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亡国の王女の初恋  作者: 日野森
焦がれる日々
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まだ夜会は続いている。



ゆったりとした音楽になり、ダンスホールから漏れる光が少し暗くなった。

夜会はちょうど中盤に差し掛かったぐらいだったが…


国王と王太子が共に退席したことから、エルフィードの仕事は終わった。

後のことをパーシーや他の同僚たちに任せ、エルフィードは城門で帰りの馬車を用意していた。


「エルフィード、連れてきたぞ」


準備が整った頃、ハーヴェイがシャレルを連れて城門にやって来た。


「エル…」


ハーヴェイの後ろからやって来たシャレルは、沈んだ顔をしている。


「帰るぞ」


泣いていたのだろう。

目を腫らしたその姿が痛々しくて、エルフィードはシャレルから顔を背けた。


「あまり怒るなよ。夜会にも参加させて貰えなかったシャレル嬢が可哀相だ」


ハーヴェイが心底気の毒そうにシャレルを見た。

泣き腫らした目を隠すようにシャレルは俯きながら、ゆっくりと馬車に乗り込もうとしている。


「…分かってる」


そう言いながらも、エルフィードの表情は堅かった。


色々な感情が未だにエルフィードの中で消化出来ずに渦巻いている。

シャレルに対して、自分が抱いている感情が何なのか。

分からない訳じゃない。

だが、中々それを認めることが出来なかった。






帰り道。



王都からフェイル家までは結構な時間がかかる。

にも関わらず、馬車の中でエルフィードとシャレルは一言も口を利かなかった。


謝ろう、と思ってシャレルが口を開こうとしても…

前に座るエルフィードは目も合わせてくれず、外の景色を黙って見ているだけだった。


月夜に照らされたエルフィードのその横顔に、シャレルは胸が苦しくなる。

ずっと恋焦がれた相手は、こんなに近くにいるのに…

どれほど頑張っても手が届かない。


子供の頃の方が近かったかもしれない。

素直に甘えられて、エルフィードもそれを受け入れてくれた。


大人になれば、エルフィードの隣に立てると思っていた。

子供の頃は、ただ大人にさえなれば良いのだと思っていた。


今はどうすれば良いのか分からない。

行儀作法も、ダンスも、料理だって裁縫だって頑張って身につけたつもりだった。

エルフィードの隣に立っても、恥ずかしくない存在になるためにと頑張ってきた。

それだけ努力してきたけれども…大人になっても、手が届かない。

一緒に住んでいて、ずっと近くにいるのに。


自分は、それだけ…何の魅力も無いのだろう。

どれだけ頑張ったつもりでも、何も変わらない。

我が儘で醜い嫉妬ばかりの子供のままだ…


シャレルは更に自分が情けなくて惨めに思え、溢れ出しそうな涙を堪えるのに必死だった。






エルフィードとシャレルがフェイル家の屋敷に戻ってきたのは、随分と夜が更けてきた頃だった。

帰宅後すぐにシャレルは早々に自室に駆け込んでしまった。



せっかく王都まで来て参加した夜会なのに、ずっとバルコニーにいろと言ったのは可哀相な話でもあるかな、とその点はエルフィードも反省した。

だが、あの薄汚い狸公爵や見境の無い伯爵子息がシャレルを見ていると思うと、不快で仕方なかった。

それ故にエルフィードはバルコニーにいろときつく言ってしまったのだが…間違っていたとは思っていない。


それでも、泣き腫らしたシャレルを見て、胸が痛んだ。


シャレルは夜会を楽しみにしていたのだろう。

そんなシャレルの楽しみを潰したのは…自分だ。

シャレルを誰にも見せたく無かったからだ。

こんな思いをシャレルに抱いていたなんて。


エルフィードは、小さく溜息をつきながら、気持ちを紛らわせる為に酒でも飲もう、と食堂へと足を運んだ。



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