我が輩は猫太郎である
掲載日:2026/03/20
その黒猫は猫太郎と言う名を授かった次の日、死にかけの蝉を咥えて戻ってきた。
猫太郎はれっきとした猫である。
全身どころか、肉球まで墨を塗りたくったように黒い。
酷く人なつっこい性格で、野良だったのだけれど、離婚した婦人にこの度晴れて飼われる家猫となった。
猫太郎はとにかく賢い猫である。
トイレも一発で覚えたし、家具をひっかくことも無く、婦人が出かけてしまうと玄関で寂しそうに待っていて、休日には婦人の膝の上で丸まって眠るのが大好きである。
しかしそれと同じくらい好奇心が強く、元々が野良だったからか、隙あらば脱走し、戻ってくる時には虫やら鳥やらを咥えていたのだから、これには婦人も絶叫した。
婦人が猫を猫太郎と名付けたのには訳がある。
先年、婦人は離婚していた。
一人息子の宗太郎を事故で亡くしたことがきっかけで、夫婦仲に亀裂が入ったのだ。
猫太郎はそんな事情はちっとも知らないが、時々婦人が夜中に声を押し殺して泣いているので、その時は婦人にぴったりとくっついていた。
しばらくして婦人が泣き止むと、彼女は猫太郎を撫でて微笑むのだった。




