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3 信じてくれた理由

「──というわけで、私もミルクさんと出会って数日なのです」

「物語のヒロインのイメージと違いすぎて、なんと言って良いのかわかりませんわね。ふふっ」


私達3人は図書室に併設された読書室(個室)に入っていた。

ここは読書だけでなく勉強会や資料まとめ、小さな会議にも使える部屋である。

簡単なキッチンもついている上に防音にもなっており、周りを気にせずゆっくり話すことが出来る使い勝手の良い部屋で、空いてさえいればいつでも利用することが出来る。

私達二人は一通り前世の何気ない話で盛り上がった後、本題に入った。

え、ミルクさん(ヒロイン)?横のテーブルで読書をしていますわ。


「私が覚えている物語の内容は──」

ダックワーズ公爵令嬢が自身の記憶を探るように宙を見ながら口にする。


『溺愛は満月の夜に』

ヒロインは家の為、領民のために学園で学ぶ、ピンクブロンドの可愛らしく健気な子爵令嬢。

婚約者がいるにも拘らず彼女を愛してしまった第一王子と第二王子は、彼女を手に入れるため争うことになる。

一体どちらの王子がヒロインを手に入れるのか。

満月の夜、月を見上げて立つヒロインを彼女に選ばれたどちらかの王子が後ろから抱きしめる──


「──さあどちらの殿下でしょう!?」


「あなたもそれだけデスカ?」


ミルクさんは、その外見の可愛らしさで女性の私でさえも庇護欲を掻き立てられるというのに・・・もう少しきゅるるん?な感じでお話してくれるといいのにと思う。

しかも「そんな不確かな情報で自分を巻き込もうとしていたのですか?」と、目と言葉の端々が言っている──お姉さんは非常に残念です。


「ええ、これだけですわ」


ダックワーズ公爵令嬢は気付いているのかいないのか、聖母のような微笑みで返す。

私もそうだが彼女も細かいところを一切思い出せないのだという。


それなのに現実をしっかり見ているタイプのミルクさんが、何故転生なんて突拍子もない話を信じてくれているのかが意外だった。

私がそう尋ねると、『ヒロイン』と言うこの世界に無い言葉を三回も全く違う人物の口から聞いたことと、不敬と取られてもおかしくないミルクさんの言動を怒らずに受け入れていることから普通の貴族令嬢とは根本的に何かが違うのだと思ったこと。

そして私達が嘘を付くような人間ではないと感じたからといわれた。


──え、ちょっと嬉しい。


ちなみにミルクさんは学園に入るために王都に来たが、それまでは他の貴族と関わること無く田舎の領地で過ごしていたせいで口が悪くなったのだと話してくれた。

それで()()口をついて言葉が出てしまうのだと。

更にご両親を言葉で納得させるために()()()()()()()()()()()()()()畳み掛けるように話すようになったとも・・・一体どんな家庭環境なのかしら。


そして、そんなミルクさんは今眉間にシワを寄せ心底わからないといった表情をしている。


「そもそもあなた方ほどの令嬢が、何故それだけの情報でここがその物語の世界だと確信して動いておられるのですか?」


そうね。疑問に思うのも仕方がないわ。


「それは主要登場人物や国の名前ですわ」

ダックワーズ公爵令嬢の言葉に私も頷く。


「ダックワーズ公爵令嬢の”シャルロット”と”ダックワーズ”に私の”ショコラ”と”サントノーレ”、王太子殿下の”フォンダン”に第二王子殿下の”フリュイ”、国名の”オランジェット”・・・他にも何家かあるけれど全て前世のお菓子の名前なのよ。物語には一切お菓子は出てこないのだけれどね。個性的な名前ですぐに気付いたわ」


私が話し終わると、家名で呼ばれたことが気になったらしいダックワーズ公爵令嬢から「あら、私のことはシャルロットと呼んでくださいませ」とにっこり笑って言われたので、お互いに名前で呼び合うこととなった。

何故かミルクさんには私たち()名前で呼ぶことは了承してくれたけど、私たち()名前で呼ぶことは食い気味で断られてしまった。


そんなミルクさんでもお菓子の話は気になるらしく「私の名前もお菓子なんですか?」と興味津々で聞いてきた。


「そうね、ガレットと言うお菓子よ。食事としても食べられていたわ」

その姿がヒロインらしく可愛らしかったので、微笑ましく思い答えたのだけれど


「へぇ~、じゃあミルクはどんなお菓子ですか?」

そう言って期待に満ちた目を向けるミルクさんに


──牛乳よ。


とは言えなかった。

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