第一話 僕と不思議な能力
一応異世界ファンタジーですが、学園含みます。
最初は現代です。
『幽霊』という言葉をご存じだろうか?
まぁ、生活を送っていくうちに自然に耳に入ってくるから誰でも知ってるよね。
え? 知らない? ……一応『幽霊』について説明するよ。
『幽霊』とは、簡単に言うと、死者の霊のこと。
でも、それは通常人には見えない。
だからその存在は「見た!」と言う人がいるだけで証明出来ていない。
当たり前だよね。実態が無いものをどう証明しろって感じ。火星人を捕獲して来いってことと同じだ。……例えがおかしいとかツッコマないで欲しいな。
僕自身も一般的な生活を送ってきた地球人の一人なので、『幽霊』は知っている。勿論、その存在も認めていない。怖いし。常識的に考えていないでしょ。
だけど、その考えをぶち壊すイベントが小学三年の時に起きた。
僕は急いでいた。物凄く急いでいた。
何故かというと、某有名ゲームソフト『ポカモン』が発売するからだ。
僕は家から自転車に乗って、自身がジェット機の如くゲーム店へぶっ飛ばしていた。実際は20㎞程しかでていなかったと思うけどね。
若気の至りだったのだろうか…… いや、遊び盛りだった僕は、早くゲームを手に入れたいという欲求と、手に入れた後のことを妄想しながらペダルを扇風機のように漕いでいて、凄く興奮していた。そんな状態な僕はできる限り近道で、信号が少ない道のりを爆走していた。今思うと、ちゃんと信号がある道を通っていけば良かったと痛感している。安全運転? なにそれ? ……おいしくはないよね。
一つクイズをしよう。
Q.周りを気にせず、興奮しながら自転車で爆走していたら、高確率で起こるイベントとは?
A.事故に遭う。
いくら小学三年生でも事故に遭いやすくなる事くらい分かってたはずなんだけどなぁ…… それが頭から綺麗さっぱりなくなるくらいにゲームが欲しかったんだろうな。
それで、僕はある十字路にさしかかった。右側には歴史を感じさせる古い家が建ち並び、左側も同じような家が立ち並んでいた。
この十字路はほとんど車が通らない。道幅も車一台がやっと通れるくらいなので、迷って入って来ない限り、歩行者&自転車専用道路になるわけだ。
その時もどうせ車なんて来ないと考え…… そんなことさえ頭になかったね。一時停止して、左右をよ~く確認してから渡りましょう、という幼稚園児でも知っていることを実行せず、一直線に進んでいった。
……ここから何が起きたかは安易に予想できるよね。
見事に轢かれました。というか、ぶっ飛ばされました。
僕を轢いて行った悪魔の色は群青色だったと記憶している。
その悪魔を見ながら、僕は人がいたら思わず見惚れてしまうような放物線を描きながら、地面へ吸い込まれていった。
それから、真っ白な病室で目覚めるまで意識を失っていた。医師さんの話だと、全身打撲に両手足骨折、さらに内臓が少し損傷した重症だったようだ。医師曰く、普通なら死んでいるか、障害が残るかも知れないとのこと。
だけど、僕の異常な回復力で、病院に担ぎこまれてから一週間後には、既にリハビリが可能な状態まで回復し、歩行器で歩くところを見た看護師さんが驚いていた。一応僕の怪我って全治二か月は掛かるって言われてたらしいから驚くのも無理ないよね。
僕はそれから二週間ほど入院し、完治してから病院を出ることとなった。
ちなみに、僕の手術を担当した医師さんが、病室で二人きりだった時に、「久しぶりに手術が出来て楽しかった。感謝している」とふざけたことを言っていたことは内緒にしている。だって、楽しかったって理由で手術費と入院費がタダになっちゃったからね。普通なら手術が楽しかったなんて、怒るどころか問題にも発展しそうなのだが、タダで退院出来ちゃったからこっちが頭を下げることになってしまった。
退院してから、初日の学校生活は、いろいろと騒がしく、忙しいものとなってしまったが、次の日からは普段通り、穏やかな雰囲気の教室になっていた。初日は退院祝いのせいで騒がしくなっただけだしね。あの場所は騒がしいとは元々無縁な教室だったからね。
さて、そろそろ回想も飽きてきた頃だろうし、本題に入らせてもらおう。
あの事故に遭って以来、僕は『幽霊』が見えるようになってしまった。
そのおかげで、キラキラと輝く小麦畑の上で座り込んでいる中年男性や、近所の大きな川でさまざまな年代の人(?)が団体を組んで釣りをしていた所を見たりと、異常な光景を頻繁に見るようになってしまった。
最初は怖かったさ。だけどもう七年経つ。首無し女性の『幽霊』を見ても平気でいられる耐性ができた。あまり嬉しくない耐性だ。
さらに巫女をしている友人曰く、僕は『幽霊』に好かれやすい体質らしい。そのせいか、僕が道を歩いていると『幽霊』から一日に一回は付き纏われる。でも、悪霊からは嫌われやすいらしく、『幽霊』のせいで死にそうになったことは無い。まだ、が付くかも知れないけど。
そういえば僕の自己紹介がまだだった。
僕は神宮寺九尾。多分一般的な男子高校生で十六歳。身長は165cmと高くもないが低くもない。うん。一般的だ。
友人やあまり話さないクラスメートからは、「キュー」と呼ばれている。僕自信、このニックネームを気に入っていて、そう呼ばれると嬉しかったりする。
僕が現在、マンネリ化し始めてきた道の先にあるのは、私立風扇風凪高校《しりつふうおうかざなぎこうこう》という、風だらけな名前の学校だ。おそらく、初見の人は読めないであろうこの学校の名前の由来は、「どんな時代でも風のように生きてほしい」とのことだ。
だが、これはあくまで噂であり、名付け親も建ててすぐ亡くなったらしく、真相は誰にも分からない。まぁ、面白い名前ってだけで、真相とかは特に気にしていなかったりする。
私立風扇風凪高校はそれなりの進学校である。それなりなので、平均学力は決して高くはない。だけど、低いわけでもない、まさにそれなりの学校だ。東大に行く人も学年に一人くらいは毎年居るらしいが。
ちなみに、進学率、就職率もそれなりでなんとも評価のしがたい学校になっている。
普通なら誰もそれなりな学校に通おうとは、妥協しない限り考えないはずなのだが、この学校はとある理由により毎年二百人近く入学してくる。その理由とは、この学校の名前が珍しく、制服を着ているだけで一種のステータスになっているからだ。そのステータスとなってしまった制服は、男子は紺色のブレザーに少し灰がかったズボン、女子は白を基調としたセーラー服に、青色のネクタイと青色のフリル付のスカートだ。全く制服の統一性が無いが、それがこの学校の有名である理由の一つでもあったりする。
また、校風が良く、校則も緩めで、それなりに広い敷地に充実した設備が整っているのも人気の一つでもある。やっぱり雰囲気って大事だよね。堅苦すぎな高校だったら人気は出ないさ。
僕が最愛の家族の元を離れてこの学校に来ているのにはいくつか理由があるのだが、一つには…… いや、一つだけだな。強制的に一人暮らしにさせられたからである。なんとも、両親があるテレビ番組で、「子どもは、一人暮らしをさせることで、規律正しく自立した行動がとれるようになる」という言葉を真に受け、県外まで飛ばされてしまったのだ。僕のためだとは分かっているのだが、自分の命並みに大切で、Loveの方の大好きな家族と会えないのは、とても悲しいイベントだった。だけど仕送りは月20万あり、贅沢をしない限りはお金に困ることは無いので、現在の生活はそれなりに充実している。
夏休みが終わり、久しぶりに見た私立風扇風凪高校は夏休み前とはあまり変化は無く、残暑が始まったばかりでもあるため、景観もほとんど変化無しで、照りつけるような朝日の中に佇んでいた。約一か月ぶりとなると、平凡と休日をこよなく愛する僕でも入学時のような高揚感がこみ上げてくるものである。校門の前でしばらく景観を眺める。校門から学校の生徒玄関まで、真っ直ぐ、一直線に伸びている道は長さが200m程あり、広大な校庭を二分するように突き抜けている。分かれている校庭は、体育の授業が他クラスと重複した時に便利だ。そして、ここから200m離れている白を基調とした建物、「本校舎」と呼ばれていて、無駄に大きな生徒玄関が待ち構えている。内部には職員室や保健室などがある。他に「新校舎」と「旧校舎」、その他の設備があるのだがここからは見えないので省く。説明は後で。
今日は二学期最初の記念となる日なので早めに学校へ来たのだが、僕と同じ考えなのか、ポツポツと校門を抜けていく生徒が見られた。
同じ場所に立っているのを不審がれると嫌なので、そろそろ学校の中に入ることにしよう。
「んん? あれあれぇ? 見覚えのある後ろ姿だと思ってたらキューちゃんじゃないか!」
校門を跨ぐ第一歩を踏み出そうとしたところ、唐突に横から聞き覚えのある声が聞こえた。
その方向を見ると、そこには僕の幼馴染である明野夏芽が漆黒の長髪を風になびかせ、笑みを浮かべながら立っていた。夏芽は女の子としては少し背が高く、僕と同じくらいの身長だ。綺麗に整った顔立ちにスラッとしたスタイル、そして出るべきところは出ている、《美少女》というに相応しい容姿である。
「夏芽か。久しぶり」
「んぬぅ~。なんか素っ気ないなぁ~。少しくらい奇跡的な再会に感動してもいいんしゃないかなぁ~?」
「なにが奇跡的だ。夏休みの間も頻繁に会ってたじゃないか」
夏芽は考えていることが表情や様子に現れやすく、ころころと機嫌が変わる。今はニコニコ顔だから機嫌は良い方なのだろう。
「そいえば、突っ立ってなにしてたのぉ~? あ、もしかして、久しぶりに学校を見て感慨深くなっちゃった?」
「ん~、ま、そんなとこかな。此処に立っていると邪魔になるし、行こうか」
「そだねぇ~。れっつご~」
僕の指摘をスルーし話題を変えてきた。これが狙ってやっている訳じゃないから驚きだ。しかも語尾をゆる~く伸ばすため、話す度に脱力してしまう。
僕は微笑を浮かべつつ、夏芽は百面相な表情を見せながら、生徒玄関に向かってゆっくりと歩いていった。