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ゆるゆる株式投資物語ー配当と優待が人生を少しだけ変える  作者: 稲毛塔名
大学生編

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10/30

第10話 美玲やきもき!?株投資サークルの門を今、叩く

※本話は【美玲視点/初めての株投資サークル】の回です

夕方。友だちと帰っている途中、私は――楔とばったり出くわした。


「く、楔!? どうしたの、こんなとこで」


「久しぶりだな、美玲。家に忘れ物して取りに戻るとこなんだけど」


「へ、へぇ……」


友だちが私の顔と楔の顔を交互に見て、にやっと笑う。


「じゃあ先帰るね〜美玲、バイバイ〜」


「あ、うん、また明日〜」


取り残されたのは、私と楔。


……久しぶりに会った楔は、なんだかイキイキしていた。

いや、いつも株の話をするときはイキイキしてるけど、今日はそれ以上というか――肌がつやつやしてる。なにそれ。


「? どうした、美玲。うつむいて」


落ち着きすぎてて、気にしてた私がなんかバカみたいじゃない……。


(ここから楔視点)


そろそろ半袖でもいいくらい暑くなってきた神流大学。

俺は槙原、川合とカフェテリアで昼飯を食べていた。


俺は和風きのこのパスタ。槙原は味噌ラーメン。川合は豚丼。


「槙原。ラーメン頼んだのに、なんでそんな残念そうなんだよ。うまそうだぞ」


「大盛り欲しいんだよ。ないの分かってるけど」


「大学出た大通りのラーメン屋で大盛り頼めばいいだろ」


「そうだぞ槙原。味はうまいんだから、不満な顔すんなって」


どうにも会話が広がらず、話題はゼミに移った。


「いや〜ダメだわ。政治行動のゼミ、眠くなる……」


「俺も。最近の政治だからついていけるかなと思ったけどさ」


「楔は、聞くまでもなく熱心に聞いてたみたいだな」


「えっ、お前あれで眠くならないの? 鉄人だな〜」


「昔からああいうのは読んでたから、眠くならないんだよ」


そこへ槙原と川合の友だちが、どやどやと混ざってきた。


「けどあれだな。今日ゼミで言ってた、証券会社登録すると商品券やお金がもらえる法案、うまいよな〜」


「そうそう。もらえるものだけもらって、やらなければいいんだろ」


「株なんて意識高い系がやるもんだろ」


「そんなこともないんじゃない?」


「ていうか、周りじゃ株で負けたって話しか聞かないよな。株ってギャンブルだろ」


「おい、それは言い過ぎ……」


槙原が止めたのに、俺の口が先に動いた。


「……ギャンブルに見えるのは、分かる気もする。確かに深みにハマって抜けられない人もいるし」


「だろ〜?」


「でも、投資って見る人もいる。結局、見方次第でいくらでも変わるんだよ」


「……」


空気が一瞬、固まった。


「“株で負けた”って言うけど、正確には、株の旨味を偶然知って――そのままリスク高いほうに流れたのかもしれないし」


「おい楔……」


槙原の声が低くなる。

それでも、俺は止まれなかった。


「そりゃ老若男女が株をやる世の中なんだから、“意識高い系”の人も当然いる……って、誰か言ってたな」


言い過ぎたか?


「あっ……あっちの席空いてるな。向こう行くわ」


「俺も〜」


二人は逃げるように席を移した。


「……やっちまったな、楔。まあ予想はしてたけど」


「そうだな。株知らない人にペラペラと……父さんみたいにはいかないな」


「気をつけろよ。血の気の多い奴が聞いたら、口喧嘩になるぞ」


「すまん槙原。お前の友だちもいたのに」


「俺はお前が株を真剣にやってること知ってる。でもあれは……言い過ぎだとは俺も思う」


「川合もすまん。友だちの気持ち害したかもしれない」


「大丈夫だろ、多分。……てかさ、楔。お前、株詳しいの?」


「まあ、やってない人よりは」


「ホントか!? 今度、儲かる株教えてくれよ〜」


「そのパターンも正直苦手なんだが……」


株の話をするたびに、俺は説明しすぎる。

誰かを救いたい気持ちと、距離を置かれる現実は、どうやら別物らしい。

株をやってる人と、やってない人。その間には“格差”みたいなものが生まれるのかもしれない。


夕方でも日が長い季節。

今日は夕方から、神流ゆるゆる株投資サークルに参加する。


……長いな。ここからは「ゆるゆるサークル」でいいか。


俺は舞華さんと、サークルの入っている建物の前で待ち合わせしていた。


「楔くん、ごめん待った?」


「いえ、今来たとこです。行きましょう、舞華さん」


「えぇ、楔くん」


部屋に入ると、名前の通り、ゆるい空気が漂っていた。

……けっこう人、多いな。


「おう、収益出てる〜?」


「ん?」


「いや、なんでもない」


「この前も“どの株が上がるか教えてくれ”って言われたよ。俺ら予言者にでも見えるんかな?」


「間違いない。俺も聞かれたもん」


入り口付近でもじもじしている俺たちに、前のほうから声が飛んだ。


「ほらお前ら〜。新入部員も来てるんだし始めるぞ。早速だが、部長からお話があるらしい」


「そろそろ部長を交代してほしいんだけど」


「君島部長、長くやってましたもんね。お疲れ様です」


「次の部長、天竜くんお願いできる?」


「え? 俺ですか〜? いいですよ」


「なら副部長は平林! 頼めるか!?」


「頼まれました」


「じゃあ今日はこれで解散! 新歓いつものとこで18時からな。無理して来なくて大丈夫だぞ〜」


流れが早い。ほんとにゆるい。


「新歓か……舞華さん、どうしますか?」


舞華さんは一瞬だけ迷うように視線を落とし、

それから小さく、でもはっきりと頷いた。


「ちょっとだけなら、いいよ」


────────────────────────────


美玲視点


株の話をしている楔の背中は、

前よりずっと遠くに見えた。


(私……待ってるだけだったのかな)


「好きかどうか」を聞く勇気はあった。

でも、楔の“世界”を知ろうとする勇気は、

持っていなかった気がする。


(分からないからって、逃げてたのは……私?)


その日、美玲はまだ答えを出せないまま、

でも一つだけ、はっきりと心に決めた。


──このまま、何も知らないままじゃ、嫌だ。

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