03
次の夜、隠密行動に長けた妖怪数名が妖怪町の外に拠点を構えている梢一団の偵察から帰って来た。
白狐は黒狐の様子を探るために、前夜の集会から寝もせず占術と祈祷を繰り返している。今までの情報で分かったことは、黒狐が何かの薬品で力を奪われどこかの檻の中へ閉じ込められているということだ。恐らくその檻は梢一団の拠点にあるだろうと予測される。
偵察によると一団の総人数は二十名程。そのうち何らかの異能者(木代全からの木代の血を継ぐ者は異能の類が発生しやすいが原因は不明)は確認できるだけで五名いると言う。
その拠点の場所は、妖怪町の南側にあるかなり大きな森の中。一団はその名の通り木などの植物を使った妖怪との戦闘を得意とする。最終の止めは銃だが。
そして一団の所有する武器は、毒矢と何かの薬品と猟銃二丁。これは概ね今までの戦闘の時と変わりはない。今までは犠牲を出しながらもこちらが勝利してきた。かといって油断は出来ない。問題は、少し薬品の量が今までよりも多いことだ。
前線に立つ灸ら戦闘部隊はその情報を受けて、戦法の練り直しを行うため再度白狐の屋敷に集まった。度重なる占術と祈祷で疲労している白狐は今回の会議には参加しない。
闇の中に、見慣れた顔が集まる。
誰からともなく、妖怪町の地図を前にしての意見が飛び交った。
「町の南方向に壁を造ってはどうだ」
河童が水かきの手をぱたぱたと振りながらそう言うと、
「いんにゃ、そんにゃことしてる間に梢一団に攻め込まれるにゃ」
猫又がその二又の尻尾を不機嫌そうに左右に振り振り口を動かす。
「だが守りを疎かにすると弱いのも確かじゃ」
攻撃より防御のほうが大事じゃぞ、と諭すように万年亀爺は口ひげを揺らした。
「かといって攻撃をしなければ一方的に攻め込まれるだけだがそこはどうだ、爺」
まるで皮肉るように大蛇が亀爺に疑問を提示する。
「決まっとろう、この甲羅で防御は完璧じゃから後は攻撃するだけじゃ」
「おみゃあみたいにゃ甲羅持っているのはおみゃあだけにゃ亀爺っ!!」
ふみぎゃああっ、と我慢が切れたのか不穏に叫んで短気な猫又がその長い爪を出した。それはまるで鋼鉄のように輝いている。
対して万年亀爺は不敵に笑うと言った。
「やるか、小娘。その自慢の爪がこの甲羅に通用するかのう」
「いい度胸にゃ亀爺っ!その甲羅この猫又の帳様が叩き割ってやるにゃぁっ!」
闇夜に輝く猫目と爪と亀爺の甲羅が乱闘を始めた。周りの妖怪たちは全く素知らぬ顔である。こんな事は会議では日常茶飯事。相手にするだけ自分に被害が及ぶので皆乱闘は無視するのが定石である。
「おぅら、もっとやれやれぃ」
見物人風情でけたけたと笑いながら水を煽っている(大事な会議なので酒は出ない)のは、黒い金魚の化身である掬だ。
「掬、そんなもの見ていないであなたも意見を出してください」
その掬をたしなめるのは極彩色の浴衣を纏う相方、結。こちらは赤い金魚の化身である。いつ見ても似合わない二人だなぁ、と思いながら二人を見ているのは聖。
結局、まともな顔で地図を見つめているのは灸と結だけであった。
ちっとも進まない会議です。
実は会議はたくさんキャラクターが出せるので好きだったりします。