第13話 ミニ勉強会と株をやらない自由
※本話は【ゆるゆるサークル】の回です
ゼミの講義が終わったあと、俺は槙原たちと一緒に歩きながら話していた。
「今日の経済学の話、渋沢栄一のところ、深かったな」
楔が言うと、槙原が笑う。
「前のめりだったな、石動(笑)」
「講師の話し方がうまいんだよ。気づいたら聞き入ってた」
「でもさ、最近ちょっと過熱気味じゃないか?」
別のやつが言った。
「電車乗っても、歩いてても、株の話ばっかりだろ。ニュース見ても、二番目くらいに必ず株が来るし」
「株主優待だの、株価だの、おすすめ銘柄だの……情報が多すぎて、逆に分からなくなってきてるよな」
「俺は株に興味ないからさ。他のニュースももっと聞きたいんだけど」
「株やらない人向けのニュース番組、作ってほしいよな」
そんな声に、俺は小さくうなずいた。
株以外にも、趣味になることなんていくらでもある。
株一色の世の中じゃなくて、いろんな事柄を扱う世の中になってほしい。
……そう思っている自分が、株をやっているのも、少しだけ可笑しかった。
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サークルの時間になり、近況報告が始まった。
「それじゃ、前回お休みしてた舞華君から、軽く報告してもらおうかな」
舞華さんが少し姿勢を正す。
「はい、それでは……」
「特にないなら、言わなくてもいいよ」
そんな声が飛ぶ。
「いえ、大丈夫です。今、ホームセンターの株を買っていて……優待で割引券がもらえるとあったので、保有しています」
「いろんな株があるのに、どうしてそこにしたの?」
舞華さんは一瞬、言葉に詰まった。
「それは……」
「買うタイミングが、たまたま合ったんですよね」
俺がそう言うと、
「え、ええ……」
舞華さんは少しほっとしたようにうなずいた。
「こらこら、何を買ったか詮索しすぎないようにな」
部長が軽く制する。
「じゃあ石動、お前も何かあるか?」
「まだ買ってはいないんですけど……中部圏の私鉄株は、遊園地やホテル、博物館の割引券がたくさん付いてきて、お得ですよね。二百株以上必要なので、ちょっと高くつきますけど」
「中部圏の私鉄株は二百株で冊子がもらえるから、選べる楽しさがあるよな。百貨店の割引も付くし」
そんなやり取りに、場の空気が少し和らぐ。
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「じゃあ次。今日のテーマだ。ファンダメンタルズについて」
天竜部長の説明が始まった。
項目は多いが、回復の見込みがある企業を探すこと。
今は赤字でも、決算前に黒字転換しそうな材料を持っているかを見る――そんな話だった。
辰野先輩が手を挙げる。
「僕は、好業績でじわじわ上がっていて、二期連続の企業は検討してもいいと思います。ただ、増配や黒字転換が出てからだと、もうみんな殺到して買いづらいです。PERやPBR、ROEを使って、割安な株を探すのが次の一手じゃないでしょうか?」
「辰野君、データ分析もほどほどになー。当たるとは限らないぞー(笑)」
確かに一理ある。
決算が出てから飛びつくのは遅い。
決算前に、割安で、前年だけ赤字だった企業の中から、黒字になりそうな材料を探す――
それが理想なんだろう。
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サークルが終わったあと、舞華さんに呼び止められた。
「この前は……その、迷惑かけたでしょう?」
少し間を置いて、
「それに今日も助けてもらったし……ちゃんとお礼をしたくて」
「いえ、そんな大したことじゃ……」
「いいえ。
“ちゃんと家まで送る”って、簡単そうで、できない人も多いのよ」
一瞬、言葉に詰まった。
「……じゃあ、ご飯でも行きませんか。
あ、嫌なら断っても」
「行くわ」
迷いのない声だった。
「あなたが、どんな店を選ぶのか……興味あるもの」
来週は、楽しいけど。
同時に、選ぶ理由を問われるデートになりそうだった。




