第22話:赤い本の出現ー受け取った楔、赤い本を調べていく
【今回の話は浅見視点/楔視点の回です】
私は、文化祭の日に拾った本を、今も持っている。
説明できる男。
正しい判断をする男。
優等生的な選択ができる石動楔君。
もし、“正しさが通用しないもの”を見たら、
この人はどうなるんだろう。
私は、そう考えていた。
────────────────
今日はゆるゆるサークルは休みで、ゼミも午後からだ。
のんびりした気分で席に座っていると、
程なくして浅見さんが隣の席に座った。
なんとなく、緊張が走る。
「あら偶然ね、石動君。あ、私のことは雪菜でいいよ~」
「……お久しぶりです、浅見さん」
「なんか壁を感じるけど、まぁいいわ。
楔君に渡したいものがあるの」
「何ですか?」
「こーれ。暇つぶしにどう?」
浅見さんから見せられた本は、
表紙だけ見れば普通の少年誌だった。
角が少し、ヨレている。
でも、中は違っていた。
別の本で偽装されている。
表紙の裏は赤く、
規則性のない紋様が広がっている。
文字は一切、書かれていなかった。
「……! 浅見さん、これって七不思議の……!」
「ご名答。真面目ね、石動君。
七不思議のことまで、ちゃんと勉強してるのね。
ほら、中も開いてみたら」
妙に薄くて、軽い。
拍子抜けするくらい、普通の本だった。
なのに、
手触りだけが、やけに気持ち悪い。
「おっと~、講義が始まるわ。
石動君に預けておくね。読まなくてもいいから」
そうして、赤い本が俺の手元に来た。
パラパラっと見ただけなのに、
見出しや数字がやたらと多く、
情報量が多そうに見えた。
────────────────
俺は図書館で、七不思議の詳細を調べることにした。
今、確認できる七不思議の一覧は、こうなっていた。
・図書館の異常な蔵書
― 経済・株式投資本の量が異様
・未来人が持ってきた、企業の株価が分かる本
・高校のPCルームに、株や株主優待に関するおすすめサイトが壁一面に貼られている
・大学の教授(または高校の教師)の予言が必ず当たる
・神流学園高校部の正門の隅にある謎の銅像
(後に各地で解体が進む二宮金次郎像だと判明)
・大学近くの商店街の隅にある八百屋が毎日
『株式投資半義務化記念。カブ毎日半額セール中』
一つ、足りない。
現時点では、これで全部らしい。
赤い本に関するものは、見つからなかった。
一番近いと思われた
「未来人が持ってきた本」も調べてみたが、
内容は赤い本と食い違っていた。
情報は多い。
けれど、肝心な部分だけが、抜け落ちている。
────────────────
ページ数を数えてみた。
全部で三十ページ弱。やはり薄い。
章立てはなく、目次もない。
文章だけが、延々と続いている感じだった。
────────────────
俺は考えた。
謎が多すぎる、この不思議な本。
調べても調べても分からない、正体不明の赤い本。
判断がつかなかった。
「今は、読むべきじゃない」
そう判断した。
でも——
「じゃあ、いつ読めばいいんだ?」
自分でも、分からなくなってきた。
────────────────
そうだ……。
「読まなくてもいいから」
浅見さんは、確かにそう言っていた。
読んでも問題ない?
それとも、読んだ瞬間に“試される”?
読まないままでいられるとも、思えなかった。
────────────────
美玲や舞華さんに、話してみるべきだろうか。
ダメだ。
きっと心配されるし、変な空気を生んでしまう。
「変な本をもらった」
「七不思議の一つの本を手に入れた」
そんな話をしても、
信用されるかどうかは、かなり怪しい。
「今は、誰にも言わない方がいい」
────────────────
本を閉じても、内容が頭から消えなかった。
いや、正確には——
まだ読んでいないはずなのに、
“読んだ後みたいな感覚”だけが、残っていた。
この本は、危険なのか。
それとも、ただの噂なのか。
判断材料は、圧倒的に足りない。
それなのに、考えるのをやめられなかった。
この本に一日を費やしたのに、
不安な気持ちだけが、加速度的に増していった。




