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ゴーストバスターズ  作者: そら
第一章 ようこそ、地獄へ
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14話 未来予想図

「ん……」


「ひ、光ちゃん!」


 目を覚ました私を出迎えたのは、涙ぐんだ凜ちゃんだった。その涙は左から差し込む温かな陽の光を浴びてきらきらと輝いていた。


「あ、こ、がれ……」


「ひ、光ちゃん……?」


 うわごとを呟きながら私はその輝きを求めて手を伸ばす。


 突飛な行動を起こす私に、凜ちゃんの表情は困惑し、瞳からは頭がおかしくなった私を憂いていた。


 凜ちゃんの都合なんか知ったとこかという風に私は迷いなく腕を伸ばし続ける。


 ひゅー……


「あ……」


 私が輝きに触れる前に一筋の風がその輝きを奪い去ってしまう。


 私は腕を伸ばしたまま静止させるが、指先はまだ輝きがそこにあると錯覚しているのか、ぴくぴくと中途半端に動いていた。


「ひ、光ちゃん!」


「!?」


 私の名前を叫ぶ凜ちゃんの声が、私を現実へと引き戻す。凜ちゃんは私の右手を両手で優しく、そして、力強く包み込む。


 まるで現実へと引き戻した私をもう一度逃避行を起こさないようにという凜ちゃんの意志がこもっているように感じた。


「り、んちゃ……ん」


「ひ、光ちゃん、まだ戦いの疲れが残ってるみたいだから、もうちょっとだけ寝た方がいいよ」


 凜ちゃんはそう言って両手で包み込んでいた私の右手を布団へと潜り込ませる。


 子供を寝かしつけるように私の頭を優しく、割れ物を扱うかの如く優しく、撫でる。凜ちゃんは安心させるように微笑んでいた。

 

 けれども、隠し切れない悲痛な表情がにじみ出ており、その中途半端さがどことなく曇り空に似ているなと思いながら、いつの間にか私は眠りに就いていた。







               *







(光ちゃん)


 ――やめて。


(あなたは)


 ――やめてやめて。


(いくら努力しても)


 ――やめてやめてやめてやめてやめてやめて。


(憧れにはなれないのよ)


「やめてえええええええええ!!!」


 私は叫びながら飛び起きた。


「はあ、はあ、はあ、はあ」


 悪夢を見た私の体は、じめっとした嫌な汗をかいていた。その汗は接着剤のように肌と病院服をくっつけて、その感覚がまた気持ち悪い。

 

 辺りを見渡し、一度目覚めたときにいた凜ちゃんの姿は消失していた。窓から差し込む日差しは明るく、しかし、吹き込む風は冷たさが際立っていた。


 今何時だろうと目の前の机にある黒い端末で時刻を確認すると、四月十五日、月曜日、九時と表示されていた。


 一度目を覚ました時の、時間をはっきり確認したわけではないのであやふやだけど、肌感的には、お昼ちょっとすぎだったと思う。


 そして、数分もしないうちにすぐ、もう一度寝て、現在まで中途覚醒もなく夢の中にいたのなら、私はほとんどまる一日、眠り姫状態だったことになる。


 月曜、九時ということは、一限目の授業が始まっているはずだ。


 昨日の雫さんの戦いで負傷した体の傷も完治しており、今からでも授業に出ようと思えば全然出れてしまう。


 グレーティアの性質上、活動は三年間が限度。それ以降は効果を発現できないため、事実上のゴーストバスターズは引退となってしまう。


 三つ葉女学院を卒業後の進路は人それぞれだが、多くの人は三つ葉女学院に貢献したいと思う人が多く、大学などで医学を勉強した後、三つ葉女学院が運営する病院先で勤務したり、或いは、金山理事長の下でゴーストの研究に勤しんだりする。


 一番多いのは、ここの教員として働くことで、私の現担任の朝倉先生もその一人だ。


 その他は、三つ葉女学院で貯めたお金を使って会社を作ったり、それか、会社を作る前にいったん大学で経済を学んだり、カフェなどの自営業を営んだりと、十人十色だ。


 推薦とか海外への留学を希望するのであれば、授業に出てそれなりの成績を収めないといけないが、私の場合、それはあまり考えていない。


 万が一気が変わってそれらのことを視野に入ったとしても、私はまだ高校一年生。


 挽回のチャンスはいくらでもある。一日くらい欠席しても大丈夫だろう……たぶん。


 それに体は完全に回復したけど、心の傷は全然癒えてない。穴が空いたままだ。何せ『憧れ』を失ったのだから。


「はあ」


 私はため息をつき、起こしていた上半身をベッドに戻し、白い天井をぼーっと眺める。


 あれだけ寝たはずなのに身体は脱力感に満ちていた。


 寝ようにも完全に頭は覚醒しきっており、何より寝たらまた悪夢を見そうで怖い。


 あの悪夢を……


「憧れになんてなれない……か」


 現実世界でも夢の中でも雫さんにはっきりと告げられた。告げられてしまった。よりにもよって憧れの張本人に。


「はは、今思えば私ってバカだなあ。自分が凡人であることは自分で一番理解しているのに。凡人がいくら努力しても凡人であるのは変わりないのに。何が雫さんのようになりたい、よ!」


 自分のバカさ加減にむかつきすぎて、反射的に右手で拳を作り、病室のベッドに思いっきりぶつけた。

 

 あれだけ手に入れたいと願った憧れに今は、嫌悪感しかなかった。憧れは毒だと、人の理性を崩壊させる毒だと身に沁みてわからされてしまったから。

 

「憧れなんか持つんじゃなかった……て、はは、それも無理な話か」


 私は力無く自嘲する。


 憧れは恋でいう、一目惚れみたいなものだ。ある種、病気といってもいい。

 

 運命がそうさせたなら自分が望む望まないに限らず、憧れは必然だった。そういう事だ。回避する術なんてない。


 それに、あそこで雫さんが助けに来なければ私は今頃、天の上。どっちにしろ袋小路だったわけだ。


「むしろ、これでよかったかもしれない」


 雫さんが諦めろと言わなければ私は、永遠とゴールの見えない道を進んでいただろう。むしろ、地獄から引きずり上げてくれたのだから感謝すべきではなかろうか。


「これからどうしようかなあ」


 白い天井をキャンパスに未来予想図を描く。憧れを失った今、目指す努力の矛先は、周囲のレベルに追いつくこと、これだと思う。

 

 幸いにも、刀の技術は師匠が教えてくれる。師匠の教えに従っていれば、自ずと周囲との差は縮まることだろう。

 

 問題はパートナーだが、私の希望としては、凛ちゃんか師匠の二人のどちらかがいい。


 見ず知らずの人と組むと緊張してしまって、迷惑をかけてしまうかもしれない。             


 ――最悪の場合、命を落としてしまう可能性だって……


 それを考慮してあの二人がいいのだが、二人がパートナーを作ったのかは、私の知らぬところ。


 もし、作ってた場合、私は諦める他ない。


「私、大丈夫かなあ、この先不安だなあ」


 私は将来の不安から、はあ、と盛大なため息をこぼす。

 

 未来予想図を描くのに夢中になっていた私は、三限のチャイムも耳入らず、病室の扉が開くその瞬間まで、自分の世界に入り込んでいったのだった。

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