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「よ……四十?」
十四の間違いでなくて?
思わず灸は身を乗り出して面を見る。それはもうまじまじと見る。
「……そんな見つめられたら照れるやないか」
いやいやいやいや、照れるとかじゃなくて。
「十四の間違いではないのか?」
「皆そう言う。やけど、ほんまに四十や」
ちょっと血筋なんか分からんけど、十歳辺りからもう年取らんようになってもてな。続けられた台詞に、二度びっくりな灸。
「や、ちょっと待て。それは体質とか遺伝では済まされないのでは」
「んー、一概にそうとも言えんのよ」
首を傾げる面。
「木代の血には代々なんでか不思議な力が宿るって聞いたことある?」
「むしろ常識だが何か」
「ああそっか、お前らにゃ一族のんがいっつも突っかかっとったな」
「お陰で何人が犠牲になったか……む、それは今関係の無いことだったな。話を続けろ」
「灸ちゃんはあれやな、話脱線せえへんからほんま助かるわ」
にま、と悪役な笑みを浮かべた面は、しかし自分から話を脱線させる。
「ちゃん……?!」
「にゃ、見た目はあれやけど灸ちゃん俺より年下やろ?親戚の子供に対するおじさんの態度や思てどーか聞き流してぇな」
「……それは……そうだが。今はどうでも良いだろう?話を続けろっ!」
顔が赤くなるのは寸止め出来たが。
ぱたぱた、それでも尻尾が動くのは仕方が無いのか。そんな灸を面は本当に自分がおじさんにでもなったかのように笑顔で見ていた。
「で、面の発現した力はその年をとらない身体だったのか?」
「うにゃ、そのとーり。賢いな、灸ちゃん」
「誰でも辿り着くだろう」
「んでなー?俺がなんでこの島におると思う?」
「それは……また、深い事情でもあったのではないか?」
「深いっちゃ深いけどな。多分灸ちゃんが想像してるのんとはちょっとちゃうよ」
「へ?」
「だって俺、自分から望んでここにおるんやもん」
「そうなのか?てっきり私はここに監禁でもされているのかと」
「ある意味監禁みたいなもんやけどな」
でも自分の意思やし。へらりと笑う面はどことなく影を背負っているように、灸には見えた。
「……嫌なことでもあったのか?」
ふ、と口をついて出てくる疑問。面の顔がわあびっくりとでも言わんばかりに驚愕したことより何より、灸が一番驚いていた。何で、自分でも対処に困るような質問を。
「嫌なことなら死ぬ程。でも死にたくなるようなんは無かったなぁ。灸みたいに気にかけてくれる人も何人かおったし」
しみじみと、昔語りをするように。それを見て、ようやく灸は面が四十歳なのだと認識することが出来た。
「初対面に何言っているんだろうな、私は」
自嘲するように笑うと、面も笑った。
「アホやな。こんなんは親友になってもたら恥ずかしぃて出来へんねんで。今のうちや。今のうち」
「それは私と親友になるということか?」
「え、ならへんの?」
「時々なら、遊びに来ても良いが」
「んなら、なろうや。じゃあまずは友達からな」
「どこの告白だ」
「灸ちゃんはほんま可愛いなあ」
「私を可愛いと言ったのはお前で五人目だ」
「わ、大分抜かされとるな」
四人かぁ。
ため息のように吐き出して、面は言った。
「全員ええ子なんやろな。少なくとも目は節穴やない」
「そのうちの一人はあの鴉だぞ」
「前言撤回や。四人のうちの三人はええ子なんやろな」
「そんなにあのコンビが嫌いか」
「嫌いではないねんけどな、しつこいからな。この前も俺の大事な黒い棒盗んだし」
黒い棒?
ふと灸は首を傾げ、懐からあの時拾った棒を取り出す。
「これのことか?」
「あ、それそれ。……どこにあったん?」
後半、声を抑えてにやりと笑った面に、言い知れぬ迫力を感じたのは灸だけではあるまい。
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