微笑みかけながら朝の挨拶をする。


「おはよう」


ほんの少し顔を近づけただけで、唇に触れることが出来る。


「ご飯、用意してくるわ」

「俺も手伝うよ」


床に散らばっている服を拾い上げ、エルフィードはそれらをシャレルに手渡した。


「…ありがとう」


少し照れたように微笑み、シャレルは渡された服に袖を通し、ベッドから降りる。

まだ少し眠そうなエルフィードよりも先にシャレルは、寝室を後にした。




寝室を出て数歩のところに台所がある。

台所だけでなく、洗面所や書斎代わりの小さな部屋も、全てがほんの数歩の間に存在している。

シャレルは狭いベッドも、そしてこの小さな家もお気に入りだった。


朝の支度を終え、シャレルは台所に立った。

鍋に水を張り、火をつける。


野菜を洗っていると、足音が近づいてくるのが聞こえた。


前の広い屋敷では、どこにエルフィードがいるのか分からなかった。

書斎にいるのか、自室にいるのか…食堂にいるのかも、広すぎて探さなければ分からなかった。

一番に出迎えるために、エルフィードが帰ってくる時間帯、シャレルはずっとバルコニーからその帰りをまだかと待っていたものだ。


小さな家の中、どこにエルフィードがいるかもすぐに分かるし、扉が開く音で帰ってきたことも分かる。

家の中、どこにいたってすぐに出迎えることが出来る。

物音一つとっても、傍にいるのだと感じることが出来て、何ともいえない幸福感を感じた。


この小さな家が、シャレルは大好きだった。


「エル」


名を呼べば、エルフィードが笑顔で台所に立つシャレルの隣にやってきた。


「何を手伝えばいい?」

「鍋の火を見てて欲しいの」

「…それだけ?」

「うん。隣で火を見てくれるだけで、十分」


野菜の皮を剥きながら、シャレルが微笑む。

包丁ぐらい使えるんだけどね、とエルフィードは苦笑いを浮かべながら、鍋の火を調節し始めた。


狭い台所で、二人で立って準備をする朝。

手を伸ばせば、すぐに触れることが出来る距離感。


「…前のお屋敷は広すぎたわ」


シャレルはこの距離感がたまらなく好きだった。


「まあ、使ってない部屋もあったからな。でも、ベッドは狭すぎるだろう。また落ち着いたら買い替えないとな」

「だめ。あのベッド、お気に入りなの」

「…狭いだろ」

「ちょうどいいの!」


何も分かって無い、とシャレルは少しむすっとした顔になる。

エルフィードは何だか可笑しくて、はいはい、と笑ってシャレルの頭を撫でた。



そうして二人は仲睦まじく、今日も小さな家の小さなベッドで寄り添いながら寝るのでした。



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