第11話 新歓イベントで気持ちが先行する楔と舞華のホンネ
※本話は【美玲視点・株投資サークル】の回です
提灯の明かりがこうこうと照らす。
居酒屋「田助」では、ゆるゆる株投資サークルの新歓イベントが始まっていた。
平林副部長が、天竜部長の肩を軽く叩く。
「部長、そろそろいいんじゃないですか? 乾杯しましょうよ」
「おう、やるか。今日はみんなお疲れ。楽しい新歓にしよう。
じゃあグラス持ってくれ。乾杯!」
「カンパーイ!」
店内にグラスの音と笑い声が広がる。
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新入部員の自己紹介
しばらくして、新入部員の紹介タイムが始まった。
「じゃあ新入部員は、学部・学年と、欲しい株主優待を一つだけ挙げてくれ」
最初に名指しされたのは、舞華さんだった。
「国際政経学部・国際政治学科一年の、大河内舞華です。
株については、まだ本当に何も分からないので……
カテゴリーで挙げるなら、洋服系の割引優待、でしょうか」
一瞬、店内がざわつく。
「……大河内?」
「もしかして、あの……?」
鈴ノ下さんが、空気を和らげるように笑った。
「あ~分かる分かる。洋服系の優待って、3000円とか5000円分だったりして、意外とお得だよね。期限も長めだし」
確かに、洋服系の優待は使い勝手がいい。
父さんからもらったときも、そんな金額だった。
次に、俺の番が回ってくる。
「国際政経学部・国際経済学科一年の石動楔です。
欲しい優待は……正直、一つに決めきれませんが(笑)
カタログや商品一覧から選べるタイプが好きですね。自由度が高いので」
それ以上、特別なコメントはなかった。
このサークルは、そういう距離感らしい。
雑談と、価値観のズレ
あちこちでビールを片手に会話が始まる。
「二年の松神智也だ。よろしくな楔。
さっき言ってた優待、キャピタルゲイン狙えそうか?」
「……どうでしょうね」
「昔その株で、俺けっこう儲けたんだよ。買っといた方がいいぜ」
鈴ノ下さんがすかさず突っ込む。
「ちょっと智也くん、また自慢話になってるよ」
「おっと、悪い悪い」
話題は自然に、優待の中身や酒の話に流れていく。
場は和やかだった。
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その頃、美玲は自分の部屋で、スマホを眺めていた。
サークル、新歓、株。
最近の楔は、前に進む話題ばかりだ。
(……私、何も知らないままなんだ)
知らないことを理由に、聞かないでいた。
分からない世界を、遠くから見ていただけだった。
美玲は、スマホをぎゅっと握る。
(このままじゃ、置いていかれる)
答えはまだ出ない。
でも――何かを始めなきゃいけない気がしていた。
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舞華の異変
店内を見回すと、舞華さんの姿が見当たらない。
「すみません、ちょっと舞華さん探してきます」
店の奥。
ロングボブにチェックのブラウス、フェミニンな雰囲気の女性と一緒にいる舞華さんが、かなり楽しそうに笑っていた。
「舞華さん、大丈夫ですか?」
「ごめんね~♪ 女子トークしてたら、みるみる酔っちゃって~」
「……どちら様ですか?」
「神流トレーディングクラブ一年、浅見雪菜よ♪
あなたたちのライバルサークル。覚えといてね」
一瞬、空気が張りつめる。
「おい、なんでぬるいサークルと一緒に飲んでんだよ」
「酒がまずくなるぜ」
「そんなことで酒はまずくならねぇよ」
天竜部長が間に入る。
「おいおい、今日は新歓だろ。仕切り直しだ、楽しくいこうぜ」
浅見さんは軽く手を振り、引き上げていった。
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送る決断
それよりも問題は――舞華さんだ。
「だいたい楔、よそよそしすぎるのよ。
なんで“さん”付けなの。早く呼びなさいよ、舞華って」
「……飲みすぎです。帰りましょう」
そのとき、舞華さんのスマホが鳴った。
「楔、出てよ~」
「無理ですって」
「多分、メイドの関さんよ~」
仕方なく電話に出る。
事情を説明し、住所を聞き、タクシーを手配した。
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財閥の現実
門の前で、俺は言葉を失った。
「……なにこれ」
東京ドーム六個分くらいはありそうな、広すぎる敷地。
関さんが駆け寄ってくる。
「お嬢様!? こんなお姿、初めてです……!」
「じゃあ、僕はこれで」
「またね~、楔~」
無邪気な声に見送られ、俺はタクシーに乗り込んだ。
スマホは、もう電池が限界だった。
深い闇の中、車は静かに走り出す。




