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朝日が昇る頃、エルフィードがようやく自室から出て来た。
今日からまた暫く、王城での勤務になる。
エルフィードはいつもと変わらぬ風に仕事に向かう準備を進めた。
朝の冷たい空気の中、騎士の制服のボタンを留め、ローブを羽織る。
そんなエルフィードの隣では、いつものようにコートネイが控えていた。
何も言わないエルフィードに、コートネイも黙って準備を手伝うだけだった。
全ての準備が終わった後、エルフィードは伏し目がちにコートネイに尋ねた。
「…シャレルは」
目を合わせない主の問いかけに、コートネイはゆっくりと頭を下げた。
目を合わせないということは、見られたくないのだろう…
きっと、エルフィードは辛そうな顔をしているのだろう、と。
それを察し、コートネイは自ら頭を下げ、視線を落とした。
「…お嬢様は、部屋から出て来られません」
「そうか。思う所があるのだろう…暫くそっとしておいてあげてくれ。ただ、食事だけは取らせるように」
「畏まりました」
「頼んだ」
最後までコートネイと目を合わせることが無いまま、エルフィードは屋敷から出て行った。
コートネイは、扉が閉まった音が聞こえてからも暫く頭を下げたままだった。
その日の昼過ぎ…
相変わらず静まり返っている屋敷へ、明るい声色の訪問者がやって来た。
王太子からの結婚の申し入れを一番喜んでいるであろう人物。
「…ハーヴェイ様。エルフィード様は…お仕事に向かわれていますが…」
機嫌の良さそうな笑みを浮かべるハーヴェイを、コートネイは訝しげに出迎えた。
エルフィードと同じ騎士隊に所属しているハーヴェイのことだ、エルフィードが今日から王城勤務だということは知っているだろう。
それなのに、わざわざ出向いてきたということは…目的はシャレルだろう。
しかもそれは、きっとシャレルにとって良い訪問にはならないだろう。
「分かっているよ。シャレル嬢に用事があるんだ」
「シャレルお嬢様は体調が思わしくありません。今日のところはお引取り下さい」
「まさか。昨日はあんなに元気だったろう」
「ハーヴェイ様、お嬢様は…」
「ああもう、いいから」
どうしても屋敷に入れたくないコートネイのことなどお構いなしに、ハーヴェイは半ば強引に屋敷へと入り込んだ。
ずかずかと屋敷に上がりこんだハーヴェイは、コートネイが何を言っても聞く耳を持たない。
一直線に、ハーヴェイはシャレルの部屋へと向かった。
「ハーヴェイ様、お待ち下さい!お嬢様は…!」
「いつまでもあの娘の我がままに付き合ってられないんだ。ラベルトの王太子を待たせることがどれほどの不敬か!」
「まだ昨日の今日です!お嬢様も気持ちの整理が…」
「気持ちや感情の問題なんて、どうだって良いんだよ。王太子の申し入れは、国からの命令だ」
いくらコートネイが制止したところで、ハーヴェイは気にも留め無かった。
その喧騒は、シャレルの部屋にも十分届いていた。
泣き腫らした目をこすり、シャレルはゆっくりと立ち上がった。
少しだけ髪を整え、シャレルはドアノブに手をかけた。
「…ご機嫌よう、クラーク卿」
マナーの本の通り、シャレルは綺麗に頭を下げ、ハーヴェイにお辞儀をした。
「やあ、シャレル嬢。君に話があってね」
シャレルの姿を見つけたハーヴェイの声は更に明るくなった。
ゆっくりと顔を上げたシャレルの泣き腫らした目を見ても…ハーヴェイの表情は変わらなかった。
「…分かりました。コートネイ…お茶を用意してくれるかしら…」
消えそうな声で、シャレルが言う。
コートネイは辛そうな顔で頷くことも出来ず、立ち尽くしていたが。
「ああ、コートネイ。エダンを頼むよ」
一時間は邪魔をするな、という意味を込めてハーヴェイから告げられた茶の種類に、コートネイは苦々しく頷いた。
このやり手のハーヴェイにかかれば、シャレルを操ることなど容易いだろう。
せめて傍にいて、シャレルを庇ってやりたかったのだが…
「…お願いね、コートネイ」
無理に微笑むシャレルにそう言われてしまったコートネイには、傍にいることすら出来なかった。




