05
※残虐な表現を含みます
月が良く見える、静かな夜だった。
灸と聖率いる戦闘部隊は、村の南に築かれた壁の前で最後の確認をしている。
「前衛は僕とキュウと猫又ね」
頑張るぞー、とでも言いたげに刀を高く上げる聖。危ない、とその頭を叩くのは灸である。
「ちょっとそこの黒狛犬、私には帳と言う高貴にゃにゃまえがあるのにゃあ!ちゃんと帳と読めにゃ」
猫又と一くくりに片付けられたのがお気に召さないのか、帳は終始にゃあにゃあとうるさい。
「中衛は掬と蓮跳びの蛙」
「おうよ」
「了承した」
そんな猫など気にも掛けず灸が中衛の名を読み上げ、確認は進んでいく。
「後衛は私と大蛇ですね」
「遠距離は任せておけ」
最後に結が静かに括り、確認は終了した。そして各自配置に付く。
「キュウは僕が守るからね」
「何を言っている。お前の方が守られる対象だろう?」
前衛の位置に立った灸と聖はそんな軽口を交わしながらゆっくりと自分の刀を抜いた。
先ほどの喧騒はどこへやら。
森はすっかり、静まり返っていた。
ガサガサと音を立てて何かが闇の中を進んで来る。
『来ました、梢一団です。数はまず五人、次いで四人、最後に何かの籠と六人。武器は猟銃一丁と刀二本、それと何かの薬品が四瓶です』
風に乗せられた夜迷鳥の声が戦闘部隊の耳に届く。人間には聞こえない程小さい音なので、梢一団に聞かれる心配は無い。
灸と聖はそれを聞き取って既に抜いていた刀を構えた。
ガササッ
「行けっ!」
聖にそう指示しながら灸は動いた。構えた刀を横向きに構え直し、大上段に構えて敵の目前に躍り出た聖の後ろからその敵の武器を叩き割る。キンという高い音が辺りに響き渡った。
奇しくも、それが開戦の合図になった。敵も、味方も。
まるで自分たちの行動が読まれていたかのような攻撃に敵が怯んだ隙に、聖が構えていた刀をそのまま振り下ろす。頭からぱっくりと割れた無残な武器がまた一つ。
「……うっ、うあぁああ……」
戦場に立ち慣れていないのか、猟銃を構え引き金に指を掛けたままがたがたと震えている男を灸はその人外の膂力に任せて問答無用にその銃を断つ。
暴発したのか二、三発の銃弾が飛び散り辺りの木々を散らしたが、そんなもの妖怪は気になどしない。
危害を加えられないのなら、と妖怪たちは自身が本来持っている多大なる存在感より発せられる限界までの緊張感で敵を気絶させていく。
「進め!」
気絶した敵とその武器を踏み越えながら灸が叫ぶと、了解と言う返事をする時間すら惜しいとでも言わんばかりに嬉々とした表情で戦闘部隊が駆け出した。同時に町の壁の前に防衛隊がずらりと並ぶのを見て、灸も安堵し走り出す。まだ前線は破られていないらしい。
「怯むな、撃てぇ――――ッ」
泡を食ったように梢一団の戦場指令官らしき薄い外套を纏った男が猟銃を持つ奴に命令をしているが、既に銃は部品の一つ一つまでぐっしょりと濡れており役には立たない。濡らしたのは結。お得意の水を操る戦法でさっさと火薬系を潰してしまった。
「……今回の先鋒は不慣れな奴ばかりなのか?」
近づいてくる敵を軽く刀で捌きながら灸は小さく呟いた。
「どぉーも、そうらしいなあぁっ!どうしたお前ら殺り甲斐が無いぜぇっ?!」
けたけたと薄気味悪く笑いながら薙刀を持った掬が灸の意見を採る。
それだけ、今回の襲撃はレベルが低かった。普段なら町の城壁まで追い込まれているはずで、いつも犠牲を出しながらもぎりぎりで侵入を跳ね除けて来られたかな、と言う程の強さなのだ。鍛錬をして強くなったとは言え、灸は自分でもここまで上手くいくとは思っていなかった。
「いや……もしかすると、上手くいきすぎた……?」
皆景気良く敵の武器をまるで西瓜のようにぱかぱか割っている。血腥くない不思議な戦闘の中、灸は考えた。そう言えば今回の襲撃、見慣れた顔がほとんどいなかった。襲撃に関わる、特に先鋒のメンバーは顔ぶれが毎回ほぼ変わることは無いのだ。今蓮跳びの蛙によって麻痺させられ、そのまま気絶させられた戦場司令官でさえも初めて見る顔だった。
灸がそこまで考えた時、森の向こうの方で何人かがごそごそと動いた。灸のうなじの毛が逆立つ。
これは、悪い予感だ。
「罠だ、退けっ!!」
灸は自分の読みの甘さに後悔しながら皆にそう指示した。
「退け――っ!」
そして、もう一度。
皆を危険から遠ざけるために灸はわざと敵の前に出、戦いに慣れていない敵の目を引き付ける。慣れている者ならともかく、素人にはこれで十分なはずだ。
灸はあからさまに浮き足立った敵の前で刀を横に大きく薙ぎながらもう一度、叫んだ。
「早く!逃げろ――――ぉっ!!!」
それに呼応するように背後の仲間たちの気配が遠ざかっていくのを感じる。
良かった、皆を殺さずに済んだ。心の中で灸は強く思った。
同時に、森の奥で何かが光った。
「うっ……」
光を浴びると共に猛烈な息苦しさが灸を襲う。
あまりにもな苦しさに灸は思わず刀を取り落とし、喉を押さえた。
「く……かはっ……!」
息が出来ない。
五感が遠くなっていく。
自己が認識できなくなりかけた、時。
「ほら、言っただろう?」
誰かの声がした。途端に息苦しさから開放される。
「……誰…だ?」
9/11 やらかしましたすみません!物語の進行自体は変わってませんが、とにかく白狐の言ったこと丸々忘れて敵に危害を加えてしまいました。以後気をつけます。自分のキャラの発言には十分注意しますもう忘れたりしません!
変えた部分
「敵の脇腹を~」→「敵の武器を~」
「血腥い臭い」→「キンという高い音」
「無残な死体」→「無残な武器」
「問答無用にその首を断つ」→「問答無用にその銃を断つ」
「敵の屍」→「気絶した敵とその武器」
「敵の頭」→「敵の武器」
「腹から一刀両断された」→「そのまま気絶させられた」
あと色々足しました。本当にすみません…