第19話:筋肉痛で痛々しい楔が、その後酒を酌み交わすのは誰?
【この話は恋愛・ラブコメ回です】
石動家と美玲、そして松神&鈴ノ下先輩も一緒の
スキーと温泉旅行は、二日目に入っていた。
俺はというと――
日頃、株に没頭する毎日が原因だと思われる運動不足から、
盛大な筋肉痛に襲われていた。
要するに、全身バッキバキだ。
俺は自分の部屋のベッドで、じっと横になって休んでいた。
一人だけ取り残された気分だったが、
どうやらそうでもなかったらしい。
松神先輩も、同じようにバッキバキだった。
……同じ理由、なんだろうな。
でも、不思議と考え込む余裕もなくて、
久しぶりに「頭が静か」だった。
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ドアをノックする音がした。
「じゃあ私、美玲ちゃんと滑ってくるから、お大事にね。
暇だったら智也君誘って、センターハウスで食事するといいよ」
そう言って、鈴ノ下先輩は笑った。
美玲は――
昨日渡した手袋を、今日もはめてくれていた。
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昼過ぎになり、
なんとか歩けるくらいまで回復した俺は、
同じく復活した松神先輩と、センターハウスのレストランにいた。
「おぅ、大丈夫か」
「先輩こそ。動きがロボットみたいっすよ」
「……株より、筋肉痛のほうが分かりやすいな」
「……ほんと、それですね」
「あ、そういえばな。俺、来年度からゆるゆるサークルの
副部長やることになったんだわ」
「そうなんですか?」
「部長はな、神林がやるってよ。まあ、あいつ冷静だし
穏やかだし、あいつがいれば俺の出番ないと思うけど」
「ははは……そんなこともないんじゃないですか?」
「ま、名ばかり副部長みたいなもんだけどな」
「本当は後輩と日本酒でも買って、酒盛りしたいところだけどな」
「もらったところで、全部こぼしそうなんでやめときましょう」
「だな。何か食うか。何にする?」
「ここはやっぱり――」
『信州そば!』
「ですよねー」
「地元の名産、味わってやろうぜ」
つるつるで、腰のあるそばは、
寝たきりだった俺たちの五臓六腑に、じんわり染みわたった。
消化がいい分、
唐揚げやポテトフライといったサイドメニューも、
つい手が伸びる。
バキバキでも腹は減る。
身体は正直だ。
俺と先輩は、顔を見合わせてそう思った。
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スノーボードを滑ってきた美玲と鈴ノ下先輩が、
スノーウェアから着替えて、部屋に戻ってきた。
「ただいま~。楽しかった~。
美玲ちゃん、ほんと上手だね~」
「えっ、鈴ノ下さんもすごいですよ。
なんか、技出してましたよね?」
「技?」
「空中でボード掴んだり、回転したり」
「あ~、朋美ね。あの人、めちゃくちゃ上手いから。
いなかったら、スキー場来ずに温泉漬けだったかも」
「でも、美玲も普通に滑れるのすごいですよ」
「もう! さらっと褒めないでよ」
そう言いながら、
美玲は少し照れた様子で、俺の背中を軽く叩いた。
「でもさ、楔君も松神君も、
ずっと部屋にいたら暇でしょ?
カードゲームしようよ」
「トランプ?」
「ふっふっふ。
人数そろったら、UNOでしょ~」
「朋美、持ってたんだな……」
こうして、俺たちはUNOに興じることになった。
……が。
正直に言おう。
俺は、ほとんどルールを忘れていた。
REVERSE?
SKIP?
WILD?
何それ。
「(REVERSEは反時計回り、
SKIPは一人飛ばし、
WILDは色変更ね)」
美玲に教えてもらいながら、
なんとかゲームを進めていく。
その間、
鈴ノ下先輩が時々こちらを見て、ニヤついていた気がするが――
……気のせいだろう。たぶん。
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夜も更け、
あまり眠れなかった俺は、
父さんと日本酒を酌み交わしながら、サシで話をしていた。
「はっはっは。
二日目は、全身倦怠感で動けなかったか」
「笑い事じゃないよ。
午後からは動けたけど、部屋の中限定だし」
「そういうこともあるだろう」
「この二日間、
株のことは、あまりイメージできなかった」
「それでいいんじゃないか?」
「考えられない時に、無理に考えると、
変な方向に行くこともある」
「株も、人間関係もな」
「……何もしない時間も、必要なのか」
「“何もしない”んじゃない。
“今は考えない”だけだ」
「そんな時間が、人生には必要な時もある。
今が、ちょうどその時なんだろう」
父さんは、少し間を置いてから続けた。
「楔。
お前はな、利益を取りに行く時より、
誰かを思って選ぶ時のほうが、
判断がずっといい」
「……父さん」
「そこを考えながら、動いていけ」
父さんと初めて酒を酌み交わした夜は、
静かに、ゆっくりと更けていった。




