13話目『流れ』
私は職を辞して今の会社に転職しました。まあ、湯灌なんてはじめから目指す職業ではございませんから。
今日は友前。お休みです。買い物ついでに夕飯でもと思っておりますと、元同僚とバッタリ出くわしました。
『湯灌なんてよくやってますね。ワタシは絶対ムリ。』
『でも、儲かるんじゃない。うちの爺さんが死んだ時、葬式って金掛かるんだなぁって思ったもん。』
『俺、ばあちゃんの時の葬儀代の明細、今後のために撮っておいたんだけど……、ああ、これこれ。湯灌ってやつだけで八万弱かかってるよ。』
『高給取りなんですね、ねえ奢って下さいよ。』
亡くなった方に触れ、処置し、洗い、化粧をし、お着替えをさせて納棺する。非日常の空間の中、取り乱される方、泣き崩れる方、はたまた少しのことで怒り出す方などの対応をつつがなく行っていく。
これらは外部から見たら特殊な業務で、その分見返りも大きいように見えるのでしょう。
確かに私共は、湯灌一件七万某のお代を頂いております……。
会社が。
施行においても、
『こんなに良くしていただいて』
と心付けを渡してこられる喪主様もいらっしゃいます。
ちなみにこういった場合は二度ほどお断りをして三度目にいただく事になっております。頂いたモノは金額の確認をした後、所定の書類に必要事項を記入し、その金額を添えて提出します……。
会社に。
お金は目の前を流れていきます。
私共は元同僚が聞いたら驚くような、とても低い基本給+歩合制でお給料を頂いております。
一施行、二千円也。
昨日は三件の施行でしたので、六千円稼ぎました。
前職は介護職でした。湯灌部の先輩・同僚には元美容師、元営業、元運送業、スポーツ選手を目指してたって人も居ますね。それぞれ何らかの職を辞めて、ここに流れてきた人達ばかりでございます。
誰もはじめから湯灌を目指して来たわけではありませんが、故人様、ご遺族様のために、若しくは会社の利益のために、まるで天職かのように振る舞い、穏やかな最期の時間を演出する演者となっております。そして私は、施行後に流れる涙とともに
『ありがとう』
と言っていただけることだけは、嫌いではございませんし、誇らしくも感じます。
但し、前職の頃よりお小遣いは減ってしまったので、奢ることはできません。
『ムリムリ、逆に奢ってよ〜』
職に誇りは持ってもプライドは逆さ水と共に流れていってしまいましたから。
それでは、次の斎場へ参ります……




