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ゴーストバスターズ  作者: そら
第一章 ようこそ、地獄へ
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13/28

12話 パートナー選抜前日

「神崎さん。今日は四季と一緒に買い物に出かけましょう」


 朝七時頃。朝食を摂るため、寮のラウンジで凜ちゃんと落ち合い、食堂へ向かおうと歩き出した、その折だった。

 食堂の扉が開き、ちょうど中から出てきた師匠が、まるで待ち構えていたかのように、そう告げた。


 今日は土曜日。


 授業のない、いわば絶好の鍛錬日和だ。明日に控えたパートナー選抜を思えば、その一日を余すことなく鍛錬に費やすつもりでいた。


 昨晩、師匠から『明日の土曜日は休養に努めてほしいので、鍛錬は中止です』と告げられた。


 私は納得がいかず、幾度も食い下がったものの、その一点張りから微動だにせず、結局、渋々ながらも頷く他なかった。


 とはいえ、胸の奥にくすぶる鍛錬欲が消えず、いや、抑え込まれたがゆえに、かえってその熱は濃さを増し、意識の底で執拗しつよううごめいていた。

 

 師匠に背くことへの後ろめたさを覚えながらも、この衝動に抗いきれなかった私は、師匠の目を盗んで、ひそかに鍛錬を積むことを企てようとしていた、その矢先に今の一言である。


「あ、えっと……今日は、その、用事が……」


「その用事は、鍛錬、ですよね?」


 完全に図星を付かれた私は心臓を鷲掴みにされたように息が詰まる。


「あ、あはは……そ、そんなわけないじゃないですか」


 私はぽりぽりと指先で頬を掻きながら愛想笑いで誤魔化した。


「じー……」


 師匠は何も言わず疑いの眼差しでこちらじーっと見つめてくる。


「わ、私、素直、なので、師匠の言いつけはちゃんときちんと守ります」


「じー……!」


 私の言い分を耳にしても相も変わらず師匠の疑いの眼差しは晴れぬ一方。


 私は足りない頭を使ってなんとか師匠の疑いの眼差しから逃れようと必死に考えるも、疑いの視線の圧力が、私の思考をかき乱し、口からは、まとまりのない言葉ばかりが零れて落ちていく始末。


「だから……その」


「じー!!!」


「……うう、はい、すみません。鍛錬しようと思っていました……」


 その視線に耐えなかった私は観念し、肩を落としながら師匠に白状した。白状した私に師匠は呆れたように小さく息を吐く。


「最初からそう言えばいいんですよ。まったく……まあ、昨日の様子を見る限り、神崎さんが納得していないのは明らかでしたから、こうなる予感はしてましたが」


 どうやら師匠は、私の行動を最初から見透かしていたようで、はなから私の言い訳なぞ、無意味だったと知り、唇を噛む。


「で、でもでも、パートナー選抜は明日なんですよ! しかも今日は休日で、たっぷりと鍛錬できる貴重な日なんですよ。そんな日に鍛錬が出来ないなんて、我慢なりません」


 万全の状態で選抜パートナーに臨むべきだという師匠の主張も理解できる。


 それでも、やっぱり、少しでも研鑽を積んで憧れに一歩でも近づきたい、その思いが私を掻き立てるのだ。それが休日となれば、なおさらだ。


「自分のキャパシティーをきちんと見極められるなら、四季も口を出したりしません。ただ、神崎さんの場合、憧れを抱えているから、いや、抱えているからこそ、暴走気味になってしまい、自分の器を超えたを鍛錬に踏み込むと思ったんです。だからせめて今日は休んでもらおうと無理やりにでも、ショッピングにでも連れ出そうと」


 憧れを持つ私だからこそ、師匠は私が限界を超えた鍛錬を行うと思っているようだった。

 

 確かに一日を使って鍛錬を励もうと思うが、それはちゃんと休憩しながら行う上なので、それならば、キャパを超えることもないはずだ。


 それに、師匠の言い方的に、自分の器を見極められるなら、鍛錬可能というニュアンスが伝わるので、そこを突破すれば、鍛錬が出来ると言うもの。


 師匠的に、そこが一番のネックと思っている節があるので。


「大丈夫です、師匠! 自分のキャパを超えた鍛錬はしません。確かに鍛錬はしたいと言いましたが、それはちゃんと休憩を取りながら、という意味です。十分な休憩を取ったうえでなら、キャパを超えることもありませんし、師匠も――」


「信じられません」


「へ?」


「信じられないと言っているんです。神崎さんの指導をしてたから分かります。神崎さんは鍛錬が終わると、事あるごとに、四季を説得しようとして、鍛錬を続けようとするんですよ? 見るからに身体は疲労で限界なのに。いくら休憩を取るうえでと言われましても、それを無に帰すくらいに無茶するに決まってます!」


「……そんなことは」


 師匠にそう言われて、少しだけ自分が鍛錬をする姿を脳裏に思い起こす。


 鍛錬に没頭し、時間の感覚すら失っていく自分の姿。


 息も絶え絶えになりながら、それでもなお先へ進もうとする、その執拗な自分の姿。


 その光景が目に浮かび、私は弱弱しい頼りない否定が出てしまった


「それに、神崎さんは四季を師匠と思っているんですよね?」


「そ、それは、もちろん。師匠のお陰で少しですけど強くなれた気がするので」


「だったら、師匠の教えをちゃんと守ってください。それが出来ないなら、四季は……四季は今後一切、神崎さんに享受きょうじゅ致しません!」


 師匠はそう言い切った後、頬をぷくっと膨らませて、子供のようにそっぽを向く。


「そ、そんな!?」


 足場が崩れる、というのはこういう感覚なのだろうか。


 立っているはずの大地が、音もなく消え失せ、どこまでも落ちていくような、底の見えない空虚に呑み込まれていく。

 

 一週間足らずで、私の振るう刀は見違えるほどに研ぎ澄まされていた。


 まだまだ粗削りな部分はあるが、それでも、独りで闇雲に振っていた頃とは、比べるべくもない。


 これもひとえに師匠のお陰だ。


 師匠がいなければ決してこの短時間で目に見えての成長には至らなかったはずだ。彼女の言葉に従いさえすれば、きっとこれから先も、恐ろしいほどの速さで成長できるだろう。


 ――あの憧れに届くためには、その速度でなければ間に合わない。

 

 師匠がいたから、師匠がいたからこそ、私は飛躍な成長を成し遂げているのに、その師匠が居なくなれば、私は再び、覚束ない足取りでしか進めなくなる。


 そうなれば、私の憧れはもう閉ざされたのと同じ。


「し―—」


「ひ、光ちゃん!」


 私はそっぽを向く師匠に『自分が悪かったから、指導をやめないで欲しい』と伝える瞬間、凜ちゃんの声によって区切られる。


「わ、わたしが、あ、嵐山さんの、か、代わりに、お、教えてあげる!」


 ずっと蚊帳の外だった凜ちゃんは、両手を胸の前で握り拳を作りながら、息の弾むように言った。


 その茶色の瞳には、決意のようなものが灯っていた。


「ちょっ!? 水無月さん、いきなり何を言い出すんですか!?」


 意外なことに凜ちゃんの言葉に大きく反応を示す師匠。


 凜ちゃんは、驚くような、焦燥に満ちたような反応をする師匠に、疑問を抱くように小首を傾げる。


「ど、どうして、あ、嵐山さんがそんな反応を、する、の? あ、嵐山さんが教えないなら、わ、わたしがその、代わりを務める、だけ、だよ?」


 凜ちゃんは師匠にけん制するように、私の腕をぎゅーっと抱きしめた。


「し、四季は教えないとは言っていません! 神崎さんが四季の教えに従えば、ちゃんと教えます!」


「あ、嵐山さんの言うことを全部守らないといけないなんて……そ、それは、ひ、光ちゃんを縛っているのと同じだよ。そ、それじゃあ……あまりにも、かわいそう……」


「し、四季はそう言ってるわけじゃなくて……」


「ひ、光ちゃん! わ、わたしだったらあ、嵐山さんと違って、そんな風に押し付けたりしない、よ。ひ、光ちゃんは、明日のために今日は鍛錬を積みたいんだよね? だ、だったら、ひ、光ちゃんが満足するまで、つ、つきっきりで、し、指導するよ?」


 実際、彼女の実力は疑いようがない。


 模擬戦で相対したとき、私はそれを身をもって知った。師匠に劣らぬ技量――いや、あるいは別のかたちで洗練された強さを誇っていた。

 

 凜ちゃんなら師匠の代わりでも務まるかもしれないけど……


「うう……ううぅ」


 師匠は、今にも零れ落ちそうな涙を堪えながら、小さく喉を震わせていた。


 その姿は、どこか取り残された幼い子猫のようで、普段の凛とした面影は、影のように薄れている。


 前回は、師匠に言い負かされた凜ちゃんだったが、今日は完全に立場が逆転していた。

 ちょっと意外だったのは凜ちゃんが師匠に対してずばずば、物申していることだった。


 前回のこともあり、凜ちゃんは師匠に対して僅かながらの苦手意識はありそうだと思った。


 その上、師匠の性格は、凛としていて、少しだけつんけんしているような性格。対して、凜ちゃんは、引っ込み思案な性格で、基本的にはおとなしい。


 だからちょっと驚いた。凜ちゃんが誰かに対して強きな態度を示すことが。


「凜ちゃん、ありがとね。でも、やっぱり私は師匠に教えてもらいたい」


「神崎さん……!」


 そのひと言に応じるように、師匠の目元に滲んだ涙の粒は、かすかな震えを帯びながら、悲しみの色をほどいていく。


「ど、どうして……? わ、わたしじゃ、不満?」


 凜ちゃんは、かすかに唇を震わせながら、問いを落とした。その瞳は、拭いきれない戸惑いが顕著に表れていた。


「ううん。そうじゃなくてね。やっぱり、今日まで師匠に指導を受けてもらっていたから、中途半端な形のまま、突然指導者が変わると、どこかで歯車がかみ合わなくなって、知らぬうちに変な癖がついちゃうのが……怖いの。凜ちゃんが教えたいって気持ちは凄くありがたいけど、こればかりは譲れないの。ごめんね、凜ちゃんの気持ちを無下に扱うような真似をして」

 

「あ、ううん。あ、謝らなくて、いいよ? ひ、光ちゃんが言うこともわ、分かるから。うん、そ、そう言うことなら、わ、わたしは引くよ」


 私の言い分に納得してくれた凜ちゃんは、これ以上は問答無用と言うように、身を引く。

 それを見た師匠は、安堵したようにほっと一息を吐く。


 最初にこの事態を招いたのは、師匠が啖呵を切ったことが原因。


 しかも、師匠は自分から啖呵を切ったくせに、凜ちゃんに私の、指導という立場が奪われると知ると、師匠はその立場を阻止してくるし、結局、何がしたかったのか分からぬまま、辞退は収束してしまった。


「こほん。無事に事態は収拾しましたし、さっきも言った通り、ショッピングを楽しみますよ」


 取り乱したのが嘘のように冷静を装い、まるで自分の手柄で事態を収めたような言い回しをする師匠。

 

「分かりました」


 鍛錬をしたい気持ちの衝動があった。それでも、私は余計な言葉を差し挟まず、ただ素直に頷く。


 先ほどのやり取りからすれば、いま願い出れば、師匠はきっと受け入れてくれる――そんな予感はあった。


 が、ここで余計な事をいって、また事態がごちゃつくのは避けたかった。


 何より、凜ちゃんと師匠の間にもっと深い溝が出来そうで、怖かった。


「あ、そうそう、水無月さんは付いてこないでください」


「どど、どうして!?」


「むかついたから。それだけです」


「そ、それは、ただのは、腹いせだよ! も、もともとは、あ、嵐山さんが啖呵を――っ!?」


「うるさいです」


 私の懸念など意に介さぬように、二人は言い合いを始める。もっとも、今の一件に関して言えば、非は師匠にあるとしか思えない。


 立場を守り切れたことで、心の余裕が出来たのか、師匠はここぞとばかりに凜ちゃんに報復を重ねる。


 最終的には、凜ちゃんとの問答すらわずわしくなったのか、師匠はふいに手を伸ばし、洗濯ばさみのように凜ちゃんの唇を指先でつまみ上げ、声を上げることも許さない始末。


「師匠、凜ちゃんも一緒に連れて行きましょうよ」


「神崎さん。どうして、この”でか乳女”の肩を持つのですか!?」


「ちょっと、師匠! 凜ちゃんに何て言うことを! ちゃんと名前で呼んであげてください! あと、凜ちゃんの唇をつまむのもやめてあげてください!」


 師匠は凜ちゃんに対してうっ憤が募りに募ったのか、もはや、名前すら呼ぶこともせず、思春期男子のような呼び方をする。

 

 流石に友達のことを侮辱するような呼び方を看過するほど私は薄情じゃないので、師匠にちゃんと名前で呼ぶように口答えする。


「ふ、ふーんだ」


 師匠はそっぽを向き、露骨に知らぬふりを決め込む。その姿は、最初の抱いていた冷静沈着で凛とした面影とは、あまりにかけ離れていた。


 これが俗に言うカエル化現象。


 その感覚を私は初めて知ったのだった。


「……師匠ってこんなにも幼稚だったんですね」


「よ、幼稚!? か、かか、神崎さん、いいい、今の言葉は撤回を希望します。そもそも、四季のどこが幼稚なんですか!?」


「さっきの腹いせで凜ちゃんをのけ者しようとするところとか、八つ当たりで凜ちゃんのことを変なあだ名で呼ぶところとか。師匠として、少し器が小さいと思います」


「そ、そんな……し、四季が、そんな……」


「ぷはっ」


 言葉を重ねるごとに、師匠の表情は崩れ、よろよろと後ずさる。その拍子に、凜ちゃんの唇をつまんでいた指も、力を失って削がれ落ちた。


 自分でも驚くほどにとげとげしく言ってしまったが、凜ちゃんは大切な友達の一人。


 いくら師匠でも私にも我慢できないこともある。


「……器が小さいと言われれば、それは師匠失格……ぐ、わ、分かりました。水無月さんも一緒に来てもいいです」


 器の小ささを咎められたのが、余程聞いたのか、苦々しげな表情で、すごく、すごーく渋々に凜ちゃんの同行を許可する。

 

 ――ぐ~!!


「今の音、神崎さんからですか?」


「っ……!!」


「あ、嵐山さん。お、乙女心が、な、ない、の? 言われたくない、ことだって、あるんだよ」


「別にお腹がなった事を口に出しただけじゃないですか。四季はただ事実を述べただけ」


「そ、それが乙女心が、ない、ってい、いってるの! あ、嵐山さんは、平気かも、しれないけど、お腹の、音がなったことをわざわざ、口に出されるのは、ふ、普通ははず、かしいんだよ!」


「何が恥ずかしんですか? 人間の生理現象なのですから、別に恥ずべきことでは――」


「あああ、も、もうやめてください!」


 羞恥に耐えきれなくなった私は、思わず声を張り上げた。


「えっと、り、凜ちゃん! は、早く朝食に行こ? 師匠、また後で、です!」


「あ、ひ、光ちゃん! ま、待って~」


 言い終えるが早いか、私はその場を逃げるように歩き出す。

 背後から、「ま、待って~」と凜ちゃんの声が追いかけてくるも、私は振り返る余裕もなく、ただ足早に、食堂へと向かったのだった。





          *





「さて、ではさっそくショッピングに行きましょうか」

 

 朝食を済ませた私と凜ちゃんは食堂から出た刹那、ラウンジのソファに座っていた師匠から声がかかる。

 

 師匠は私たちの方に接近すると、さっそく買い物に出かけようと促した。


「「……」」


「? どうしました、お二方とも」


「師匠、その恰好で行くんですか?」


「そうですが、何か問題でも?」


 学園指定の紺色のジャージ姿のまま、何の疑いもなく街へ出ようとする師匠。


 そのあまりの無頓着さに、私たちは言葉を失い、ただ“本気なのか、この人は”という思いを込めて、しげしげと見つめるほかなかった。


「いや、別に問題は無いんですが。無いんですが……やっぱり乙女として少しはおしゃれに気を使ってもいいのでは?」


「むっ。先ほどの水無月さんもそうですが、乙女、乙女って。別に乙女だからと言って、おしゃれに興味関心が無い人だってこの世にはいると思いますけど……自分の価値観を相手に押し付けるのって少々傲慢(ごうまん)では?」


 師匠の言うことも理解できる。この世にはオシャレに興味関心などない女性の人だっているわけで、それを他人に押し付けるのはあまりにも傲慢が過ぎる。


 それは、分かるけど……分かるけど!


「いや、まあ、それは否定しませんが。でも、師匠って容姿が整っていて可愛いのにもったいないと言うか……」


「か、かわいい!? べ、別に可愛くなんて……」


 師匠は私に”可愛い”と言われ、声が上擦ると共に羞恥と照れが重なり、顔が真っ赤になって戸惑う。


 どうやら、そうした評価には慣れていないらしい。自分の姿について、ほとんど意識を向けてこなかったのだろう。


「いやいや、可愛いですよ!」


 自分の容姿の可愛らしさを否定する師匠に私はお世辞抜きの可愛いを被せる。


「そ、そうですか。ですが、四季はそういったおしゃれと言うものに無頓着で、基本的に出かけるときも、家にいるときも、寝るときも、Tシャツにこのようなジャージが鉄板なので。それ以外の服なんて持ってませんし……」


「オシャレに無頓着って言いますが、その髪飾りとかミサンガとかのアクセサリーはいつも身に着けてますよね? 多少、おしゃれに気を使ってるかと思ってましたが」


 オシャレに無頓着と言うものの、師匠の手首のミサンガはともかく、大きな青いリボンは、毎日髪をまとめるのが大変だと思う。


 私が今、二つのサイドの髪を結んでいる二つの白いリボンは、母が三つ葉女学院合格祝いとお守りと称して、作ってもらったものだ。


 ゴムにリボンが結びつけられているから、ただ束ねるだけで形になり、さほど手間がかからない。


 対して、師匠のリボンはそんな施しは無く、ただのひも状のリボン。そんなリボンを結ぶには相当な手間がかかるはず。


 オシャレに今まで無頓着だった師匠ならなおさら。


 師匠と出会ってからというもの、リボンをしていない姿なんてただ一度も見たことがなかった。


 オシャレに無頓着と言うなら、忘れたり、めんどくさくなって放置したりすると思うのだが。


「それも変な話なんですよね」


「変な話、ですか?」


「四季は愚か、両親もおしゃれに無頓着で、服装も四季みたいな感じで、オシャレよりも身軽さや手軽さを選ぶので、見た目にはこだわらないんですよ。アクセサリーなんてもってのほか。だから、誕生日の日に両親からこの髪飾りとミサンガを貰ったときは、正直、驚きました。どういう風の吹き回しかと。全く、おかしな話ですよね」


 師匠の青い瞳は遠い記憶の光景を映し出しているようで、その過去話を語る師匠の口元は優しく微笑んでいた。


 それほどまでに、この髪飾りとミサンガが気に入っているのだろう。

 

 その証左に、師匠は私と出会ってから大事そうにミサンガを優しく撫でているのを何度も見たし、さっきも言った通り、おしゃれに気を使っていないと言いつつ、しっかりと青いリボンを毎日欠かさず付けている。

 

 それだけで、師匠がどれだけ大切にしているのか分かる。


「ま、まあ、四季のことは置いといて。早く行きませんか? せっかくの休日が台無しになってしまいます」


「そうですね。行きましょうか」


 凜ちゃんも私たちの意見に賛成なのか、首をうんうんと頷いてくれた。


 そうして、私たちは休日を謳歌するために商業区域にてショッピングに勤しむのであった。

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