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遅くなりすみません
「これは……見事だな」
どっしりと妖怪町にそびえ立つ神木を見上げながら、聖と並んで二人灸は呟いた。
もう真夜中を少し過ぎたような時刻なのでさすがに鳴き声は聞こえないが、それでも枯れ木の様相だった神木が針葉樹の形に盛り上がっているのだ。驚かないわけが無い。
「ねえキュウ、夜迷鳥は何て言ってたの?」
「町の業務には何ら支障無いと言っていた。が、どう見ても支障が出そうな……もしかして予言を外したのか?」
「それは無いだろうな」
灸が首を傾げながら見上げるという器用なことをしていると、不意に背後から声が聞こえた。
驚きのあまり灸は腰の刀に手を掛けながら声の主を睨み……かけて、すんでのところで留まり、刀から手を離す。
「黒狐様でしたか」
そこにいたのは黒い着流し姿の黒狐だった。
「驚かせてしまい済まなかった。が、夜迷鳥の予言は外れてはいない」
「……と言うと?」
灸の隣で聖が更に首を傾げる。
そんな聖に苦笑し、黒狐は説明を始めた。
「ここ最近鴉が増えているのは、どうやらこの神木が呼び寄せているからだそうだ」
「神木が?」
「その情報はどこから?」
前者が聖、後者が灸。やはり灸の方が少し深く理解しているらしい。
「環のところに来た小さな使者からだ」
「白狐様のところに、使者?」
環とは白狐の名前である。黒狐と白狐はお互いを名前で呼び合う仲なのだ。ちなみに黒狐の名前は玉。
「ああ。何でも名のある森の主の使いだそうで、居丈高だが無碍に扱えん」
「……」
「どうした?急に黙って」
「すみません黒狐様。そいつに少し心当たりがありまして」
言葉の通り、灸にはその使者の正体に少しと言うのには心当たりがありすぎていた。
「……」
隣で聖が少し震える。
嫌な予感がした。
「ほら、あいつだ」
心当たりがあるなら有難い、と黒狐は断るに断れない灸を引きずって使者のいる部屋の前まで連れて来ていた。
聖は家に逃げ帰っている。
今頃隠れるところは無いかと家中を探し回っているところだろう、と灸は思った。
「…………はぁ」
灸がついため息を吐いた、それだけの音に使者は敏感に反応して一瞬で灸との距離を詰める。
「やっちゃん?」
キラキラと輝く緑で軽く透けている幼女の瞳から、灸は目を逸らせなくなる。
「……はい、灸です」
「やっぱりやっちゃんだ!久し振りだね元気にしてた?まだあたしの作ったこの服着てくれてるんだありがとうっていうかひーくんはどこにいるのいつもやっちゃんの横にいたじゃないどこに隠したのさあ出しなさいやっちゃんとひーくんが揃ってるところ見ないとあたし我慢できないんだからほらさっさと出しなさいそうじゃないとまたあたしやっちゃんに憑いちゃうかもしれないのあの痛みもう味わいたくないでしょう出して出すのよ出しなさいってば――――――!」
幼女は灸の胸倉をつかんでぶんぶん振りながら聖を出せと迫ってくる。
「い……家です、セイは家にいます」
気持ち悪くなりながら何とか搾り出したその言葉に反応すると、幼女は灸を置いて灸の家の方向へものすごい勢いで走り出した。
げへごほと咳き込む灸にハンカチを渡す黒狐。
「……お前も大変だな」
「ええ……」
さすがの灸もここで否定は出来なかった。
テスト中の現実逃避の寄せ集めです
次回も遅くなると思いますがよろしくお願いします