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亡国の王女の初恋  作者: 日野森
幼い恋
1/55

01



ラベルト王国が長年所有していた国境の山から、金が発掘されたことにより、

その山を隔てて隣接するベリアル王国とその山を巡って小競り合いが起きるようになった。


その小競り合いは、十数年後には両国の存亡をかけた大きな争いとなった。

初めの頃は押されていたラベルトだったが、新しい国王・イシュメルによる統率の取れた軍によって、戦局は大きくラベルトに傾いた。


そしてこの争いが始まって25年経ったこの日、雪が舞うようになってきたこの季節、

国王の戦死を以って、ついにベリアル王国はラベルト王国に敗戦した。






雪が降る中、ラベルト国王・イシュメルを先頭にラベルト軍がベリアル王城へと入城する。

イシュメル国王を囲むように重々しい鎧を身に纏った騎兵隊が列を成し、その後ろを木で出来た棺と歩兵隊が続く。


王城へと入城したラベルト王国の軍を迎えたのは、ベリアルの宰相と王妃だった。

既に敗戦と、ベリアル国王の死を告げられていた王妃の目は、赤く腫れていた。


降伏条件をラベルト国王が告げ、それをベリアル宰相と王妃は片膝をつき、恭しく受けた。

こうして、ベリアル王国は無くなり、ラベルト王国の属領となった。

この時から、ベリアル王家の解体が始まった。

イシュメル国王と、その側近と騎士隊はベリアル王城に数日留まり、すぐにその手配を進めることとなった。




王家の解体は、ラベルト国王と宰相の決定を基に騎士隊が処理を進めていくこととなっていた。

王子や王妃に対する処遇は入城前から決まっており、既に準備が始まっていた。

残るは王女たちの処遇のみだった。

そしてその話し合いが、ベリアル王城の広間の一室で行われていた。


「それで…王女たちの処遇だが…」


騎士隊をまとめあげる、今年で40を越えたウォレス隊長は立派な髭を撫でつけながら呟いた。

ウォレスの隣には、今年で27になる若き副隊長のハーヴェイ・クラークが控えていた。

二人を取り囲むように数人の騎士たちが控えており、その中には最近、見習いから正式に騎士に昇格したエルフィード・フェイルもいた。

エルフィードはハーヴェイの従兄弟にあたり、つい昨年、フェイル男爵家を継いだばかりのまだ18歳の青年だった。

ハーヴェイは、このまだ若く努力家な従兄弟がお気に入りだった。

それが故に、まだ若く新参者のエルフィードが、騎士隊の中でも選ばれた者しか入れないこの場に立てているのだ。


暫くの間、ウォレスとハーヴェイ、騎士たちの間に沈黙が続いた。

ウォレスが一向に王女のことを話さないので、ハーヴェイが先に口を開いた。


「王女は我が国の貴族にでも嫁がせる、それで問題無いはずでは?ちょうど適齢期の姫君ばかりでしょうし。姫君を引き取ることによって報酬として土地も得られますし、断る意味も無いでしょう」


ハーヴェイの言葉に、ウォレスも頷く。

それらは既にイシュメル国王やその側近たちとの間でも決まっていたことだった。

ラベルト国内の貴族の元へ王女たちを引き取らせる…王女たちが適齢期であれば、結婚という形が望ましい、と。

騎士隊に任せられたことは、その王女たちの引き取り先、つまりは嫁ぎ先を探し、送り届けるということだった。

独身で適齢期である程度の身分を持つラベルトの貴族…という条件で探すと、嫁ぎ先も限られているし、何も悩むことは無かった筈だ。

しかし、ウォレスの顔はまだ何か思い悩んでるようだった。


「…ウォレス隊長、何か問題でも?」


いくらハーヴェイが難しい話では無いはずです、と訴えても、一向にウォレスの表情は明るくならなかった。

また暫く沈黙が続いた後、ハーヴェイがウォレスの顔を覗き込みながら尋ねた。


「いや、王女の数が王妃の申し出た人数と、宰相の申し出た人数とでは合わないのだ。側妃たちは王妃が正しいと口を揃えるが、ベリアルの宰相や王の側近たちは王妃が間違っていると口を揃える…」


ウォレスは眉間に皺を寄せ、髭を撫で付けていた手を止めた。

それを聞いたハーヴェイも怪訝そうな表情を浮かべた。

いくら戦争に忙しくとも、王族の数を把握していない国があるわけない。


「王女の人数を王妃や側妃が把握していないと?自分たちの子供なのに?」

「それが問題なのだ。どうやら、ベリアル王は側妃の侍女に末の王女を生ませたようだ。王妃や側妃たちはその末の王女を王族と認めていないというのだ」


ウォレスがまた髭を撫でつけるのを再開しながら、思い悩むように俯いた。

王妃や側妃たちが、末の王女を他の王族と同様に扱うのを拒んでいるというのだ。

王女たちがラベルト王国の貴族に引き取られるのも、嫁ぐのも致し方ないと理解を示しているが、末の王女の処遇が自分たちが生んだ王女たちと同等というのが許せないらしい。


「この後に及んで、王妃たちは何と醜いことを」


ハーヴェイは呆れた様子で呟いた。

国は滅び、王家は解体するというのに。

未だに自分たちの中のランクを争っているというのか、と。


「王妃は、その末の王女を自分や自分の生んだ王女の侍女にして、ラベルトに連れて行くと言ってるようだ。だが、宰相がそれは可哀相だと」

「ええ、確かに。大体、侍女を連れてラベルト王国に上がるとは、中々傲慢な考え方の王妃ですね」


敗戦し、亡国になったというのに…

かつてと同じように侍女や召使を連れてラベルトで暮らそうという考えが、ハーヴェイには理解出来なかった。

大体、王妃や側妃には修道院で自活してもらうと決まっているのだ。

侍女だなんてとんでもない話だと、ハーヴェイは呆れ顔で言った。


「それはそうだ。だが…末の王女はまだ10歳だ。適当に嫁がせるにしても、幼い。王族としても微妙な立場である上、引き取り手にも悩むところだ…とりあえず、王妃たちと一緒に連れて行って修道院で暮らさせるかとも思ったが…」


王妃を納得させる必要は無いだろうが、そんな微妙な立場の王女を進んで引き取ろうという貴族はいないだろう。

どうせ報酬の土地と言っても、末の王女の為に用意されている土地なんて農地にも使えない痩せた土地だった。


ウォレスが頭を掻きながら、まとまらない考えに苛立っている横で、ハーヴェイは黙って静かに考えた。

暫くまた沈黙が続いた後、先に口を開いたのはハーヴェイだった。


「…エルフィード、末の王女は君が預かってくれ。養子という形で。報奨の土地も与えるから」


ハーヴェイは、自分の斜め前に黙って控えていた従兄弟を見て、唐突にそんなことを言い出した。


ああ、女の争いってどこも大変だな。国王が侍女になんて手出すから、末の王女も可哀相なもんだな。

他人事のように考えていたエルフィードは、突然、降ってきた厄介ごとに、暫くの間、開いた口が塞がらなかった。


「なるほど。それは名案だ。双方にとって悪くない話だからな」


考えるのが面倒になってきていたウォレスは、ハーヴェイの意見に大いに賛成した。


こうして、ただ黙って立っていただけだったエルフィードが、何故か末の王女を養子という形で預かることとなった。

周りに騎士たちに、同情の眼差しを向けられながら、エルフィードは頷くことしか出来なかった。



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