番外 小さきあの日
久し振りに一人称で
聖視点です
妖怪町に来る前のふたり
妖怪は成長が早いのでふたりは人間の3歳ぐらいだと思っていただければ
今回も読み飛ばしていただいて構いません
寒い、寒いとくり返しながら落ちてきているような雪を見ていた。
大きな着物のそでから出る小さなかじかむ手に息を吹きかけながら、僕は社の前の狛犬像の上に座っている。
大は小をかねるとは言うけど、こんな冬の日の着物はやっぱり大でも小でもなくぴったりがいい、と僕は思った。
僕たちの仕えるかみさまがいなくなってしまったのはもうずいぶん前のことになる。
僕たちが生まれてすぐのこと。夏の暑い日、あの日も僕は着物がぴったりだといいと思ったのだった。
かみさまは生まれた僕たちを見て、なにも言うことなくふわりと消えた。
やいとは「私たちのことが気に入らなかったんだ」と言っていたけど、僕はそう思わない。
きっとかみさまは僕たちが生まれるまでずっと待っていてくれたんだ。
僕たちのような狛犬は前に仕えていた狛犬が死んでしまったら新しく生まれることになっている。
でもぼろぼろな社を見るかぎり、かみさまがどれだけ人々からたよられなくなってから年月がたっているかがよく分かる。
かみさまは人々にたよられなくなったら消えてしまう。
それは僕たちのかみさまでもれいがいではなくて。
かみさまはやさしかったから、自分のいのちをけずってでも僕たちの生まれるまで死ねないと思ったんだ、と思う。
そして生まれた僕たちに、大きくなっても着物を買う必ようがないように、と大きな着物をおくってくれた。
僕はそうだといいなと思っている。
でもやいとはちがうみたいで、大きな着物をひきずって僕たちのかみさまを今でもさがしている。
いくら僕がかみさまは死んだのだと言っても、聞かない。もしかするかもしれないと言い、まい日のようにさがしに行く。
がんばって、がんばって、それでもかみさまは見つからない。
雪がつめたいのは、がんばってはたらいて熱くなった世界をひやすためらしい。
やいとや僕はがんばっても熱くならないから、雪はいらない。
でも、だったらなんで雪は僕たちの上からふるんだろう。
そう思っていたら、やいとがふらふらしながら帰ってきた。
やいとのようすがおかしいと思ったら、かぜをひいていたようだ。
まい日まい日がんばっていたやいとは熱かった。
僕はどうしたらいいのか分からなかったから、ひやすことにした。
がんばった世界はひやせばいいんだったら、がんばったやいともひやせばいいと思った。
雪を手のひらですくって、やいとのおでこにのせる。
なかなかやいとの熱くなった体はひえてくれない。
僕の手がかわりにつめたくなっていく。
その夜、人が社にきた。
おまいりをしにきたのかと思ったけどちがうみたいで、「ひみつきち」がどうとかさわいでいた。
そして社の中にくつでそのまま入ろうとしたから、中にはまだかぜをひいているやいとがいると思って僕はそれを止めようとした。
そしたらなん人かによってたかってかられたりなぐられたりした。
人間に狛犬だとばれたらいけないので耳やしっぽはかくしていたが、そのじゅつもとけそうになるほどひどいいたみが体中をかけめぐった。
それでも必死にたえていると、社のおくの方からやいとが走ってきた。
そしてやいとは僕が止める間もないほどはやく人間たちにあたまからぶつかっていった。
僕はやいとを守ろうとしたけど、けっきょく守れなかった。
まだ赤いきず口を見ながら、まだ熱いやいとを見ながら、思った。
これからはぜったいやいとを守るんだって。
やいとがいくらいやだって言っても、やいとにもうきずはつけないんだって。
次は本編に移りたいと思います