表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖怪町騒動  作者: 鈴鳴月
黒狐
1/24

01

 狐が攫われた。

 九月半ばの日暮れ一番、妖怪たちに伝わったのは恐ろしい報せだった。

 狐――白狐と黒狐。妖怪たちの住むこの町を統べる、実質的なリーダーである。

 そのうちの一人、黒狐が攫われたと言うのだ。


「嫌な風が吹いている」

 予言者の夜迷鳥(よまいどり)が静かな声で正月の祝言の中述べたその言葉は、この一年の間に恐ろしいことが起こることを予言していた。

 まさか、その言葉が本当になるとは……。

 大騒ぎになる町の中で、神主の服を着た人の姿に犬の茶色い耳と尻尾を生やした狛犬の(やいと)は考えていた。

「キュウ、本当だと思う?」

 同じ家に住んでいる相方の狛犬、(ひじり)が買ってきた蛙の串焼きをかじりながら言う。こちらも灸と同じ服を着ている。耳と尻尾の色は黒だが。

「……白狐様が言うならば本当のことなのだろう。セイ、武器の手入れをしておけよ」

 灸と聖は、それぞれキュウとセイと呼び合っている。自分の本当の名を敵にすぐ知られないためだ。

 そして灸と聖はその戦闘能力の高さを買われて、あらゆる敵と戦う時のまとめ役を任されていた。

「うん。キュウの武器も使えるようにしておかないとね」

 人懐こい笑みを浮かべて聖は灸に蛙の残りを渡すと、奥の部屋へ引っ込んでしまった。聖はいつも武器の手入れを奥の小部屋でする。そのほうが落ち着くらしい。

「白狐様と黒狐様には多大な借りがある。今こそそれを返す時」

 聖の残していった蛙をかじりながら、灸は一人呟いた。そう、余所者だった灸と聖をこの地位までつけてくれたのは何を隠そう白狐様と黒狐様なのだ。この一大事に役に立たないでどうする。

 灸は武器の手入れの音を聞きながら、一人静かに考え事をしていた。



 次の日。

 灸は日暮れとともに起き出した。今日は白狐様から全妖怪町住人に向けて大切な知らせがあるのだ。町の中央付近にある大広間に早めに集まらないといけない。

「セイ、起きろ」

 灸は奥の小部屋で武器の手入れをした格好のまま眠っている聖を起こしに行った。何にせ、聖は寝起きが悪いのだ。ここ辺りにも灸が早起きをしなくてはならない要因のひとつがある。

「……」

 案の定、聖はその黒い尻尾をぴこぴこと返事代わりに振るだけで起きる素振りを見せなかった。

 仕方がないと灸は嘆息し、市場へ食べ物を買いに家を出た。灸も聖も、料理が出来ない。


「今日も早いね、灸」

(かなめ)、お前ほどではない」

 蛙を串焼いている店の前で灸は止まった。店主の言葉に返事をし、よく焼けていそうな蛙を見定める。

 灸は店の中、本来なら店主がいる所を見やったが、そこはもぬけの空。要はいつも姿を見せないのだ。

「牛蛙の串焼きを二本と、雨蛙の串焼きを三本頼む」

「へいよ。タレか塩、どっちにするかね?」

「全部タレで」

「取りな」

 どさりと自分の右隣で音がしたと思ったら、灸の横には注文通りの品が入った紙袋が置かれている。

「代は?」

 灸ががま口を出しながら訊ねると、店主は即答した。

「銅を六」

 灸はがま口から銅銭を六枚出すと、店の中に放った。ちゃりんと金属同士が当たる音がしたかと思うと、投げ込まれた銅銭は全て空中で消えてしまった。

「まいどあり」

 店主がそう言ったところから見ると、代はきちんと払えたらしい。灸は傍らの紙袋を抱えると、家に戻った。


「キュウ、何買ってきたの?」

 家へ帰ると聖が既に大部屋で寝転んでいた。

「蛙の串焼き」

「やったぁっ!」

 灸の言葉にそう返すと、聖は飛び起きて灸の抱えていた紙袋を奪い取る。聖は蛙の串焼きが大好物なのだ。

「牛蛙一本と雨蛙二本は僕のね」

 そう宣言するや否や、ぱくぱくと蛙を平らげてしまう。

「セイ、もうすぐ集会が始まる。準備をしろ」

 それを見ながら灸はそう言い、自身も用意をし始めた。


 妖怪町の住人全てが集まる大広間。

 月も空高く昇り、草木も眠る丑三つ時。

 そこに、灸と聖はいた。

「キュウ、皆いるよ。夜迷鳥も、蓮跳びの蛙も。見慣れない人も、たくさん」

「集会だからな。普段は顔を出さない者も皆集まる」

 灸と聖はざわつく妖怪達の中、そう言葉を交わした。

 その時、不意に背後から落ち着いた声が響く。

「そこにいらっしゃるのは、ひょっとして灸様と聖様ではありませんか」

 その声に灸と聖は振り向き、顔を綻ばせた。

「金魚か」

(ゆわえ)じゃん、久し振り」

 結と呼ばれたその人影は、あでやかな着物とつややかな髪を持つ女だった。その身は赤い金魚の化身である。

「はい、今夜は集会と言うことで、私も久々に端池から上がって参りました」

「端池かぁ、懐かしいな」

 照れたように微笑する結を見て、聖が目を細める。

 実はこの結、地上で動けなくなっていたところを聖に助けられた事がある。

「ええ。とても」

「そう言えば金魚、黒い奴はどうした」

 そのやり取りを聞いて思い出したように灸が結に訊ねる。

「ああ、(むすび)なら今日は体調が優れないと言うので、端池でおとなしくしております」

 掬、とは結のパートナーで、黒い金魚である。

「今度治りましたら私も掬も隊列に参加します」

「ああ。頼む」

 そして結と掬は、やはりその能力を買われて灸や聖と共に敵と戦っているのである。

「そら、集会が始まるぞ」

 誰かの掛け声で、大広間は一気に静まった。

 



 文章力皆無ですがしばらくの間お付き合い下さい。

 更新速度は激遅です

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ