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亡国の王女の初恋  作者: 日野森
焦がれる日々
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29


次の日。

シャレルの部屋から出てきたエルフィードは、セイムやコートネイに昼過ぎになるまで叱責を受けた。


「未婚女性の部屋で一晩過ごすなんて…!!いくらお嬢様が許したからと言っても非常識でございます!」


朝一に言われた言葉を、昼までに何度セイムに言われたことか。

シャレルが何度も庇ってくれたが…それでも、セイムの叱責は終わらない。

今日一日、この叱責を受けるのだろう。いや、一日で済めば良いのだが…とエルフィードは朝から繰り返している反省の弁を述べた。


「セイムが怒るのも分かります。エルフィード様にはもう少し、常識ある行動を取って頂きたいものです」


感情的になるセイムと違って、コートネイからは、朝から笑顔で嫌味を言われ続けている。

セイムよりも、こちらの方が手ごわい気がする。


エルフィードは溜息をつきながら、昼食のスープを口に運んだ。

そんなエルフィードの隣の席で、シャレルが小さく丸まって俯いている。


「…ごめんなさい」


昼食に手をつけず、シャレルはぎゅっと唇を噛み締めた。

大切だから手を出さないと言ってくれたエルフィード。

そんなエルフィードだけが怒られる。

自分にも非がある、といくら訴えても、セイムもコートネイも…シャレルには何も言わなかった。

それが余計に心苦しかった。


「シャレル、いいんだよ。悪いのは俺だから」

「私も悪いわ…なのに、エルばっかり怒られるなんて」

「結婚する時はね、夫は妻の両親に結婚の許しを請うんだよ。俺の父も、母の両親からは色々と言われたそうだよ。俺にはそれが無いから…これも通過儀礼みたいなものだ。むしろ、楽しいぐらいだよ」


俯くシャレルの髪をそっと撫で、エルフィードが笑顔を見せた。

ようやくシャレルの表情が明るくなる。


「そうですよ、お嬢様!ご結婚する時は…あ、あら?」

「…エルフィード様、ご結婚されるのですか?お嬢様と?」


セイムとコートネイが目を丸くして、エルフィードを見つめてくる。

どういうことだ、と説明を求める二人に、エルフィードは少し照れたように笑った。


「だから言っただろ、責任は取るって。手は出して無いけど」


朝一の叱責からずっと言い続けていた「責任は取る」という言葉。

どういう意味かあまり深く考えずに、セイムもコートネイも叱責を続けていた。

その意味がようやく分かり、二人は顔を見合わせた。


「ちゃんとラベルト貴族の作法に則って申し込むから、まだ正式な婚約では無いけど」


ラベルトでは、白い一本の花に、白いリボンを巻き、女性に手渡す。

それには、後日、結婚を申し込むという意思が込められているのだ。

その花を贈った数日の後、正式に指輪を用意し、改めて結婚を申し込み、女性がそれを受ければ婚約となる。

女性は花を贈られて、指輪を貰うまでの数日間、結婚の申し入れを受けるかどうかを考える時間があるというのだ。


「まあ!早くお花をご用意しなくては!」

「待った甲斐があります。早くご準備を進めましょう」


セイムとコートネイの態度は一変し、上機嫌でああだこうだと楽しげに話を進めてくる。

それに頷くエルフィードの横で、シャレルは満面の笑みを見せた。

セイムやコートネイも賛成してくれている。

シャレルはそのことが何より嬉しかった。






昼食が終わり、午後の時間をエルフィードはシャレルと二人で二階のバルコニーでお茶を楽しみながら過ごしていた。


「…相変わらず…薄い茶だ」

「蒸らす間、隣にいてくれたら…ちゃんと淹れられるわ」


口を尖らせながらシャレルは、エルフィードのカップに再びお茶を注いだ。


「…私、本当に…エルの奥さんになれるの?」

「それはシャレルが選ぶことだよ。花を贈った後、よく考えてくれればいいよ」

「…もう決まってるのに」


もどかしくてたまらない。

選ぶなんて言われても、シャレルの選択肢は一つしかない。

ずっと、焦がれてきた相手の妻になれるなんて、幸せすぎて胸が苦しい程だ。


そんな話をしていた時…俄かに外が騒がしくなってきた。



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