第15話:美玲が悩むのをよそに始まる文化祭の決起集会
【この話は楔視点の回です】
私はスマホを片手に、ベッドに腰掛けたまま、楔のことを考えていた。
画面は静かなまま。楔から、特にLINEは来ていない。
……「変わるから」で、終わってるよね。
そう思うと、こちらから送るのが、急に怖くなった。
「今いい?」なんて、今さら聞けるわけもない。
……やっぱり、今はダメだ。
会って、話したい。
ちゃんと、顔を見て。
……葵ちゃんに、相談してみようかな。
──────────────────────
前回のサークル活動が終わってから、二週間。
文化祭の決起集会を控えた昼時、俺は槙原と大学近くのラーメン屋に来ていた。
隣のアパートに住む小池さんから教えてもらった、
「らぁ麺 満月」。
「ここの豚骨ベースの塩ラーメンは絶品だから、一度行った方がいい」
そう言われて来てみたが、俺も槙原も、ラーメンは好きでも
わざわざ店を探して食べに行くタイプではなかった。
しかもオープン間もなく、今はまだ空いているらしい。
――行くなら今だ。
食券を買い、しばらくしてラーメンが運ばれてきた。
「おっ……豚骨の旨味もあるけど、それ以上に塩がまろやかだな」
「スープがすっきりしてて、具材との絡みも抜群で……箸が止まらないんだけど」
「……待て待て楔。
うまい料理コメント合戦みたいになってるけど、用があったんじゃないのか?」
「悪い悪い。あんまりうまくてさ。
……実は、バイト代が入ったんだけど、何に使えばいいか分からなくなってな」
「え?それ本題?
そんなの、欲しいもの買えばいいだろ」
「……そうだよな」
「真面目すぎるんだよ、お前は。
そのまま考え続けたら、ラーメンの味忘れるぞ」
こうして、他愛もない話をしながら、
俺たちはラーメンを堪能し、気づけば時間が過ぎていた。
──────────────────
今日は、文化祭の決起集会の日。
サークル全体が、どこか浮き足立っているように感じた。
「そういえば石動君、中部圏の私鉄株、この前紹介してたよね」
辰野先輩が声をかけてくる。
「はい。どうかしましたか?」
「いや、いい株だなと思って。
一定のレンジで上下しながら、ちゃんと戻ってくる」
「俺もそう思ったわ。
多少下がっても、優待や決算のタイミングでちゃんとプラスになる」
「いや……そんな」
「みんな褒めてるんだよ。
利益に走らず、優待がもらえるまで我慢できるのは立派だ」
神林先輩の言葉に、思わず照れくさくなる。
でも、正直……嬉しかった。
──────────────────────
「よし、それじゃ文化祭の出し物を決めようか」
天竜部長が場を仕切る。
「ちなみに、神流アングラ投資クラブは
『ビットコインは儲かる。中井部長独演会』らしい」
「神流トレーディングクラブは
『これだけ覚えれば勝てる、元手が二倍になる技術』のレポート配布だそうです」
「尖ってますね……」
「うちは、あれはやらない」
天竜部長は即答した。
「真似したら、どこも同じになるからな」
「例年通りだと、株主優待の展示ですが……
他に案はありますか?」
舞華さんは、少し考え込んでいるようだった。
(株主優待の展示だけで、大丈夫かしら……)
「身近になってきた“株そのもの”を紹介したことって、ありますか?」
俺がそう口にすると、部長が顎に手を当てる。
「いや……ないな。
でも口座だけ作って、何もしてない人も多いらしいし……石動、やってみるか?」
「え? 発表なんて、やったことないですよ」
「俺たちもサポートする。
そんなに人も集まらないだろうし、それに……」
「それに?」
「お前なら、面白いものができそうな気がする」
「大河内、お前も手伝ってやれ。なんとなくだ」
「なんとなくって……」
舞華さんは苦笑しながら、俺を見る。
「いいわ。一緒にやろう、楔君」
──────────────────────
議題は、そのまま進んでいった。
「松下、お前、北国まいたけファクトリーの炊き込みご飯の素、いっぱいあるって言ってたよな?」
「えぇ!? 何人分いると思ってるんですか!」
「足りなきゃ市販のやつで補えばいい。
目玉になるぞ、これは」
「……誰もやりたがらない理由が分かるな」
「……あはは」
「……面白いですね、それ」
「よし、やるか!
せっかくの文化祭だ。炊飯器くらい、家から持ってくる!」
「決まりだな。
今年も“らしさ”全開で、文化祭を楽しむぞ!」
派手ではない。
でも、こういう発想が次々に出てくるのが、このサークルだ。
――やっぱり、いい場所だな。
そう、改めて思った。




