表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡国の王女の初恋  作者: 日野森
白い花の決断
39/55

初恋の終わり


朝、目が覚めるとエルが隣で眠っていた。

幸せ過ぎて、胸が苦しくなる。


夜会では…迷惑をかけてしまって、怒らせてしまったのだと悲しかったけれど。

エルは綺麗だったから、見せたく無かったと言ってくれた。

そして、私を奥さんにしてくれるとも。


目の前のエルの髪に触れる。

触れただけで、指先から何とも言えない幸せな気分が広がっていく。


そういえば、7年前…

この屋敷に初めて来た日も、こんな朝を迎えたっけ。

目が覚めて、隣にいるエルを見て…たまらなく幸せだった。


エルがいれば幸せだ。

世界はいつも、こんなに綺麗で明るい。


幸せだった。

でも、その幸せはあっという間に終わってしまった。




「シャレルにとって、一番幸せな道を選ぶんだ」


エルが口にする言葉は、どれも好きな筈なのに。

エルの声を聞くだけで、温かな気持ちになる筈なのに。

怒られた時でも…こんなに深く心を抉られたことは無い。

一番、幸せ…?


私はエルの隣にいれたらそれで幸せなのに。

王太子妃になって、エルから離れるのが…幸せ?


私の世界はまた暗くなる…

ううん、もう…エルの隣にいる幸せを知ってしまったんだから…

エルと出会う前の世界に戻るんじゃない。


もっと、冷たくて、もっと、苦しくて、切ない。

暗いなんてものじゃない。

色が無くなるんだわ。


仮面なんてものじゃない。

誰の顔も見えなくなる。

真っ暗になるんだわ。


そして、

ずっとエルを思って、ずっと悲しい毎日を過ごすんだわ。


「エル、幸せって…なに…?王太子妃が、どうして幸せなの…?なにが幸せなの…」


贅沢なんていらない。

煌びやかなドレスなんていらない。

宝石なんていらない。

そんなもの、全部何の価値も無い。


美味しいものも、エルと一緒じゃなきゃ砂を食べてるのと一緒。

ドレスや宝石なんて、ただの布と石。

エルが綺麗だと言ってくれなければ、そんなものを身につける価値なんて無い。


そんなものに囲まれて幸せ?

一体、何が幸せなの。



悲しくて切なくて、涙が止まらない。


そんな中、響いてきたのは残酷な言葉。


「君が王太子妃になればね、フェイル家も豊かになる。君が国母になれば、フェイル家は王族の親戚として末代まで富と名声が手に入るんだ」


それが、一番幸せな未来だとは思わないかい?


そう聞いてきたその人の顔は、涙でぼやけていた。


本当は分かっていた。

王太子からの結婚を断るなんて不敬…騎士として代々王家に仕えるフェイル家ではあってはならないこと。

それでも…エルが私を選んでくれたら、と思っていた。

甘えていたの。


彼…ハーヴェイ・クラークは…私の耳元で囁く。


エルフィード、フェイル家の子孫たちの幸せなんだよ。

だから、君は王太子妃になるんだ。

きっと君も幸せになれる。

フェイル家もずっと続く幸せを手に出来るんだ。


それが、一番幸せな未来だと言うのだろうか。


私が…

我慢すれば…

エルも、皆が幸せになれる?



私は捨てられた身だわ。

拾ってくれたのはエル。


私は自分がエルの傍にいたいからって、随分なことをしてきた。

分かってる。

酷い女だって、醜い女だって分かってる。

でも、頑張れば…エルに相応しい女性になれば、きっと…

きっと、ずっとエルの傍にいれると…そう思っていた。


でも、それは間違いね。


こんな醜い嫉妬ばかりの女…エルの傍にいても、足枷にしかならない。


何の価値も無い、こんな私なんて。



拾ってくれただけで、それだけで十分だったんだわ。

そう思わなければならなかった。


それを…嫉妬心で、酷いことをしてきた。

何度、彼のお見合い話を潰してきたのだろう。

エルの傍にいたいからって。取られたくないからって。


こんな価値の無い私だけれど、

それでも…エルを幸せに出来るなら。


「分かりました」


楽しかった毎日。

幸せだった毎日。


エルが帰ってきたら抱きついて、

それをエルが笑顔で受け止めてくれた。


私の淹れた美味しくないお茶を、それでも笑って飲んでくれて。

庭でダンスの練習をして、足が絡んで二人一緒に転がって。


毎日が夢のようだった。


奥さんにしてくれるって、あの言葉も。


そう、夢だったんだわ。

そう思えば…大丈夫。


幸せだったんだから。

夢のような幸せを貰ったんだから。


それで十分。

これが当たり前だと思うのは、間違いなのね。


大切な、私の思い出。

あなたへの思い。

そっと胸の奥に仕舞って。


「私、王太子の申し入れを受けるわ」


誰の為でも無く、

エルの為に。


私は貰った分ぐらいの幸せを、あなたに返したい。


もう涙は見せない。

せめて笑顔であなたとお別れしたいから。


お別れしても、私の気持ちはずっと変わらない。

7年前から。

エルのことがずっと好きだった。

そしてこれからも。

何も変わらない。



ありがとう、

さよなら、私の初恋。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ