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妖怪町騒動  作者: 鈴鳴月
黒狐
2/24

02


 しんと静まった大広間。皆が皆、広間の中央辺りにある一段高くなったところに注目する。

 ふとそこの空中の空間が歪んだかと思えば、そこから純白の衣装に身を包み、狐の耳と九つの尻尾を生やした美しい女が降りてきた。この女こそが白狐。神出鬼没のリーダーである。

 白狐の登場に静かにざわめく聴衆たち。それは灸と聖、結も例外ではなく。

「白狐様……」

 と、灸などもう恍惚状態に陥っている程だ。

 その聴衆たちを優しい目で見つめ、白狐は手に持っている扇子をすっと広げた。途端に空気が変わり、ざわめいていた妖怪たちが静かになる。

「ごきげんよう。今宵このように集って頂けたこと、私は妖怪町の長として光栄に思います」

 透き通り天まで昇っていくような声で、白狐は言う。それだけで笑顔になる妖怪たち。白狐の声は、大広間を支配していく。

「皆ももう知っているでしょう。我が半身、そして同じくこの町の長である黒狐が何者かの手によって攫われました」

 ごおっと、まるで竜巻のように敵への憎悪と黒狐への心配が渦巻く。

「これは由々しき事態です。私と戦闘部隊は一刻も早く黒狐を救い出すため、努力しております。ですから……どうか、皆は仲間割れなどせず、敵襲に備えて用意を、準備をお願いいたします」

 はい、と妖怪たち皆が一糸乱れぬ返事をした。


 集会の後しばらくして、戦闘部隊の隊員は白狐に呼び出された。

 灸と聖はそれに応え、武器を持って町のはずれにある白狐の屋敷に集まった。

「皆、おりますか?」

 闇よりも暗い部屋の中、白狐が確認する。

「「「はっ」」」

 その問いに各々が返答をし、会議は始まった。

 灸と聖は白狐の側にひざまずき、一言一句聞き逃すまいと耳を立てていた。

 人間では視界の利かない闇も、妖怪ならばまるで昼間のように見渡せる。

 さほど広くもない部屋の中にいたのは、妖怪町の中でも一二を競う強者ばかり。灸と聖はもちろんのこと、結や調子の悪いと言う掬、河童や猫又など人間にも知られている妖怪など名だたる者たちである。

 それらが皆一同に介して、白狐の言葉に耳を傾けている。

「黒狐を攫ったのは、梢一団(こずえいちだん)じゃ」

 誰かがそう口に出した。途端に皆が凍りつく。

 梢一団とは、人間達の集まり。そこへ入った人間はなぜか妖怪の姿が見えるようになるという。そしてその一団の一番厄介なところは、

木代(このしろ)様の血にゃ、手出しできん」

 大蛇の告げたとおり、梢一団全員がある血筋の人間だと言うことだ。

 その血筋の大本である先祖木代(このしろ)(すべて)は、かつてこの辺りに生息し悪さをはたらいていた妖怪たちを、安全な妖怪町を作ってそこへ住まわせてくれた人物である。

 木代全は妖怪を見る以外に何も能力を持っていなかったのだが、妖怪にそこまで尽くしてくれた全に妖怪町の妖怪たちは忠誠を誓い、今後木代の血筋には手出しをしないと言う約束をしていた。

 が、木代の血筋が代を重ねるにつれてなぜか妖怪町の妖怪を捕えたり倒したりするようになってしまい、妖怪たちはほとほと手を焼いているのである。

 今まではまだ妖怪町に深刻な被害が出ていなかっただ、今回は黒狐誘拐だ。ここまでされては黙ってはいられない、のだが。

「木代様の血には勿論手を出してはなりません」

 約束を破る、と言う行為は妖怪にとって死を表すのだ。

「しかし、黒狐は取り戻さなければいけません」

 苦々しい顔で白狐は口を開いた。

「皆、人を傷つけないように黒狐を救い出すことはできますか」

 それは白狐にとって、苦渋の決断だった。

 いずれにせよ、犠牲を伴うことは間違いない。

 下手をしたら全滅してしまうかもしれない。

 白狐はそう考えながら、それでもそう言った。

 梢一団がそれだけ強いということでもあるが、所詮は人間。集団になった妖怪たちには敵うはずがないのだ。しかし、妖怪たちは手を出さない。

 なぜ自分の命が脅かされているというのに、そこまでして約束を守るのか。

 理由はない。妖怪たちにとって、約束とはそこまで重いものなのだ。

 それが自分たちに良くしてくれた人間との約束ならば、さらに。

 白狐の脳裏には遥か昔のことが鮮明に蘇っていた。自分たちを安全な所まで連れて行ってくれた木代全の、その顔の細部まで。

「お願い、できますか」

 白狐はもう一度言った。それは自らの覚悟を示した一言。そして、自分の為、この町の為に集う妖怪たちの覚悟を試した一言。


「「「はっ」」」


 妖怪たちは闇夜に浮かぶような白狐の必死な顔を見て、感化されたかのように返事を揃わせた。


 


 空が白んでくる。

 夜が明けた。ここからは、人間の時間だ。

「よう黒狐、気分はどうだい?」

 どこかの薄暗い檻の中、うずくまっていた黒い狐が人間の声にゆっくりと目を開いた。

 その目は真紅。喩えられるのは、深い血の色。

 しかし開いた目は力を失ったようにすぐ閉じられる。

「良いわけねえか。クスリが効いてるんだからよぅ」

 げらげら、とその男は下品に笑うと言った。

「あ、そぉだ。その檻、あんま触んないほうがいいぜ?ビリッときちまうからな……って、お前はもう経験済みかぁ」

 げらげらげら。

 しかし黒い狐はぴくりとも動かない。

「ほうらゆっくりお休み、金蔓さん」

 節をつけたように、男はそう言った。

「何なら白狐も捕まえるかぁ?」

 男がそう言った途端、黒い狐の目がカッと開かれる。

 間にある檻も気にせず男に飛び掛ろうとする、が、電流にはじかれ無様に地面に這いつくばった。

「おっと危ねぇ危ねぇ。あんま体当たりして死んでくれるなよ、報酬が減るからさ」

 わざとらしく黒い狐の体当たりを避ける振りをし、男は檻のある部屋から出ていった。

 げらげら、と笑いながら。


いきなりクライマックスのような……


一応、灸が主人公のつもりです

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