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ゆるゆる株式投資物語ー配当と優待が人生を少しだけ変える  作者: 稲毛塔名
大学生編

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19/30

第17話:距離が縮まる恋と、キャピタルゲイン派の成功と失敗

【この話はサークル活動/プレゼント決める回です】

冬の朝。

窓ガラスには結露が浮かび、部屋の空気はひんやりしていた。


寒さに身をすくめながら、何気なくスマホを手に取る。

──通知は、葵からだった。


画面いっぱいに表示された長文を、思わずため息交じりに読む。


「お兄ちゃんへ

株投資に集中してるお兄ちゃんを、お父さんお母さん、私は心配してます。

そこで、お兄ちゃんの運動不足を直すため、

来月、2泊3日のスキー&温泉旅行が決定しました♪

どうせ大学も長い冬休みに入るから、

スケジュールくらい空けられるでしょ?

もちろん美玲さんも誘ってよね。

誘わなかったら、いきなり上級コース連れてって鬼の猛特訓するから。

じゃね♪」


……長い。

そして、美玲を誘わなかった場合の罰ゲームが重すぎる。


両親はスキー、葵はスノーボードを普通に滑れる。

俺も昔はスキーをしていたが、中学・高校と株にのめり込んでからは、

雪山とはすっかり縁がなくなっていた。


家族に誘われても、断ってばかり。

今となっては、ほぼ素人と言っていい。


──はっ。


そうだ。

美玲の誕生日プレゼント。


使い道を決めかねていたバイト代、

ここで使うのが一番自然じゃないか。


でも、何をあげればいい?


ブローチ?

ピアス?

……いや、彼氏じゃない。重すぎる。


財布?

……だから重いって。


株主優待の割引券や優待券?

論外だ。


……うーん。


──あ。


そういえば、槙原がラーメン屋で言ってた。


「寒そうなものにしとけ」


美玲は、寒いとき、

よく人のポケットに手を突っ込んでくる。


……それだ。


──────────────


さかのぼること、二週間前。


松神は自宅のパソコンで、とある情報サービス系の大企業の株を睨んでいた。

十分に下がったと判断し、購入。


数日後──

株価は、爆上がりしていた。


「……5万も上がってる!

まだいける!」


────────────────


場面は変わって、神流学園のゆるゆる株投資サークル。


「あの……誰か、松神さんが横たわってるんですけど、

知ってる人います?」


辰野

「情報サービス系の大企業の株を買ったら、一時的に急騰したらしいんだけどさ。

松神、“まだ上がる”って言って持ち続けた結果、

数日前から連続で急落。

かなりのマイナスになって、ひどく落ち込んでるんだ」


鈴ノ下が慰めても、反応はないらしい。


「データの問題じゃないわよ!」


甲高い声が、部室に響いた。


長篠

「あーあー、お気の毒様。

松神、結構やらかしてるわよね?

私が見ただけでも、三つは間違ってるわ」


「その声は……神流トレーディングクラブの……」


長篠

「長篠よ。

あら、楔君もいたの。

この前はどうも。

あんたは冒険しないタイプだから、大きく値崩れしてないみたいね」


「そもそも、大企業の株を買う余裕がないだけです。

……データの問題じゃないなら、何が原因なんですか?」


長篠

「一番のミスは、

急騰した時点で売らなかったこと。

大手投資会社の思うつぼよ。

あいつらは大量に株を持ってる。

上がったタイミングで売らないから、痛い目を見るの」


舞華

「もうやめてください。

松神先輩、ピクリとも動かないんですから……」


長篠

「そもそもデータなんて限界があるのよ。

相手は“生きた株”。

過去の数字は、あくまで参考にすぎないわ」


「そこまでだ、長篠君」


水窪部長が、

とちおとめを長篠副部長の口に突っ込んだ。


長篠

「むぐっ……部長!

……むぐむぐ。

甘っ……とちおとめ最高……」


(向こうの部長、

いつもいちご持ち歩いてるのか……?)


水窪

「うちのクラブでも、同じように失敗して落ち込んでる奴はいる。

よそのクラブに意見しづらいんだがな。

……なあ、山下」


「……」


浅見(心の声)

(……ほらね。

上がる。

でも、下がる。

赤い本を使わなくても、

この程度の結末は分かることよ)


松神

「そっちのクラブも……損した人、いるんだ……」


水窪

「一言だけ言わせてくれ。

デイトレードは、安ければ買い、高ければ売る。

その判断を瞬時にできなければ成り立たない。

長期保有でも、

株にはそういうシビアな側面があることを忘れちゃいけない」


「帰るぞ。今日はここまでだ」


天竜

「……水窪」


神流トレーディングクラブの面々は、そうして去っていった。


その後、

部長の提案で、この出来事を議題にすることになった。


舞華

「部長。

長篠副部長が言ってた“三つの間違い”、

売るタイミングと、投資会社の仕掛け以外に、

もう一つは何ですか?」


天竜

「いい質問だ、大河内君。

三つ目は、松神が“株価の高い株”を買ってしまったことだ。

……楔、説明できるか?」


「はい。

株価が三千円くらいまでの株は、

大きな材料がない限り、値動きは比較的穏やかです」


「でも、五千円以上になると、

少しの業績悪化でも急激に上下しやすくなります。

値動きが読みにくい、投資家泣かせの株だと思います」


天竜

「その通りだ。

松神は七千円前後の株を買っていた。

高い株はニュース一つで暴れる。

優待目的には向かない。

利益狙いならいいが、

暴れ馬を乗りこなす覚悟が要る」


松神

「……俺、軽い気持ちで買いすぎたのか……」


天竜

「高い勉強代だが、身に染みただろ。

株は、こういう失敗から学ぶことも多い」


この日のサークル活動は、

生きた株の扱いづらさを、

痛いほど実感する一日になった。


──────────────


サークルが終わった後、

俺は美玲に電話をかけた。


「もしもし?──楔?」


「ああ。今、いいか?」


「……うん」


「来月の天皇誕生日、

家族でスキー旅行に行くんだけど、

美玲も来ないか?」


「……うん」


「……なあ、美玲。

株価が上がる要因と、下がる要因って何だと思う?」


「え、急に?

……うーん。

上がるのは好景気とか、配当が増えるとか、好業績?

下がるのは、その逆じゃない?」


「すごいな。

合ってると思う。

勉強したのか?」


「……これくらい、ちょっと調べれば。

あ、あわわ、違う違う……」


「変わろうとしてるんだな、美玲」


「そうね。

少しでも、楔のいる世界を知りたいから」


「……そっか」


「え!?

スキー旅行?温泉も?

行く行く!

それって……私の──」


「……誕生日だろ」


「……期待していいんだよね?」


「うーん。

さあな~」


「あ~、はぐらかした~♪」


久しぶりに、

無理をしていない会話ができた気がした。

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