第12話 二日酔いの舞華と、ゆるめのサークル
※本話は【舞華視点/心情】の回です
「……うぅ、頭が痛い……」
「お嬢様、大丈夫ですか? 本当に心配しましたよ」
「ありがとう、関さん。迷惑かけたわね……」
「私は何も。大学のサークルの方が、きちんとお連れくださったんです」
「え……そうだったかしら」
「石動さん、とおっしゃっていましたよ」
――石動君。
そうだ。確かに、石動君に送ってもらったんだ。
どうしよう……。
あまり覚えてないけど、かなり恥ずかしいことを言った気がする。
顔、合わせられるかしら。
私はベッドの上で身を丸めたまま、そっとスマホを手に取った。
ラインの通知が一件。
「おはようございます、舞華さん。
よく眠れましたか? また、ゆるゆるサークルで」
……心配、かけちゃったわね。
「今度、ちゃんとお礼を言わなきゃ……」
そう呟いて、スマホを伏せた。
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学内カフェ「セント・ウォール」で、俺はカウンターに立っていた。
「おっ、様になってんじゃん」
「よ、よう槙原」
「なんだその距離感。まだ気にしてんのか? 先週のこと」
「……ちょっとな。気持ちがすっきりしなくて」
「気にすんなよ。いろいろ言ってたけど、俺はお前、正しかったと思うぜ」
「槙原……」
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午後からはサークル活動がある。
俺は自分が初めて買った日本酒関連株の値動きを確認しながら、部室へ向かった。
時間には、ちゃんと間に合った。
「石動君。この前の舞華ちゃん、大丈夫だった?」
声をかけてきたのは鈴ノ下さんだ。
「ああ、大丈夫です。今日は頭痛がひどいから休むって、伝えてほしいってラインが来ました」
「さすが石動君だね~。あのとき、噂になってたよ」
「……どんな噂です?」
「“ここに紳士的な騎士様がいる~!”って」
「騎士って……」
話題を変えるように、俺は隣の部屋をちらりと見た。
「神流トレーディングクラブの人たち、仲悪いって聞いてましたけど……隣でやるんですね」
「いつもだよ」
松神さんが肩をすくめる。
「向こうの部長は、天竜さんのことそこまで嫌ってないと思うけどな」
この日の活動内容は、近況報告。
今どんな優待を持っているか、どんな株を探しているか。
眠くなるくらい、ゆるい。
「じゃあ自由に話してくれ~」
鈴ノ下さんが、届いたばかりのコスメ優待を披露すると、部屋が一気に盛り上がった。
その後、日本酒銘柄の話になり、俺が買ったと告げると、意外と食いつきが良かった。
このサークルは、やっぱり“優待を楽しむ”視点が強い。
――今日は、これで終わりかな。
そう思ったとき、ひとりの部員が口を開いた。
「……俺、ヤフー掲示板の情報に釣られて株を買って、含み損出しちゃって」
部屋の空気が、少しだけ変わる。
「煽り屋につられて、イナゴになったか」
部長の言葉は厳しいが、責める調子ではなかった。
「情報で買った株って、売り時が分からなくなるんだよ。
愛着を持って買った株とは、そこが違う」
「……確かに」
「“たぶん”“いけるだろう”は、投資では危険だ」
部屋の空気が、少しずつ引き締まっていった。
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サークル終了後、俺は日本酒株をもう一度確認した。
少し下がってはいるが、全体としては横ばい。
「……今は、これでいい」
そのとき、スマホが鳴った。
美玲からの着信だ。
「おう、美玲。どうした?」
「忙しいところごめんね。声、聞きたくて……」
「最近はサークルとか株の確認とかで、まあ忙しいな。でも嫌な疲れじゃない」
「……そっか」
少し間があって、美玲が言った。
「ねえ、楔。私……変わるから」
「変わる?」
「じゃあね」
通話は、それで切れた。
変わるって……何を?
考え込んだまま、俺はスマホを見つめていると、
もう一件、通知が届いた。
謎のライン友だち――“I”。
「『これでいいんだ』じゃないことも、あるよな」
画面を閉じ、俺は深く息を吐いた。
答えは、まだ見えない。
でも、何かが少しずつ動き始めている。
そんな予感だけが、確かにあった。




