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包研ぎ職人・常岩のまあまあ奇妙な日々 鳥寿さんへリスペクトを込めて前編  作者: 高瀬 八鳳


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包丁研ぎ職人・常岩のまあまあ奇妙な日々 鳥寿さんへリスペクトを込めて前編

「ひゃあぁ、常岩さん! このひとはいったいどなたさんえ?」


白川町商店街の北入口近くにあるかしわ専門店。驚いた表情の店主夫婦をみながら、常岩つねいわはどない言うたらええのかと迷う。


「ええと……。さっきも言うたように、彼はお二人にアドバイスというか、お話を聞きたいみたいで。あの、ほんまに危険はないので、そこは安心して下さい」


商店街の通路側には、鶏肉を入れるショーケースが並んでいるので、ちょうどいい目隠しになる。お客さんから店内を見た時に、きっと鳥寿さん夫婦と自分の三人で話をしているようにみえるだろう。さっさと用事を済ませて自分の店に帰りたい、と常岩(つねいわ)は思った。


 常岩の前に立つその彼が、一度常岩の顔をちらりと見上げ、それからご夫婦にむかって話し始めた。


「ご挨拶させていただいてもよろしいですか? はじめまして、私はミュージックと申します。ご覧の通り、河童です。正真正銘の河童でございます。常岩さんとは普段から親しくさせてもらってまして、今回もお力添えいただき、この場にまいりました。他の人間の方に見つかると騒ぎになると思うので、ささっとお話を伺い、ちゃちゃっと失礼する所存です。よろしゅうおたのもうします」


「いや、上手に日本語喋らはるなあ。わし、驚いたわ」


「ほんまやね、それに、えらいハイカラな名前したはんな。河童さんが私らに聞きたい事ってなんやろか?」


 二人の案外落ち着いた様子に、河童は嬉しそうに話を続ける。


「ありがとうございます。実は、河童界でも、鳥寿さんご夫婦の仲の良さは有名でして。お店を六十四年間、お二人で切り盛りされてきたとの事。そして女将さんはおはようさん、おかえりいと、お店の前を通る方々に声かけをされて、多くのひとを元気にされる事で有名ですね。ご主人はいつもニコニコ笑顔でいらっしゃる。毎日ずっと一緒にいながら、長年仲良くされている秘訣を、ぜひお聞きしたく伺いました」


「へえ……河童のみなさんの間でも、うちら有名なん? なんや照れるわあ」


 女将さんの、嬉しそうな笑みに、常岩は少し肩の力を抜いた。


「そやけど、秘訣言うてもなあ。わしらそんな特別なことは何にもないけど」


「まあ、この人はようきばって働いてくれはるえ。それから、えらい優しいんよ。うちはただ、この人と一緒にがんばってきたん。そしたらあっという間に、六十四年たったのよ」


「なるほど、ご主人がとても優しい方なんですね。そして大変働き者だ、と。あ、ご主人はどうですか?」


「わしは、そやね。こんなべっぴんさんがお嫁にきてくれはったと、えらい嬉しくてね。毎日嬉しくて、一生懸命に働いて、ここまでやってこれた。もう感謝しかないよ」


「すごい、お二人は今もLovebirds、失礼、ラブラブなのですね。素晴らしい! ああ、やっぱり諦めずに常岩さんにお願いしてよかった。お二人の言葉から、溢れんばかりのエネルギーを感じます。本当にこうして、実際にお会いできて光栄です。実は、私は先日、妻とケンカしまして。彼女に、鳥寿さんから夫婦の在り方について学んでくるまで家に帰るなと言われまして」


「それは……。早よ帰って、まずは奥さんに謝らんとな。ケンカの理由はわからんけど、たいてい奥さんが正しいもんや。わしも、いつもわしから謝っとるよ」


「そうそう、どっちが正しいとか間違っているとか、重要ちゃうねん。とりあえず男はんが奥さんにごめん言うて、よおよお話おうたら、たいてい丸く収まるもんよ。あんたから先に、ちゃんと謝ってコミュニケーションとって、仲直りしなあかんよ」


「ご教示いただき、心より感謝申し上げます。はい、まず私から妻に謝り、今日、お二人とお話した事を伝えたいと思います。いやあ、誠に素敵なエネルギーをいただきました。人間の、このハッピー全開の生命力が、私達河童にとっては何よりの……」


「ゴホン! えっと、そろそろ通行人が増えてきそうな気配やけど……」


「常岩さん、かしこまりました。では、今日のところはこの辺で。あ、妻への土産に、地鶏のモモ肉を二枚買ってもよろしいですか?」


「よおし、わかった。すぐ用意するしな」


 ご主人が冷蔵庫から取りだした地鶏を切りとり、目方を量る。


「うちらも長年商売してきたけど、河童のお客さんははじめて。美味しかったら、また買いにきてや」


「私が買いに来てもよろしいのですか?」


「勿論! お客様はどなたさんも大歓迎。あんたが来にくかったら、常岩さんにかわりに来てもろたらええし」



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