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お久し振りです
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ざわざわ、と気味悪く揺れる木々。
灸はそのひとつひとつにびくびくしながらどこかに向けて歩いていた。
「……こんなところ、来るんじゃなかった」
はあとため息一つ。
幸せが逃げると言うから、今の幸せ度はマイナス一だろう。
『そーんなこと、言わんといてかーっ!!』
「さ、逃げよう」
最近こんなパターンが多すぎる。何だ。何か悪い物でも食べたのだろうか。運が悪くなる食べ物など聞いた事も無いが。
声が聞こえたほうとは逆の方向に走る灸。
『ちょい待ちぃやぁ!』
「誰が、待つか」
手抜かり無く全力疾走。
したところで何かに足を取られて灸は転んだ。
「これが噂のデジャブか!」
はっと気付くも時既に遅し。
「にぎゃあああああ?!」
ぬるっとした黒い物体は灸を引きずって森の奥のほうへ。
「……っうぐぅ」
「よいしょぉっと」
最後の一引き。
何か開けたところに着いたと思ったら、そこはどうやら何かの巣のような生活感溢れる。
はっ。
「喰われる!美味しく頂かれてしまう!」
「誰がそんなことするかいな人食い鬼やあるまいし」
勘違いにツッコミ、もとい反論。
その声に三度はっとした灸。
「お前は誰だ?!」
「なんや人の家にずかずか土足で入り込みよって。なにがお前は誰だや」
変なイントネーションで喋るのは狸のお面で顔を覆った小さな男の子。
「これでほんま入ってきたんが男なんやったら問答無用で外へポイやぞ。感謝せぇ」
方言、なのだろうか。
「すまない。私は妖怪町に住んでいる狛犬の灸と言う者だ。貴方の名前を教えては頂けぬか」
「はん、まあええやろ」
そう言って男の子は狸の面をはいだ。
下に見えたのは、日本人でごく当たり前の容姿、すなわち黒髪に黒目で、正直目立たないような造詣の顔だった。
「俺ん名前は面や。木代面。れっきとした人間や」
「木代?」
それは妖怪町の妖怪が真っ先に習う名前。
妖怪町の創始者、木代全の苗字。
「ああ知っとんやったか。そうや。俺のひいひじいちゃんはそんなことをした人やて親から習たわ」
むう、と難しい顔をしながら、男の子――面は言った。
「んで?こんなとこに灸さんは何しにきたん?」
「いや、わけのわからん神木と鴉の主従コンビに送り込まれたのだが」
「またあいつらか」
うげえ、と顔をしかめる面。
「この前空でシェイクしたったばっかやって言うのに、懲りひんなあ」
「知り合いなのか?」
「ああ、知り合い。しかもあれや、長年の腐れ縁や」
「長年?」
「ああ、そうか。言うてへんかったな。俺、今年で四十や」
「……え?」
屈託の無い笑顔で。
面は、理解不能なことを言った。
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