第5話 ショッピング時の優待券の使いみち(前編)
※本話は【ショッピング・デート】の回です
まだまだ暑さは残っているが、風は少しだけ秋の匂いを含んでいた。
そんな日曜日、石動家は三井アウトレットモールへ買い物に行くことになっていた。
ワンボックスカーに荷物を積み込みながら、父さんが空を見上げる。
「今日は晴れてて良かったな~」
「ほんとだね。アウトレットは晴れてないとね」
と、助手席の葵が言い、後部座席に視線を向けた。
「ね、美玲さん」
「うん! 何買おうか、今から楽しみだよ~。誘ってくれてありがとう、葵ちゃん」
……美玲?
「どうして美玲がここに!?」
思わず声が裏返った。
「ふふふ、びっくりしてる、びっくりしてる」
葵は楽しそうに笑う。
「ラインで誘ったんだよ、私が」
「聞いて……ないけど……」
「どうせお兄ちゃん、自分から美玲さん誘えないでしょ。スマホ片手にずーっと悩んでそうだし。感謝してよね」
「……まあ、誘おうかとは思ってたけど」
「そうなんだ。もう、それくらい気軽に誘ってくれていいのに」
美玲は少し照れたように笑った。
「そうだぞ、楔」
父さんがバックミラー越しに言う。
「母さんも俺も、美玲ちゃんのことはよく知ってるんだから」
「……いろいろあるんだよ」
こうして、石動一家+美玲を乗せた車は、アウトレットモールへ向かって走り出した。
車内では、妹による“取り調べ”が始まっていた。
「では質問です」
葵が急に改まる。
「お兄ちゃんの、どこに惹かれましたか?」
「えっ……?」
美玲は一瞬戸惑いながらも、
「ちょっとぶっきらぼうなところもあるけど、優しいところとか……」
「では次。ここはちょっと……ってところは?」
「嫌じゃないけど……経済の授業の前に、ミンティアをやたら格好つけて食べるところ」
「あるある~! 普通に食べればいいのに、変にキメるよね~」
「おい、なに聞いてるんだよ! って、そんなキメてたか俺?」
車内に笑い声が広がる。
そんな流れで、昔の話にもなった。
美玲は数年前、柔道の大会で優勝している。
「そういえばさ」
俺は思い出したように言った。
「小さい頃、俺が株の漫画読んでたら“暗い奴いるぞ”ってからかわれたことあってさ。
そのとき美玲、同級生を投げ飛ばして『漫画読んでただけでからかわないで!』って言ってくれたんだよな」
「……ちょっと、その話広げすぎ」
葵が呆れたように言う。
「お兄ちゃん、デリカシーなさすぎ」
「もっと言って、葵ちゃん!」
そんなやり取りをしながら、車は目的地へ向かって進む。
窓の外の景色を眺めつつ、ポッキーやカラムーチョをつまむ二人。
俺はお気に入りのトマトプリッツをかじっていた。
今日の美玲は、鮮やかなイエローのトップスに、軽めのアウター。
いつもより少し大人っぽく見える。
ほどなく、三井アウトレットパークに到着した。
「じゃあね~お兄ちゃん」
葵が手を振る。
「感想まとめて、あとで報告してね~」
「するわけないだろ。なんでレポート提出なんだよ」
「ほら、早く行こうよ、楔」
こうして俺と美玲は、二人でモール内を回ることになった。
父さんからは、洋服店の割引券を二店舗分渡されている。
まずは腹ごしらえだ。
俺たちはコールドストーン・クリーマリーに入った。
「私はベリーベリーベリーグッド!」
「じゃあ俺はクッキーオーバーロードで」
「ちょっと食べさせてよ……」
「……おう。じゃあ、そっちのも」
次は洋服探し。
優待券の使える店から見ていくと、自然と選択肢が絞られていく。
メンズもレディースも扱っている店で、使い勝手はいい。
気づけば、美玲のファッションショーが始まっていた。
パステルカラーのトップスが、驚くほどよく似合う。
俺はというと、黒系の薄手のコートを試着していた。
(……なんか、すごく似合ってるな)
(みんな、こんなに自然に着こなせるものなのか?)
「いいじゃん、そのコート」
美玲が言う。
「楔、黒好きだよね。痩せてるから、すごく似合ってる」
「おう……サンキュ」
少しだけ、顔が熱くなった。




