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あなたが知ってるようで知らないおとぎ話

金の包丁

作者: シャム吉
掲載日:2026/05/30

――これは、あなたが知っているようで知らないおとぎ話。


挿絵(By みてみん)



 ある村に、アンという木こりの娘がいました。

 アンは村一番の料理の腕前で、よく父や兄達においしいお弁当を作って持たせていました。


 ある日のこと、仕事から帰ってきた兄がアンに言いました。


「森で、お腹をすかせたおじいさんに会って、お前のくれたお弁当を分けてあげたら、とても喜んでくれたよ。それで、これを作った子に会いたいと言っていたんだけど……」


「わかったわ。用事もないし明日、早速行ってみる」



 次の日、アンは早速森へ行きました。

 途中、道が二手に分かれていました。一つは花がたくさん咲いている道。もう一つは、木の実がたくさんなっている道。


「帰ったら、木の実いっぱいのパン作るの、いいかもしれない!」


 アンは木の実の方を選びました。

 父親に、狼に気をつけるように言われていましたが、木の実採りに夢中になっているアンは後ろから忍び寄る影に気づきません。


バン!!


 後ろから銃声が聞こえました。驚いて振り向くと、逃げていく狼の姿が見えました。

 そして、茂みから杖を持ったおじいさんが出てきます。


「驚いた……。あなたが、狼に銃を撃ってくれたのですか?」


「驚かせたのはワシだが、撃ってはいないよ。魔法で鳴らしたのさ。……それより君が、お兄さんにお弁当を作ってるアンだね?」


「じゃあ、あなたが兄さんの言っていたおじいさん? お土産持ってきたの! 食べて下さい」


 アンは、魔法使いのおじいさんに手製のアップルパイを渡しました。

 おじいさんは喜んで食べ、おいしいと言いました。


「ありがとう。お礼に、これを渡したかったんだ」


 おじいさんは、古いランプを出しました。


「ワガママじゃが、舌は確かじゃ。お前さんなら、満足させられるはずじゃ。うまく、ランプを使うんじゃ」


 おじいさんの言っている意味はイマイチわかりませんでしたが、アンはうなずいてランプを受け取りました。



 アンが村に戻ると、城からのおふれが出ていることに気づきました。

 おふれの看板の前に、たくさんの村娘が集まっているのです。


「何が書いているの?」


「あら、アン! これなんか、絶対あなた良い線いくわよ」


 みんなアンのために前を空けてくれました。アンは読みます。


『料理大会開催!

 我が国の王子の誕生日に、王子を笑顔にさせるおいしい食べ物を作ること。

・材料、料理は自由

・笑いキノコは厳禁』


 アンは釘付けになりました。


「王子様、最近笑われないらしいわよ」


「食べること好きだったようだけど、食も細くなったって……」


「やはり、お忙しい身分だからね。王と王妃もあまり構わないようだし、孤独を感じているのかしら」


「ねぇねぇ、この大会で優勝した人が若い娘さんなら、賞金をもらえる他に、王子様と結婚もできるんだって!」


「キャー、本当!? あたしも出ようかしら!」


 アンは周りでそんなことを言っているのは、耳に入らずといった感じで、日時をメモし、急いで家に帰りました。



 アンは王子の好みなどを調べました。


「甘いもの好きだけど、甘過ぎダメ。辛いもの苦手。麺類好物だが、そばアレルギー。野菜、フルーツは好き」


 アンは、自分専用のレシピノートを眺めうなりました。


「何作ろう…」


 ベッドに突っ伏すと、頭に硬いものがあたりました。おじいさんにもらったランプを枕元に置いていたのでした。

 アンはランプを手に取ります。


「何に使うんだろう?」


 アンはそう言って、ランプの汚れをこすりました。

 すると、ランプが急に震え出し、中から青い煙りが出てきます。煙りは形をなし、精霊の姿になりました。


『やーっと出られた! ったく、じじい! いつになったら解放してくれるんだよ!?』


 精霊はそう言って、アンに飛びかかろうとして止まりました。


「お前、誰?」


「…アン。魔法使いのおじいさんに、このランプもらったんだけど…」


 アンはランプを示しました。


「何だと!? あのじいさん、俺をランプに閉じ込めた上に、人手に渡すなんて、何ていうことを!!」


「…あなたは?」


「俺は今一応、持ち主に3つの願いを叶えてやらなければいけない、可哀想でイケメンなランプの精。ジンという。この際、お前の願いを3つ叶えてやろう!」


 アンは、ジンと名乗るランプの精を疑わしげに見ました。


「本当に、ただ願いを叶えてくれるだけ? 叶えてもらうために私も何かしなきゃいけないとか?」


「残念ながら、俺がただで叶えるだけさ。あの魔法使いのじいさんが、人助けでもやってろ、って言うだよ」


 ジンはため息をつきました。


「じゃあ、大会に使いたいから、新しい包丁が欲しいな」


「はぁ!? そんなことに、願いを使うのか?」


「『そんなこと』じゃない! 私にとっては、友達と言って良い程、重要なんだ!」


 アンの勢いに気圧され、ジンは苦笑しました。


「……わかった、わかった。じゃあ、この金の包丁が良いか? それとも、この銀の包丁が良いか?」


 ジンは、金と銀の包丁をそれぞれ出しました。


「馬鹿にしないで! 私は料理人だ! そんなチャラチャラした包丁なんかいりません!」


「チャ、チャラチャラ?……まっ、いいか。じゃあ、欲のないお前に、特別まな板もつけてやる」


「わあ、ありがとう!」


 アンはニコニコしながら、大きな包丁とまな板を受け取った。


「そこは素直に喜ぶんだな?」


「じゃあ、二つめはね……」


「もう二つめかよ!?」


「いけないの?」


 アンは不思議そうな顔をしました。


「いや……。もう少し迷ったり、もったいなく思ったりしないか?」


「今、丁度やってもらいたいことがあったの。私の料理の毒味……じゃなくて、味見してアドバイス欲しいの」


「……今、毒味って。俺に何食べさせる気だ?」


 ジンは顔をひきつらせました。


「……まあ、二つ目の願い、良いだろう。言っとくが、俺は味にはうるさいぞ?」


「そうこなくちゃ!」


 アンは腕まくりをしました。



 アンとジンの、料理練習が始まります。ジンの怒号が飛びます。


「甘過ぎ! 砂糖の塊が残ってる!」


「固い! 焼き加減を考えろ!」


「酸っぱい! 食材を見極めろ!」


「何だ? 辛いぞ?」


「おい、こっち焦げてるぞ!」


「もう少し自然な甘さが欲しいな…」


「…うん! 絶妙な具合。合格だ!」


 アンはジンからたくさんダメ出しされた上、やっと合格をもらいました。




 大会当日。たくさんの参加者が集まりました。


 アンはランプを握って緊張しています。


「すごい人だね…」


「そりゃ、国中から集めたんだろうからな」


 ランプから声が返ってきました。


「エントリー最後になっちゃったけど、私の番来るまでに、王子様お腹いっぱいになっちゃってたりして……」


「それなら、願い事にしてくれれば、俺がお前を優勝させてやるのに……」


「魔法じゃ、意味ないでしょう? 私は実力を認めてもらいたいの!」


 アンはニッと笑いました。


「……でも、これで優勝できたら、アドバイスをたくさんくれたジンに、優勝させてもらったことになるね。あっ、もう時間だ!」


「最後のアドバイス……。料理は愛情」


「……了解!」


 アンはクスクス笑いながら、準備を始めました。



 次々と色々な料理が出されます。ステーキ、寿司、スープ、そばまで!?

 しかし、王子は、どれも一口くらいしか食べませんでした。そして、つまらなさそうに残りの料理をグチャグチャにしています。


「料理の冒涜者だわ」


 アンはその王子の態度にイライラしました。

 アンの番がきました。アンは怒った表情のまま、王子の前に行きます。


「王子様、一つ言わせて下さい! いくら大会だからといって、いくら審査員だからといって、みんな王子様のために作った料理なんですよ! そんな態度は王子様といえど、失礼です!!」


 観衆がどよめきます。腰に掛けていたランプがカタカタと震えていました。


「僕のため?」


 王子のお付きの者が、アンをいさめるより先に、王子が問いかけました。


「そうです。料理には、調理した人の想いが込められてます。そして、食材には数々の命を使っています。次から、その想いを気にかけていただけると料理達が喜びます」


「次から……」


 アンの作ったものが運ばれました。それは、フルーツいっぱいのデコレーションケーキでした。上のチョコのプレートには、『ハッピーバースデー』と。

 王子は驚いてアンを見上げました。アンは優しく微笑みます。


「お誕生日おめでとうございます」


「僕のためのケーキ……。僕の好きなものばかり……」


 王子は、ケーキを一口食べました。目を閉じ、ゆっくり噛んで飲み込みます。


「……おいしい」


 王子がポツリと言うと同時に、笑顔がこぼれました。

 大きな歓声が起こりました。


 アンは観衆の前に出され、感想を促されました。


「王子様が果物が好きだというので多めに乗せてみました。隠し味に、野菜を擦っていれましたし……」


「気遣いがたくさんされていたのですね。アンさんの、今後のことなんですが……」


「私もまだまだだと思います。なので、これから料理の修行の旅に出てみたいと思います!!」


 アンの言葉に、一気に静まりました。


「旅? 王子との結婚は?」


「何ですか、それ?」


 みんな、もったいないと思いました。



 アンは、父親と兄から無理やり許可をもらい、旅の支度を始めました。


「まさか、本当に優勝するとはなぁ…」


「ジンの舌が確かだったんだよ。料理得意なの?」


「いや、食べる専門だ。……俺も、あの王子言えないな。」


「何かあったの?」


「……いや、何でもないさ。でも、お前、本当に優勝なんて凄いな」


「私もまだまだだよ……。大会で知らない料理をたくさん見たの……」


 アンは少し考える素振りをしてから、ジンの方を見ました。


「ジン、最後のお願い。私の料理修行の旅に付き合って!」


「お願いじゃないだろ。ランプを持って行けば、自動的に付き合わされるんだよ。まあ、俺も暇だし願ったりだ!」



 こうして、木こりの娘とランプの精霊の旅が始まるのでしたーー。

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