第20話:新年度が始まり、春満開。美玲の入学で三角関係成立!?
【今回の話はナレーション/楔視点/美玲視点の回です】
これまでのあらすじ
高校生の頃から株式投資を志していた石動楔は、
日常生活をこなしながら株について学んできた。
途中、神流学園の七不思議に出会いながらも、
幼馴染の美玲や親友の槙原とともに株式投資や株主優待を調べ続けていた。
ショッピングモールにも足を運び、
父親の威厳ある言葉を胸に、高校を卒業した楔は大学生になる。
大学生になった楔は、新たな出会いの中で、
これまでの関係性が変化していくのを肌感覚で感じていた。
それは美玲も同じだった。
知識を吸収し続け、「説明できる力」を持ち始めた楔に対し、
自分はまだ何も分かっていない——
そんな置き去りにされた感覚を抱いた美玲は、
図書館に通い、自分のできることから株の勉強を始めた。
途中、神流トレーディングクラブと衝突しながらも、
「説明できる男」石動は、文化祭でも一目置かれる存在となっていく。
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日本の株式投資をめぐる動き
桜が満開になっていた神流学園。
証券会社に登録すると、住んでいる自治体から
現金または商品券がもらえる法案は大成功に終わった。
予算を使い切った自治体も多く、
まもなく終了する見込みだという。
証券会社に登録したものの、
実際には取引をしていない人も半数ほどいると、
テレビのニュースで知った。
続いて日本政府が打ち出したのは、
利益にかかる税金を20%強から10%に引き下げる法案だった。
この法案はすでに提出され、来年度予算で可決される予定だ。
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カフェテリアの修羅場
ゼミが一緒だった俺と舞華さんは、
昼のカフェテリアで美玲と鉢合わせした。
「え? 楔!?」
「ん!? おう、美玲。ゼミどうだった?」
「まぁまぁかな。その人が楔の言ってた舞華さん?」
「楔君、知り合いかしら?」
「……えーと、幼馴染の美玲です。
美玲、ラインでは話してたと思うけど、舞華さんだ」
「ふーん、美玲さんと仲がいいのね。
どうも、サークルでは仲良くさせてもらってる大河内舞華です」
「仲良い……!
楔の彼女の瀬尾美玲です」
彼女じゃないだろ!
明らかに二人の間に火花のようなものが散っている。
「彼女っていうなら、キスはしてるってことでいいのかしら?」
「うぐっ……それはまだだよ!」
「じゃあ、それはカップルではないわね」
「そういう舞華さんは、デートとかしてるんですか?」
「行ったわよ。夜景の見えるレストランとか、
バッティングセンターで打ち合ったりね」
「うっ……二人でどこか行ったってのは……ないけど」
いかん、止まらない。どうしよう。
「楔はね、考えを言葉にするのに時間がかかるの。
だから急かしたらダメなの」
「それ、甘やかしてるだけじゃない?」
「……え?」
「楔君、最近“説明できる男”って言われてるでしょう?
それって成長してる証拠よ」
「成長?」
「そう。守られる側じゃなくて、
自分で前に出る人になってるってこと」
「……昔から楔は、私の前では無理しなくてよかった」
「でも、“昔の楔”の話よね?」
二人の険悪な雰囲気が止まらない。
「楔は私がいないとダメなの」
「それ、本気で言ってる?」
「だって昔から——」
「“いないとダメ”って、楔君のこと下に見てない?」
「……っ」
「楔君、今は一人で考えて、一人で選んでるわよ」
「それを“置いていかれた”って言うなら、
それはあなたの問題じゃない?」
俺、ここにいるんだけどなぁ。
俺を前にして、二人は言い争っていた。
「楔君、どっちが正しいと思う?」
「え?」
「私は“楔君は一人で立てる”と思ってる」
「私は“誰かが隣にいないと無理”だと思ってる」
「……楔?」
「……」
どっちが正しいかなんて、本当は分かっていた。
でも、正しい方を選ぶ勇気がなかった。
答えを出さなかった。
それが一番、楽だったからだ。
「ほ、ほら二人とも、これからゆるゆるサークルあるだろ。
もう行かなきゃ」
俺はサークルの時間を言い訳にして、逃げた。
舞華の余韻
言葉では、ねじ伏せた。
……なのに、楔君は私を見ていなかった気がした。
私の気持ちは、晴れやかとは程遠い状態だった。
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サークル活動
不安な気持ちを抱えたまま、
俺はゆるゆるサークルの勉強会に参加していた。
「今日の勉強会はチャートの読み方についてだ」
神林先輩の説明が続く。
「ローソク足は、白が上昇、黒が下落。
ヒゲが上に伸びていれば高値、下に伸びていれば安値だ。
終値は、白なら上、黒なら下を見ると分かる」
「白と黒のローソク、瀬尾君。
何て呼ばれてるか分かるかな?」
「はい、部長。
白が陽線、黒が陰線ですよね?」
「そうだね。陽線がプラス、陰線がマイナスだ」
美玲はなんなく答えていた。
俺と会っていない間に、勉強してきたのだろう。
こっちを見て、にこにこと笑っている。
こうして、今年度最初のサークル活動は終わった。
「まぁ、あれくらい答えて当然の内容よね」
「当然なら、どうして手を挙げなかったんですか?」
「……っ」
胃が痛い。
「おい、大丈夫か楔。胃薬持ってくるか?」
先輩、その優しさ今はいらないです。
「楔、今日は私一人で帰るね。じゃ……」
この険悪なムード、いつまで続くんだ。
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美玲Side
私は一人で図書館に戻った。
いつもなら楔と並んで歩く帰り道を、今日は一人で歩いた。
自分は何も分かっていないと思っていた。
でも、本当に分かっていなかったのは、
“楔がもう昔の楔じゃない”ということだったのかもしれない。
席に着くと、ノートを開く。
チャートの本を、もう一冊棚から引き抜いた。
置いていかれたままなのは、嫌だった。




