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ゆるゆる株式投資物語ー配当と優待が人生を少しだけ変える  作者: 稲毛塔名
高校生編

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7/8

第7話:平和そうな神流学園と石動家のカレー

※本話は【美玲視点/神流学園】の回です

 今日も神流学園は平和だ。

 これといったトラブルも起きたことがない。


 株はまだ未成年では誰も取引できない。

 だから話題にもなりようがないのかもしれない。


 もし、この年齢から株が買える世界だったらどうなるんだろう。

 学内はもっと殺伐として、投資の話ばかりが飛び交って――

 そんなことを想像して、少しだけ背筋が寒くなった。


 食事はおいしいし、経済の授業はためになる。

 体育を除けば……あ、次、体育だ。


────────────────────────


 今日の体育は、持久走だった。

 まったく、どこが「ゆるい体育」なんだ。

 後、こんな寒すぎる時に走るなんて聞いてない

 


「なんで体育に持久走なんて科目があるんだよ……。いつもは緩いのに、なんで今日に限って」


「何ブツブツ言ってるの?」


「あ、美玲……。そうか、今日は二組と合同か」


「楔、持久走が体育の中で一番嫌いだもんな」


「……走ってタイム計測して、何になるんだよ」


「1500メートルくらい、ちゃちゃっと走りなさいよ」


「……ちゃちゃっと走れる距離じゃないだろ」


「はーい、みんな位置について~。よーい、スタート!」


────────────────────────


 この前のショッピングモールで、私は楔に聞いた。

 ――私のこと、好き?


 返ってきた答えは、

「好きだけど、どう好きなのかは分からない」。


 恋愛の「好き」が欲しかった。

 でも、楔らしい答えだとも思った。


 株のことばかり考えてるし、簡単に答えを出さない人だから。

 ……それでも、ちょっともどかしい。


 この関係、変わることあるのかな。


「一着、瀬尾美玲! タイム六分二十秒!」


 えっ、私一位!?

 何も考えずに走ってただけなのに。


 ……はぁ。これからどうしよう。


「美玲ちゃん、速いね。ずっと先頭だったけど」


「ありがと――って、楔どこ行ったの?」


「美玲ちゃん、下、下」


「えっ!? 大丈夫!? 楔!」


「ははは……大丈夫、大丈夫」


「身体が校庭と同化してるけど!?」


 ……まあいいや。

 今は、この楽しい関係が続けばそれでいい。


────────────────────────


 昼休み、俺は珍しく美玲と校舎横のベンチに座った。


 美玲が弁当を作ってきてくれたらしい。

 正直、心臓に悪い。


 校舎の陰から、槇原がニヤニヤ見ていたので、全力で追い払った。


「これ、楔に」


「え、この弁当、俺に!?」


「うん。多めに作ったから、ちょっと食べてみて」


「いただきまーす」


「冷蔵庫の残りも使ったから、こんな構成なんだけど……おいしい?」


「おぉ。玉子焼きちょっと塩辛いけど、うまいぞ。タコさんウィンナーにもしてくれたんだな」


「ホントに?」


「大丈夫。俺、塩辛いの好きだから」


 そう言うと、美玲は少し安心した顔をした。


「そういえば、楔は来年卒業だけど、内部進学だから受験ないんだね」


「ああ。下宿先探すくらいかな」


「全然焦ってないもんね。知り合いのいとこ、受験だ受験だって大変そうだよ」


「大学の準備に集中できるから、助かるよ」


「それはそうだね」


 少し間を置いて、俺は言った。


「なあ、今朝ふと思ったんだけどさ」


「うん?」


「この学園って平和だけど、もし十六歳から株が買えたらさ……。

 株の話ばっかりになって、投資始める人が増えて、最悪、退学選ぶ人とか、損して寝込む人も出てくるのかなって」


「怖っ! 私やだよ。

 『株買うお金ないから貸して』とか言われるの」


「それは殺伐としすぎだな」


「あと、変な株関係の業者が授業に来たりしそう」


「それはさすがに学校が止めるだろ」


 二人で顔を見合わせて、苦笑した。

 

────────────────────────


 その日の石動家の夕食は、カレーだった。

 家族四人で作る、いつもの光景。


 トントントン……と、にんじんと玉ねぎを刻む。

 玉ねぎは、言うまでもなく目にくる。


「お兄ちゃん、泣いてるねぇ」


「う、うるさい」


 牛肉はなかなか立派だった。

 ……でも、半額シール付き。


 母さんは、いい食材を選ぶが値札の確認は忘れない。


 父さんはというと、カレーにインスタントコーヒーを入れていた。


「苦みも、必要なんだ」


 やがて、石動家特製――

 苦み走ったコーヒー……じゃなくて、カレーが完成した。


「みんな悪いな。辛味だけじゃなく、苦みまで入れて。でも、これがあると違うんだ」


「まずは食べてみましょう」


「いただきます!」


 今まで食べたことのない味だった。

 変な意味じゃない。


 苦いというより、深みがある。


「コーヒーはアクセントだ。入れすぎないのが大事だぞ」


「俺、好きだよ。大人のカレーって感じで」


 父さんは、少しだけ満足そうに笑った。

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