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亡国の王女の初恋  作者: 日野森
白い花の決断
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二日後。


王太子を待たせるな、というハーヴェイに従って、シャレルは早々に出立を決めた。

たった二日しか時間は取れない、とハーヴェイには言われたが…

シャレルにとっては十分だった。


ベリアルからフェイル家にやってきた時と同じ。

荷物は何も無い。小さな箱一つ埋めることが出来ない。

少しの着替えと、オルゴールだけ。

それ以上、何も必要だとは感じなかった。


「お嬢様…せめてエルフィード様が戻られてからでも…」

「そうですよ、お嬢様!エルフィード様とお顔を合わすこと無く行かれるなんて」


小さな箱を馬車に詰め込み、シャレルは門の前でコートネイとセイムと最後の別れの挨拶をしていた。

二人がどれだけ引きとめようと、シャレルは決して首を縦に振らなかった。


せめてエルフィードともう一度話を、と言われてもシャレルは頷かない。


「…王城で会えるから、平気よ」


これから向かうのは、ラベルト王城だ。

エルフィードもそこで働いている。

もうあと少しエルフィードの戻りを待てないのか、と何度もセイムやコートネイに言われたが…

それをハーヴェイが許さなかった。

シャレル自身も、待つ必要など無いと思っていた。


思い出が詰まったこの屋敷で会えば、泣いてしまうかもしれない。

最後は笑顔で別れを告げたい。

だからこそ、シャレルはエルフィードが帰ってくる前に出立することを快諾したのだ。


「そうだよ。今生の別れじゃないんだ。今日にだって王城でエルフィードに会えるよ」


ハーヴェイが柔らかな微笑を浮かべながら、口を開いた。


王城に着く頃、ちょうどエルフィードは勤務が終わる頃だろう。

仕事が終わり、帰ろうとするエルフィードと少し顔を合わせるだけ。

それだけの時間しか用意出来ないよう、ハーヴェイはこの日のこの時間にシャレルを迎えに来たのだ。


あまり長い時間を取ると、シャレルの気が変わるかもしれない。

エルフィードも可愛いシャレルを手放せない、などと言うかもしれない。


そんなことになっては困るのだ。


「さあ、早く乗って。そろそろ出ないと」


セイムやコートネイとの別れにもそれほど間をかけさせること無く、ハーヴェイはシャレルを急かした。


「…今まで、ありがとう」


名残惜しい気持ちではあるが、シャレルは笑みを浮かべて二人に頭を下げた。

厄介な存在であった自分を二人とも本当に心から可愛がってくれた。

シャレルはセイムにも、コートネイにも、感謝の気持ちでいっぱいだった。


自分が王太子妃になることで、二人にも豊かな暮らしが与えられれば良い。

これが一番、幸せな道なのだ。

私が選択を間違えると、皆が不幸になるのだから。

これが一番だ。

シャレルは自分にそう言い聞かせながら、馬車に乗り込んだ。



馬車の窓から流れていく景色は、ほんの少しシャレルの胸を締め付けた。


思い出の場所たちにも、別れを告げるように。

シャレルは窓の外の景色をずっと眺めていた。










王都から離れたレンフェスト伯爵邸の別荘で、ヴェスアードはその知らせを受けた。

シャレルに花を贈ってから、どこか塞ぎ気味だったヴェスアードを心配し、自分の別荘地での狩りを進めてきたのは…もちろん、ハドリーだ。


乗り気になれない狩りではあったが、王城でいるよりは少しは気分も紛れる。

一通りの準備を終え、馬に跨った時…後ろから駆けてきたハドリーがシャレルが登城するということを告げてきた。


「喜ばしい話ですね、殿下。シャレル嬢が申し入れを受けるというお話ですよ」

「どうせ、クラーク卿とお前が作ったシナリオなんだろう」

「どんな風にシナリオを作ろうとも、そこに彼女の意思が無ければ、こうはなりませんよ」


笑顔で馬の手綱を握るハドリーに、ヴェスアードは溜息をついた。

彼女の意思が無ければ…だが、ほとんどが強要のようなものじゃないのか。


「今は…何か思うところがあっても。将来、必ずこれで良かったと彼女も思える筈です」

「そうかな。まだそうは思えない」

「殿下が彼女を大切にしてあげれば、彼女だって幸せになれますよ」


ハドリーの言葉に、ヴェスアードは小さく頷く。

泣かせたくないと思う一方で、彼女への思いは募っていく。

もし、彼女が自分を選ぶのであれば…ほんの少しでも、彼女の思いがそこにあるのなら。

大切にしよう、彼女を引き取ったあのフェイル男爵の分まで、大切に…幸せにしよう。


手綱を持つ手に力を込め、ヴェスアードは馬の腹を蹴った。



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