表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆるゆる株式投資物語ー配当と優待が人生を少しだけ変える  作者: 稲毛塔名
大学生編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/30

第27話:赤い本の行方 ――答えを知る女、答えを選ぶ男

【今回の話は楔視点の回です】


季節は秋。

今年も、ゆるゆるサークルの文化祭の季節がやってきた。


例年どおり、サークルでは株主優待の展示を行っている。

日赤食品のカップラーメン、ガルビーのポテトチップス。

今年はそれに加えて、ヤ〇ルトやミ〇バといった乾麺系の優待を持っている部員が多く、


「どれだけの人に、うどんやにゅう麺を振る舞えるか」


という、少し実験的な企画も用意されていた。


今年は美玲も加わり、例年よりも賑やかだ。

俺は本来、株の基礎説明を担当する予定だったが、今年は舞華さんにその役を任せ、

自分は質問を受ける側と、補足説明に回っていた。


浅見さんと、まだ一度も接触していなかったからだ。

文化祭が始まるまで、なぜ彼女が姿を見せなかったのか。

その理由は分からないままだった。


──────────


会場が人で混み始めた頃、ふと視線の端に、見覚えのある姿が映った。


文化祭では使われていない、校舎裏。


その影から、浅見雪菜が、こちらに向かって手招きをしている。


「ねぇ楔君。ちょっと、こっち来ない?」


──────────


俺は質問を聞いている最中だったが、舞華さんに軽く目配せをした。


「すみません、少し代わってもらっていいですか?」


舞華さんは何も聞かず、小さく頷いた。

浅見さんが来る可能性は、あらかじめ伝えてあった。


俺はそのまま、人の流れを抜けて、校舎裏へ向かった。


──────────


「ごめんね、楔君。忙しいところ」


「いえ……ただ、どうしてこのタイミングなんですか?」


「だって、なかなか一人になる隙がなかったんだもん。人気者だね、君は」


「最近は、そうでもなかったですよ。世間から、ずれてましたから」


「それって、赤い本の影響かな?」


浅見さんは、軽い調子で言った。


「やっぱり真面目な楔君には、あの本、ちょっと刺激が強かった?」


「……」


「あの本には、全部書いてある。

いつ爆上がりするか、いつ爆下がりするか。全部」


浅見さんは、楽しそうに続ける。


「私なら、機械的に入力して、もらえるものは全部もらうけどね。

正しい買い方とか、そんなの突き詰めるつもりもないし」


「……結果が、全てってことですか?」


「そう。分かってるじゃない」


浅見さんは、迷いなく言い切った。


「結果が全てよ。この本さえあれば、努力も分析も必要ない。

未来が分かってるなら、考える必要なくない?」


「……そうかもしれません」


俺は、正直に答えた。


「実際、使えば勝ち続けて、人生が大きく変わるのも分かってます」


「でしょ?」


でも――。


「俺は、父さんと話したんです。

『考えられない時に無理に考えると、変な方向に行く』って」


その言葉が、今も胸に残っている。


「実際、その通りでした。

赤い本を使って無理に利益を出そうとして……俺は、壊れかけた」


自分でも、驚くほど、落ち着いた声だった。


「自分の“正しさ”を、この本で説明しようとして、

それが、できなくなったんです」


「そんなの、関係ないじゃない」


浅見さんは、あっさりと言った。


「この本があれば、勝てるのよ。確実に」


「それでも――」


俺は、一歩だけ踏み出した。


「使った時点で、俺じゃなくなるんですよ……浅見さん」


──────────


「ふーん……がっかりさせてくれるわね」


浅見さんは、肩をすくめた。


「せっかく、大きく儲けられるチャンスを渡したのに。

君には、その素養もある」


「なのに、自分が壊れるから使わない、か」


少しだけ、目を細める。


「どこまでも、真面目ね。君は」


「……浅見さん。どうして、俺にこの本を渡したんですか?」


「どうして?」


浅見さんは、即答した。


「試したかったからよ」


「努力して積み上げてきた人間が、

それでも壊れるのか。

それとも、全部捨ててでも、勝つ人間になるのか」


「……」


「勝つなら、隣にいればいいと思った。

どっちになるか、見たかったの」


「そんなことをしなくても……」


俺は、静かに言った。


「言ってくれれば、話くらい聞きますよ。投資仲間として」


「もういいわ」


浅見さんの声から、温度が消えた。


「この話は終わり。

この本は、私一人で使う。

一人で利益を出して、大金持ちになる」


「楔君には、何もさせない」


「浅見さん、ひょっとして……」


「もういいから、その本、返してよ」


「……っ」


言葉が、喉で止まった。


――この先は、もう引き返せない。


--つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ