18
遅くなりすみません
「はーい、お帰りなさい。ご主人様に灸様」
灸が人生(?)初転移の後に目を開けると、にこにこと笑った便がそこにいた。
「お帰りは良いが便。お前また肝心なところ説明してなかったよね?」
「…………」
転移早々険悪なムードの二人。
「それより、ここはどこだ?」
灸が訊ねた。
それもそのはず。灸が飛ばされたところは鬱蒼と茂る森の中。立っている場所すら地面ではなくかなりな高さのしっかりとした草の上と言うのだから、それはそれはどこなのか判別が付かないのも無理はない。
「秘密の場所・バージョン2……かな?知って欲しいんですよね。灸様には」
「そうそう」
互いに顔を見合わせてにやりと笑う神木と便。
「知るって……何をだ?」
すると、便がいきなり一羽の大きな鴉の姿になって言った。
『妖怪町の、秘密を』
「……え、ちょっ……!わぁっ、何をする!」
それだけを言うと便は灸を自分の背中に乗せると、飛んだ。
「いってらっしゃーい」
地面(?)では神木が満面の笑みで手を振っている。
『正確には何をした、ですよ。灸様』
「待てっ!その台詞を聞く時はこれから悪いことが起こる時だ!だから降ろせっ!」
ごうごうと耳元を走り抜けていく風に負けないように叫びながら、灸は便の背をぽかぽかと叩いた。
『それが降ろせないんですよねぇ』
「何故だっ!」
『ご主人様と契約したからには、この地に潜む秘密を知って頂かないといけないんです』
「好きで契約したわけではない!」
『知っています。……ご主人様は嫌がる人に無理やり契約するのがお好きですから』
「主従揃って変態だな!」
『お褒めの言葉と頂きます』
「最低だっ!」
『さて……見えて来ました』
「え、どこ?……いや、その前に秘密とは何だ!」
『見ればすぐに解ります。ほら、しっかり掴まっていて下さい』
「あ、ああ」
便に怒りと話を流される灸。
そう言ったすぐ後、便が急停止しそして急滑降。
「ちょっと待っ……きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
普段の灸からは想像も付かない可愛い悲鳴が飛び出した。
『……着きました……けど。降りてください。…………灸様?』
「もうやだ……」
便の背中には、耳も尻尾もしゅんとうなだれて泣きそうな顔でしがみついている灸の姿があった。
『しょうがないなあ』
よいしょっ、と一声。
「降りないつもりなら、このままおんぶして行っちゃいますよ?」
そこには人間の姿で灸をおぶっている便が。
「降りる。今すぐ」
「えー」
「えーじゃない」
灸は便の背中からするりと抜けると、何事もなかったかのように便の横を歩き始めた。
「素直な灸様、可愛かったのに」
「うるさい。で、目的の場所ってのはどこだ?」
「そこ」
便が自分たちの前を指差す。
「……橋?」
「そう、橋」
真っ黒。漆のようにつややかな黒い橋。
それが森を抜けたその先のとてつもなく大きな川に架けられていた。
大きすぎて、長すぎて、向こう岸に何があるのかすらもわからない川の橋。
そんな橋なのに恐らくは木造。そして、アーチ型になっていて川に支柱が立っていない。
「ここは、鴉橋って言うんです」
便が言った。
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