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8 偽ヒロイン爆誕

「あなた、むやみやたらに令息に声をかけるものではないわ」


学園に入学して三ヶ月程経ったある日のこと、ピンク色の髪のツインテールが可愛らしいアイラ・ブラウン男爵令嬢は同じクラスの女子生徒何人かにそう言って声を掛けられた。


「でもあたし、親から学園で嫁入り先を探してくるよう言われていて──」


それを聞いた女子生徒は顔を見合わせた。

例えそう言われていても口に出すものではないし、婚約者のいる令息にまで手当たり次第に声をかけるものでもない。

大体不特定多数の令息に声をかける令嬢を嫁に、という者は少ないだろう。どんな令息でも気にしないというのなら別だが──


「普通、気になる殿方を絞ってから()()するものではなくて?」


何でこんなことを教えないといけないのか。そう思いながらも親切心から一人の令嬢がアイラにそう伝えた時──




「ヒロイン、キターーーーー!!!」


アイラ・ブラウン男爵令嬢は『攻略』という言葉をトリガーに、突然前世の記憶を思い出したのだった。




(ハイ、『ひろいん』四回目頂きマシタ~)


突然の叫びに唖然とする令嬢達の横を、聞き慣れてしまった単語に辟易しながらミルク・ガレット子爵令嬢が通りすぎていった。


「ヒロインには定番のピンクの髪と瞳。可愛い顔立ち。

第一王子は卒業しているけれど第二王子とその婚約者(悪役令嬢)は在学中。何のお話かはわからないけれど、あたしはヒロインだったのね。通りでかわいいと思っていたわ。

きっと()()()()に過ごしていれば王子様と出会って悪役令嬢達に虐められ、王子様と結ばれるはずよ!」


令嬢達は意味不明な言葉を呟きガッツポーズをするアイラを、恐ろしいモノを見るように遠巻きにした。


その日から第二王子殿下に話しかけようとしては周りの生徒にさりげなく阻止される男爵令嬢の姿が目撃されるようになった。


下手に関わって巻き込まれてはかなわない。もう周りの令嬢はアイラに忠告することを諦めたのだった。






その日の放課後、私とシャルロットの余暇が重なったため2人して読書室へ向かった。

ミルクさんは大体図書室の奥で一般生徒が好まない本を読んでいるので、約束がなくともそこで確保することが出来る。

いつもの読書室で一通り勉強を終え、お茶会の準備を調える。

学園内で侍女を連れ歩くことは認められていないため、高位貴族の令嬢は在学中気の合う下位貴族を侍らせて世話をして貰うものである。他の学生は恐らく身分的にミルクさんがそういった役目を担っていると思っているだろう。

ミルクさんが私たちと読書室で過ごすことを受け入れたのもこの不文律があったからだ。

 

因みに私もシャルロットもそういったことを好まない。

前世で自炊──とは言え無いが簡単な料理くらいなら作っていたのだ。今世でも自分達が飲む分程度のクオリティでよければ紅茶くらい淹れることができる。


そうして三人が着席したタイミングでシャルロットが言った。


「最近第二王子殿下の周りが賑やかな様ですわね」


「ピンク色の髪の男爵令嬢でしょう?確か一年生のアイラ・ブラウンさんでしたかしら。弟が頭を抱えていましたわ」

ことあるごとにフリュイ殿下に話しかけようとするらしく、阻止するのが大変だと。


「そう言えば、サントノーレ侯爵令息は殿下の側近でしたわね」


まぁ殿下に危害を加えようとするわけでもないし、学園内では建前上身分は関係なく平等となっているので、話し掛けようとする程度ではきつく言えないらしい。


「あぁ、ピンクの髪と言えば」


思い出したようにミルクさんが面白い情報をもたらしてくれた。


「その方、先日ご友人らしき人達と話している時に『ひろいん、きたー』と訳のわからないことを叫んで周りを困惑させていましたよ。お二人のお仲間ですか?」


私とシャルロットは顔を見合わせる。


「転生者かしら?でもその様子ではこの物語のことはご存じないようですわね」


「フリュイ殿下を攻略出来るかしら。あまり他人に興味の無い方だから、あの方の琴線に触れるなにかがあれば、チャンスはあるかもしれないけれど」


私はいきなり訪れたフリュイ殿下の恋のチャンスに、ちょっとウキウキする。


「だけどその方は物語を知らないのに殿下攻略に動いているということでしょう?何故ご自分をヒロインと思ったのかしら」


名前がお菓子でもなんでも無い彼女はモブ以外のなんでもない。

この物語を知らなくてもお菓子の名前に詳しければ察することは出来たかもしれないけれど。


「髪がピンク色だからでしょうね。()()()()()()の定番よ」


──察することが出来るくらいなら、ピンク髪=ヒロインなんて短絡的にはならないか。


「でも、そんな単純な思考の持ち主なら、私に何か仕掛けてくるかもしれないわね」


だってそれもまた定番だもの。

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