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灸と穢がやばいことなって来たんでR15つけます
「特に問題はありません」
森の中にちんまりと存在する小屋の扉を灸が叩いた所の反応がこれだ。
「……そうか」
もう夜迷鳥の能力については何も言うまい。恐らくは灸たちがここに来ること、あまつさえ質問の内容さえも予知していたのだろう。
「町の業務には何ら支障などありませんのでご安心下さい」
きっぱりと宣言された夜迷鳥の予知に、灸は一抹の不安とそれにまつわる一つの疑問を感じた。
「と、言うことは自分たちには何かあるかもしれないという事か?」
「さあ」
全く抑揚の無い夜迷鳥の声からより明らかになる何か嫌な予感。
しかし夜迷鳥はこれ以上何も教えてくれはしないだろう、と灸は諦め、後ろの掬に「帰るぞ」と目配せする。
「へいへい」
呆れたような顔をしている掬は、しかし灸に逆らわず二人でおとなしく森からは退散することになった。
「っかーぁ!何で夜迷鳥はこうも冷めてるかねぇ!」
町中に入ったところでいきなり灸の隣を歩いていた掬が叫びだす。
「……性格なんだから仕方が無いだろう。少なくとも穢よりはましだ」
「んぁ?穢って誰だ?」
ぽろっと漏らしてしまった自己最高機密。灸のしまったという顔に更に喰い付く掬。
「け……穢は、穢はだな……ここに来る前の知り合いだ。……そうに違いない」
目を限りなく泳がせながら返答する灸。
「ううぅん?お前にはここに来る前何も無かったと聞いたがなぁ?それにお前ここに来たのは生まれて間もない赤ん坊の頃だろう?」
「いや、赤ん坊じゃない。既に一年は経っていた」
「十分赤ん坊だろぅよ!で?その穢ってのは誰なんだって聞いて……」
「俺の名前呼んだ?」
元凶登場。灸が反射的にその声がした自分の背後に向けて回し蹴りを放つが、当たらない。逆に灸は後ろから優しく抱きしめられ、犬の耳とは別の人間の耳の方を優しく甘噛みされる。
「ひゃうっ……や、やめろっ!刺すぞ!」
顔を真っ赤にして灸は拳を振り回しながら背後の忌々しい知り合いに当てようとしているがやはり当たらない。
「恐いなぁ。やめてよキュウ」
「だからキュウと呼ぶな!……あぅあぁうぅ」
穢が灸の耳を軽く噛む度に灸の顔の紅潮度が増す。
それを見て掬は目を丸くした。
「えぇ?聖?……え、何お前ら。関係逆じゃなかった……」
「ええいうるさい黙れ掬!こいつが穢だ!決してセイなどでは無い!」
「ん?キュウ、いつの間にそいつを名前なんかで呼ぶようになったのさ。君は俺のものだよね。そのイケナイお口はどうしたら俺の名前だけを呼んでくれるようになるのかな?」
そう言いながら穢は灸の口を自分の口で塞ぐ。つまりキス。しかもまた舌まで入ってくる。
いよいよ追い詰められた灸は自分の口内に侵入してきた舌を思いっきり噛み、その上で全力を込めて火球を放った。
「放れろ変態!!」
はあはあと息も荒く火球の飛んでいった先を見て、それでもやはりしまったと言う顔をする灸。いくら自分の危機だと言っても、火の玉を全力で放ったのだ。聖の身体に傷がついてしまったかも知れない。
「あーもー本当にキュウは強引だなぁ」
だがしかし、そんな心配は無用だった。ちゃっかりと穢は自分のスキルである闇で火の玉を侵食し、消してしまったのだ。
「……あのさぁ灸、そろそろ俺頭と腹が痛くなってきたんだけど」
掬が灸に小声でそう言う。
「済まない掬。今度説明するから今は逃げてくれないか」
「あぁおれも死にたきゃあ無いからな」
必要最低限の会話を交わすと、掬はすたこらと逃げ出した。
「あれ、あいつ逃げちゃったんだ」
「いいからセイと代われ穢」
「えー」
「えーじゃない」
「はーい」
むくれて穢はそう言うと、小さな焦土と化した通りの真ん中でへたりと座り込んだ。
「…………」
そして後には顔を真っ赤にさせた聖と灸だけが残された。