第4話:株投資と株主優待と美玲!?
※本話は【株主優待】の回です
穏やかな朝、俺は学校へ向かっていた。
雲ひとつない青空で、暑いくらいの天気だ。
「よーす、楔」
槇原が横に並んでくる。
「よーす」
「いい天気だな~」
「ちょっと暑いくらいだよ」
「俺らも三年生になったな~」
「そうだな。最高学年だ」
少し間を置いて、槇原がニヤニヤしながら言った。
「なぁ楔」
「なんだよ」
「美玲ちゃんとは、どこまで進んでんの?」
「……ゲホッ、ゲホッ!」
思わず派手にむせた。
口に入れていたミンティアまで吐き出してしまう。
「なんでそんな気になるんだよ!」
「いやさ、美玲ちゃん明るいし可愛いし、運動神経抜群だしさ。まぁ高校生にはよくあるただのひがみだ。気にすんなって」
「……いや、気にするけどな!」
「はっはっはっ」
放課後、俺はいつものようにパソコンルームへ向かった。
目的は株主優待のチェックだ。
株主優待には本当にいろいろある。
飲食店の割引券、飲料や食品の詰め合わせ、生活雑貨――
今は育ちざかりだから、お菓子がもらえる優待も正直ありがたい。
「……最近、みんな美玲との関係を俺より気にしてる気がするな」
「私がどうかした??」
背後から声がして、俺は飛び上がった。
「どうって……って美玲!? いつからいた?」
「よく聞こえなかったから。何て言ってたの?」
「い、いや、なんでもないよ」
ごまかしたその瞬間、美玲はモニターをじっと見つめていた。
「あっ、マックの割引券も優待であるんだ。これあったら、この前のグラコロも安く済んだってこと!?」
「まぁ、そうなるな」
「へぇ~、優待って便利だね~」
「生活雑貨とか日用品の店もあるぞ。ボウリングの無料券とかも」
「いっぱいあるんだね……あ、楔。この張り紙なに?」
「あぁ、それはチャートの研究とか、今見てる株主優待の紹介ページのリンクだよ。見る人は俺くらいだけどな。七不思議に入れてもいいかも」
「たぶんもう入ってると思うよ。今どき珍しいもん、そういうの」
「でも実際、四つか五つくらいしかないんだろ?」
「そうそう。私は正門の謎の銅像が気になるな」
「二宮金次郎像だろ。危ないって理由で撤去が進んでるらしいけど、学園長が“文化的価値がある”って言って、邪魔にならない場所に残したらしい」
「へぇ~。楔、詳しいね~」
「俺は未来人が落とした、株価を記した本のほうが気になるけどな」
「あ~、すごいよね。株価が大きく動いた瞬間が書いてあるんでしょ?」
「ああ。そのタイミングが分かれば、利益を出すのは簡単だって言われてるらしい」
翌日、俺はカフェテリアでシーフードカレーを食べていた。
「ここがガスト経営だったら、優待券で無料になるのかな……」
そんなことを考えながら、スプーンを口に運ぶ。
家に帰ると、今日の夕食は肉じゃがだった。
妹はグリーンピースが嫌いらしく、きれいに端へ避けている。
「ところで楔、今日は学校で何してたんだ?」
父さんが箸を止めて聞いてくる。
「株主優待をPCルームで眺めてたよ」
「寂しいな~(笑)。一人でか?」
「いや、途中から美玲が来た」
「そうか。株主優待のある会社を今のうちに探すのは悪くないな。社会人になると、そういう余裕もなくなるからな」
「父さんは、どんな優待を持ってたの?」
「父さんはな、巨人戦をテレビで観るのが好きだろ? あのとき飲んでたビール、優待でもらったやつだ」
「へぇ~、知らなかった」
「いいか楔。優待も大事だが、それに振り回されると時間だけが過ぎていく。欲しいものがあったら、金額と相談して決断することだ。多少割高でもな」
「うん、分かった」
「そうだ。今度の休み、みんなでアウトレットモールに行こう。楔には洋服屋の割引券をやるから、それで何を買ったか、よかったら教えてくれ」
父さんは、少し嬉しそうにそう言った。
――いつまでも、こんな時間が続けばいい。
俺はふと、そんなことを思った。




