最終話
シャレルと別れを告げた時は、あれほど足取りも重く、息も苦しかったというのに。
今、何もかもを手放したが、驚くほどに気持ちが晴れている。
どうして、こんなに分かりやすい自分の気持ちに気づけなかったのだろうか。
思いも伝えず、後悔ばかりしていた。
今更、エルフィードはこの簡単な選択を、難しく考えていた自分が可笑しくなった。
そのまま、城門に続く廊下をエルフィードはシャレルの手を握って歩いていた。
「…シャレルと別れた時、凄く胸が苦しかった」
「私なんて…ずっとよ。ずっと…7年間、エルの傍にいたら胸が苦しかった」
「これからは…?これからも苦しめてしまうのか?」
「大丈夫。もう、苦しくない。エルが私のこと、好きって言ってくれたから…それだけでいいの」
少し頬を赤く染め、シャレルは握った手に力を込める。
幸せ過ぎて、足が宙に浮いているようだ。
それでも、シャレルには一つだけ気がかりがあった。
「エルは…いいの?本当に、全部…私の為に…」
「シャレルが一番大切だったから。他は何を失くしても良い」
エルフィードが微笑むと、シャレルが少し照れながらも微笑み返した。
二人は幸せそうに互いの手をしっかりと握りあい、城を後にした。
それから数日後。
小さな教会で、シャレルとエルフィードは愛を誓い合った。
参列したのは、コートネイとセイムだけ。
着ている花嫁衣裳も、豪華なものでは無く、白い普段用の服に少しレースやリボンを散らしただけの簡単なものだった。
そんな小さな結婚式だけれども…誓いのキスの後、あまりに幸せでシャレルは思わず泣いてしまった。
「こんな幸せって無い」
手作りのテーブルに、手作りの料理を並べて、セイムとコートネイに祝われて小さな披露宴が始まった。
何も特別なものは無い。
家も職も全て手放し、シャレルとエルフィードには何も残らなかった。
僅かに残っていた家財道具も、湖の畔に建つこの小さな家を得る為に全て売り払った。
全てを手放して、新しく生活をスタートさせる…だけれども、何も不安は無く、とても幸せに満ちていた。
シャレルは満面の笑みを浮かべて、テーブルの上に料理を並べていく。
隣を見れば、シャレルが作った料理を「美味しい」とエルフィードが食べる。
「私、良い奥さんになるわ…エルの為に頑張るわ!」
「いつものシャレルでいいよ。無理しなくても」
「無理なんてしてないわ。この為に頑張ってきたんだもの!」
王女だった頃より、フェイル男爵令嬢だった頃の方が幸せだった。
でも、一番は今。
何の身分も持たない今が一番幸せだ。
「私…エルがいればそれで幸せだわ」
ずっと7年間抱いていたその初恋は、
青空の下、小さな湖の畔で今日も続いていく。
これにて本編は終了です。
ここまでお付き合いありがとうございました。
また番外編もちょこちょこ載せていくつもりなので、そちらも読んで頂けると幸いです。




