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「キュウ……ごめんね?」
「……」
「まさかあんなことになるなんて……」
「……」
「……思ってなかった、って、反応してよキュウ!」
「……穢に言っておけ。次したらセイごと殺す」
どこまでも冷淡な口調の灸に、涙目の聖が必死に言い繕っている。現在二人は家の奥の小部屋で向かい合っている。
「さて本題だがセイ」
「ひゃうぅっ!」
今もう聖は極限状態にある。理由は、灸の清々しいまでの笑顔。この顔をしている灸が一番危ないと言うことを聖は良く知っていた。
「何か周りで変わったことはないか?鴉が増えたとか鴉が増えたとか鴉が増えたとか」
「どれだけ鴉増やしたいのさ……大丈夫、特に何も無いよ」
笑顔で壊れたように鴉が増えたと繰り返している灸に、思わずツッコミを入れてしまう聖。
「……特に?」
「あ、いやなんでもない何も無いから何かあったわけじゃないから徐に武器を取り出さないで!」
「あんの夜迷鳥、セイに何かしたら容赦しない……!」
「僕を守るってことは穢も一緒に守るって事だよ?……キュウはそれでもいいの?」
ぎりぎりと刀を構えて危なげに鞘ごと振り回す灸におずおずと聖はそう切り出した。
「良い訳ないだろう?!でもセイは守る!この命にかけても!」
「それ普通僕の台詞だよね?……ほんとに僕は大丈夫だから!」
「…………」
聖の言葉を咀嚼して嚥下して、ようやく落ち着く灸。安心して腰を落ち着けた灸のその横顔を見ながら聖は正座を崩し胡坐をかき、そして何かを思い出したように灸に声をかけた。
「ねえキュウ」
「何だ?」
「キュウは、何色が好き?」
「色……か。赤も好きだが、敢えて言うなら……あれだな、青緑。吸い込まれるような青緑が好きだ」
「ふうん、そうなんだ」
「何でそんなことを聞いたんだ?」
「ううん、何でもない」
屈託なく笑う聖を、灸はそれ以上追求することが出来なかった。
どちらともなく笑い出す灸と聖。灸の首にはまだあのマフラーが揺れていた。
ガァ、ガァ……。
夜も更け、そろそろ朝日が浮かぶ準備をし始める頃。
一羽の鴉が妖怪町一高い木の天辺で鳴いていた。
神木として妖怪たちに崇められているその木は、妖怪たちが崇めるだけあって葉がすべて落ちながら、それでも生きている大樹である。見た目は大きな枯れ木と何ら変わらない。
はずだった。そうでないとおかしいのだ。
なのに、今その鴉が鳴いている木は何故か葉があった。しかも、一枚や二枚ではない。その木はこんもりと針葉樹のような形になっている。
そしてよく見ると、その葉は本物の葉ではなかった。
何百羽、何千羽、果ては何万羽もの鴉たちによって形成される、大きな鴉の群れだったのだ。
その大樹は神木のまま「鴉の木」となり、鴉たちの不穏な鳴き声は妖怪町の平和を揺るがし始めた。
お知らせ:私鈴鳴月は学生でありまして……はい。中間テストが迫っております。
更新が遅れることが危惧されますが生温かく見守ってください。